第20話 無限回廊①
「ここが……無限回廊」
昨日の神殿よりも大きく広い城。無機質で不穏過ぎる空気。
多分ヤバい。ルイスさんが言っていた通りどうなってもおかしくなさそうだ。
「よしっ行くぞ」
だからと言ってここまで来て怖気付くとか口達者にも程がある。
ユリエスもレシリーもいるんだ。運任せの魔法も多分役に立ってくれるはず。
中に入ると底知れぬ暗闇が広がっていた。明かりなんて1つもない。正に暗闇。
「フラッシュ・トーチ」
ユリエスの光魔法でどうにか辺りを照らす。壁や床はボロボロで息苦しい。
「寒っ……それに何か臭うわね、死臭?」
「うぇ……嫌な音響いてるよ……」
不快な臭いが充満している廊下を歩くと最終的には広いドー厶のような場所に行き着いた。
鼻孔を抉るような刺激さ。鼻を摘んでいないと気分が悪くなる。
「何なんだ? まさか死体の山でもあるのか?」
「物騒なこと言わないでよ……そんなのある訳が「あった!」」
「「えっ?」」
「ねぇねぇマスターこれ死体だよね?」
レシリーが何かを広い上げる。奇妙な穴が空いた白い物体。
しっかり残っている歯。手のような骨。バラバラに砕かれている肺の骨。
つまりは骸骨。レシリーがいる床には腐敗した死体やら骨がたくさん転げ落ちている。
「この死体の数は……!?」
「ねぇ見てよマスターこれ骸骨だよ!」
「おいバカ持ってくるな!?」
何の死体かも分からない骨を滅茶苦茶笑顔で持ってくるなグロ過ぎて見てられない。
「しかし何なんだこの山の遺体は……」
死体には古びた剣に錆びた鎧を装着した者。ビリビリに破られた白い服。
モンスターに殺られたのか?
「ユリエス、周りにモンスターはいるか」
「いるわ、でも待ってこの数は……37……45……いや52匹いる!」
「52!?」
「かなりの数よ。2人とも臨戦態勢!」
何処に敵がいる?
辺りは一面古びた石作りの壁しかない。
唸り声もしない不気味な静寂。どこから敵が来るか分からない恐怖。
「何処にも敵なんていなくない? 辺り一面壁だらけだよ」
「ユリエス本当にいるのか?」
「私の嗅覚が間違えるはずがない。確かに反応はあるわ」
「一体何なんだ……ん?」
壁によりかかろうとしたその時、ムニュと柔らかい感触が背中を伝う。
えっ柔らかい?
石って硬いはずだよな?
勘違いにしては感覚が鮮明過ぎる。
背中の違和感が拭えきれず恐る恐るその壁に指を触れる……。
「なっ!?」
石の壁は水のようにぬぷっと指を包んでいく。水滴が落ちたように壁全体に振動が広がる。
「ユリエスこの壁おかしいぞ!」
(まさかユリエスが感知した敵って……)
この壁そのものがモンスターなのか?そうと考えてればユリエスの嗅覚にも説明がつく。
「ハッ!」
近くにあった大きい石を投げつける。その瞬間に空間が激しく揺らぎ始めた。
1つ1つの石のブロックがウネウネと動き遂には飛び出し円形に変化する。
「これは……スライム?」
「うわぁかわいい!」
目を輝かせて見つめるレシリー。
丸く柔らかそうな見た目。紺一色の色彩。どう見てもスライムだ。
数えると52匹。ユリエスが予測した通りの数だ。
「何だよスライムかよ……」
スライムといえばRPGでいう最弱の敵。まとまな攻撃力もなくただプレイヤーの僅かな経験値になるだけの可哀想な敵。
さっきまで何がいるのかとビビっていたがスライムなら何も問題はない。
「焦らせやがって。直ぐに倒して」
「待ってユウト、スライムだからって油断しないで、このスライムもしかしたら……」
「何言ってんだよ。スライムなんて油断していても倒せ」
ズガァァァァン!
「えっ?」
突如鳴り響く破壊音。パラパラと音がする方向に目をやると鋭利なモノが壁を破壊している。
恐る恐る振り返ると……先程まで可愛らしく丸まっていたスライムはハリネズミのように鋭利に変化していた。
「なっ……!?」
「やっぱりこのスライム、シャープスライムよ!」
「シャープ……?」
「見た目はスライムと変わらない。でも怒ると柔らかい肉体を硬くし鋭利になり対象に襲いかかる」
「それって……」
「僕達ヤバいやつ?」
「そうね……だから……逃げるわよ!」
しまったスライムだと思って完全に油断した。次々とスライムは俺達を狙って鋭利なモノを射出させる。
「うおっ!?」
逃げて避けるのが精一杯。来た道を必死に戻りスライムの追跡を交わそうとするが。
「ってここ一本道じゃねぇか!」
逃げようにも逃げ道がない。長い長い一本の道。隠し通路などは見つからず壁も天井も床も同じ石のタイル。
「マスターあのスライム僕が振り払うよ!」
「出来るのか?」
「うん、スチームブレイドで半径10メートルにいる敵を全員真っ二つにする!」
「それ俺らもヤバいじゃねぇか!?」
「あっ……」
「ユウト、あのスライムには水よ!」
「水?」
「ロックスライムは水に弱い。水魔法は貴方しか使えない!」
運任せの危険なギャンブル魔法。だがこのままいても串刺しにされるだけ。とにかくやるしかない。
「頼むいい具合の強さで出てくれ、スプラッシュ・ドライヴ!」
放たれる水の波動砲。轟音と共にスライム達を一網打尽にする。
「うおっ!?」
だが必要以上の威力に俺の身体も反動で吹き飛ばされる。
「いってぇ……」
「す、凄いマスター! 今の魔法どうやったの!?」
「さぁな、俺にもまだ分からない」
「えっ?」
相変わらず威力が不安定だ。まだショボいパターンじゃないだけマシだが強すぎても身体が追いつかない。
「ありがとなユリエス」
「別に偶然知っていただけよ。あのスライムのことを」
「偶然でも何でも助かったよ」
しかしここは思った以上に危険だ。入って直ぐにあんなヤバいスライムと戦ったのだ。勢いでどうにかなる場所じゃない。
「一回戻って立て直そう。思ってた以上にここは危険……あれ?」
「ユウト?」
「ユリエス、俺達が通ってた道は一本道だったよな?」
「えぇ曲がったりなんてしてないわよ」
目の前には石の壁。おかしい進み続ければ出口があるはず。
だが曲がった記憶などない。しっかり者のユリエスの発言がそれを裏付けている。
(まさか……)
脳裏に過る最悪の事実。
俺達は道を間違えたんじゃない。
「出口が消えた……!?」
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