第21話 無限回廊②

「はっ……? いやいやいや! そんな訳ないじゃん、さっきまでこの道通れば出口があったんだよ!?」


「俺もそう思ってた。でも今は何故か塞がれてんだよ……」


 迷路のような場所だと勝手に思い込んでいた。だから印さえ付ければ戻れると思ったがまさか道ごと消えるなんて考えてもいなかった。


「ならぶっ壊せばいいじゃん! このスチームブレードならこんな石の壁くらい……ありゃ?」


 派手な音ともに破壊されるが現れたのは出口ではなく石の壁。


「もう一回やれば!」

 

 振ろうが振ろうが結果は変わらない。どれだけ削ろうと出口は一向に見えない。


「えぇどうなってるの!?」


「閉じ込められたのは確かだ。だがどうやって出口を……」


「切り替えましょうユウト、レシリー、ここが行き止まりなら戻ればいい。もしかしたらあのスライムエリアの先に何かがあるかもしれない」


 ユリエスの言うとおり絶望していても何も起こらない。

 とにかく必死に逃げてきた道を引き返し何かヒントは無いかと探し続ける。


「ねぇマスター……なんか変だよ」


「レシリー?」


「よく分からないけど……凄く大きい心臓みたいな音がするんだ」


「心臓……?」


 他にモンスターがいるのか?

 だが大きいってどういう意味だ……?

 

 そんな疑問を抱きながらその後も進み続けようやく長い長い一本道の廊下から抜け出す。


「えっ?」


 一気に広がる空間。だがそれは俺達を啞然とさせた。


 至るところに階段があり道がある。上も下も右も左も道と階段だけ。

 ユリエスは驚愕しレシリーは興奮の余り声を上げる。


「おぉ!?」


「何なんだよこれ……!?」


 まさかここに出口に繋がる道があるのか?想像するだけで気が遠くなる。

 

「どうするマスター? とりあえず全部歩いてみる?」


「終わる前に餓死する」


「じゃあ全部ぶっ壊すとか!」


「脳筋過ぎる」


「全部否定!?」


「お前の意見極端過ぎるんだよ!」


 確かに否定ばかりになっているがレシリーの意見はさすがにブッ飛び過ぎてる。


「ならマスターは何か案があるの?」 


「例えば構図だとかを覚えるために目印をつけて歩くとかだ」


 迷わないように今いる位置に印となる魔法陣を設置しその場を後にする。


 無闇に歩き回っても足がパンパンになるだけだ。

 必要最低限の動きで体力を温存しながら印になりそうなモノを探し続ける。


 ……と言ったのだが進んでも進んでも階段と道だけ。もう何十分経っただろうか。

 変わりもしない光景に段々と飽きてくる。


「ねぇマスター全然終わらないよ!」


「おかしいな……周期もヒントも一切ないなんて」


 回ればルートの仕組みや構図は分かると思ったが不規則な変化の連続で全く掴めない。


 まさに無限回廊という言葉の残酷さを身に沁みて味わっているような感覚だ。


「おかしい……敵がいない」


 唐突にそう呟き辺りを嗅ぎ回るユリエス。


「私の鼻にはずっと敵の反応がある。それも全体の方向から……でも敵がいない」


「スライムみたいに隠れてるのか?」


「いやスライ厶は数まではっきりと認識出来た……でも今回は数が分からない」


 敵はいる。でも数は分からない。


 ユリエスの鼻はこれまで正確に敵の数まで当てている。

 妄信と言われるかもしれないがその鼻の精度を俺は信じている。


 だが今回は数を当てられていない。

 何故だ……?


「あぁもう嫌な不協和音が耳に響いてるよ! 全然抜け出せない!」


「ぐっ……どうすれば……この鼻の違和感は何なの……?」


 ここで他の冒険者のように死ぬか?

 いや違う……まだ可能性はあるのに心の底から諦めてしまったら駄目だ。


 考えろ。この無限回廊を攻略する方法を。


 謎解きゲームで鍛えたはずだ。些細なことでも全てを疑う。何でもいい、とにかくおかしかった所を調べるんだ。


 考えろ……考えろ……。

 

「っ!」


 よく分からないけど……凄く大きい心臓みたいな音がするんだ___。


 私の鼻にはずっと敵の反応がある、それも全体の方向から……でも敵がいない___。


 関係のないような2つの言葉。

 

 何かが頭を走り2つの言葉を段々と絡ませていく。

 脳が俺に訴えかけている。細胞はそれに従えと鼓舞している。

 

 でもこの結論は……あまりにもイカれている。


 いやその理性が邪魔をしていないか?

 いつから俺は自らの常識が異世界の常識だと考えている?


 そんなもの……壊れればいい____。


「レシリー壊せ」


「えっ?」


「ここ一帯を全てぶっ壊せ」


「えっいいの!?」


「あぁ、気の済むままに好きにやれ」


「いいねぇそれでこそ僕のマスターいい音奏でてるよ!」


 首輪を外された狂犬を止められるものはいない。


 リミッターが解除されたレシリーは全身で狂喜する。

 これまでのストレスを発散するが如く大剣を振り回し破壊していく。


「壊れろ壊れろ! 破壊こそ正義さ!」


「ユ、ユウト貴方何を……」


「見てろ、俺の予想が当たってるなら起きるはずだ」


「アッハハハ!壊せ壊せ壊せ壊せ!」


「もっとやれもっとだ!」


「言われずともやってあげるよォ!」


 破壊され石の壁は徐々に抉られていく。

 そして遂に変化が訪れる。


 ゴゴッ……ゴゴゴゴゴッ……!


「来た……!」


「うぉっ!? マ、マスター動いてるんだけど!?」

 

 地響きのような鈍く大きい音。

 バラバラに配置されていた壁や床は機械のように不規則に大きく変化していく。


「な、なんなのこれは!?」 


「やっぱりだ……この建物は


「はっ……?」


 キョトンとしながらこちらを見つめるユリエス。

 

「全方位からの生体反応、数の分からない敵……この建物自体がモンスターなら全て辻褄が合うんじゃないか?」


 内部にいるなら数が掴めないのも全方位から感じるのもそれなりの説が立てられる。


 建物の内部が変化したのも危険という意識があるから。無機質じゃない。


 根拠なんてないが可能性は高いはずだ。


「馬鹿げてる……でも無謀ではない。可能性としてはある」


「乗ってみるか?」


「えぇ、でもどうするの?」


「簡単な話だ。既にレシリーが提示してくれている」


 馬鹿げていて絶対にないと思っていたレシリーの考え。

 でもこの説が正しいなら一番有力な方法になるはず。


「この建物……全部ブッ壊すんだよ!」



 

 





 

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