第19話 オンリー・チャンス

 俺と同じような見た目?

 どういうことだ。


「そう確か貴方のように黒髪でそこにいる銀髪さんのような人を引き連れていました。それに上級魔法派顔負けの魔法の実力者でしたよ」


「私と同じような……?」


 黒髪でユリエスのような見た目の娘が仲間。強力な魔法。そして女性という言葉を知っている。

 確かに今の俺にそっくりだ。


(まさか……)


 あの時の神様との会話を思い出す。


〈死を迎える者は常に決められており人口の増減を抑えているのじゃ、しかし君の希に予定にない死を迎える者もいる〉


 あの言い方は転生した人が俺以外にもいると解釈してもおかしくはない。

 もしそうだとして俺と同じくこの世界に転生したとしたら?


(俺以外の転生者……)


 3年前ということは俺よりも前に転生していることになる。ということはもしかしたらその人ならこの世界の秘密について知っているかもしれない。


「ユウト?」


「ユリエスこの時間は無駄じゃなかったよ」


 ようやく鍵を掴めてきたのかもしれない。この世界の謎を解く方法が。


「ルイスさん、その人は今何処へ?」


「すみません今何をしてるかまでは……でも最後に話した時は無限回廊に向かうと言っていましたね」


「む、無限回廊?」

 

 何だその物騒な名前は。とんでもなく危なそうな雰囲気が漂っている。


「西の彼方にある城の遺跡のことです。名前の通りそこに入った者は回廊から抜け出せず永遠に彷徨うとか」


「そんな危ない場所にその人が?」


「目が眩むほどの財宝が眠っているという噂もありましてね。恐らくはそれが欲しかったのかなと」


 財宝目当てか……。


 その人はよほど金にがめつかったのだろうか。俺はどれだけ財宝があろうと行こうとは思わない。


「無限回廊は冒険者の中で禁忌とされている場所。ここ3年でそんな場所に向かった命知らずは例の黒髪の人くらいです」


「行きます」


 でも今回はどんな財宝よりも見つけ出したいモノがある。


「えっ?」


「なら俺行きます」


「ほ、本気ですか?!」


「えぇその俺に似た人の手掛かりがあるのならば」


 ここで怖気づいてたら多分その先に進めない。世界の謎から目を背けて生きる辛さには耐えられないと思う。

 そんなことになるから一か八か仕掛けていった方が後悔しないはず。


「どうなっても……保証は出来ませんよ? それでもいいんですね?」


「もちろん、ユリエスは?」


「好きにしなさい。別に何かしたいことがある訳でもない。貴方がそうしたいと思うなら私はついていくだけよ」


 口調は違えど根に潜める感情は変わっていない。迷いなしにユリエスは俺の提案を受け入れた。


「はぁ……分かりました。クエスト紹介所には私から連絡しておきます。また何かあった時の為に一応兵の派遣を国にお願いしておきます。貴方の名前は?」


「俺はユウト、こっちはユリエス、どちらもしがない魔法派です」


「ユウトさんユリエスさん……しつこいようですがあの本当に行かれるんですか? 自殺願望ならいい精神治療魔法を」


(自殺願望って……)


 正気の沙汰じゃないんだろうな。死に急いでると思っていそうなルイスさんの瞳。

 でも正気にしがみ続けても多分前には進めないと思う。


「レシリーはどう反応すると思う?」


「あの戦闘狂がそんな危ない橋に怖気づくと思う?」 


「絶対にないな、多分「うわぁ!最高に面白そうじゃん!」とか言うだろ」



* * *



「うわぁ!最高に面白そうじゃん!」


 ほらな。一語一句予想通り。

 無限回廊という言葉に目をキラキラと輝かせ行きたい行きたいと必死に訴えてくる。


「じゃあ行こうよマスター! その無限何とかに!」


 ルイスさんが手配してくれた馬車に乗り王国を再び離れる。


「いやぁ楽しみ楽しみ! ねっユリエス?」


「貴方ねぇ……乗った私も大概だけどかなり危険な場所に行くのよ? 少しは危機感持ちなさいよ」


「そんなピリピリしてたら人生楽しめないよ? 何事も楽しんだもん勝ちだよ! ねっマスター?」


「えっ?あ、あぁ」


 正直楽しんで無限回廊に挑もうと思うほどのポジティブさはない。

 それよりも疑問を解き明かしたいという気持ちが俺の心を動かしている。


 昔から変にこだわる部分があった。


 アリの行列の行く末を見たいだとか、マジックペンでタワー作ったりだとか。


 くだらないことでも気になったり興味が湧いたことにはとことん突き詰める。

 周りからは「変わり者」だと言われ親からは「子供染みたことは止めろ」と言われていた記憶がもう懐かしい。


「ありがとな2人とも。俺のワガママに付き合ってくれて」


 そのこだわりに2人を巻き込んでしまった形。受け入れてくれたとはいえ申し訳なさがある。


「何言ってるのマスター、僕はマスターのやりたいことに乗っただけだよ」


「私も同感、ここまで来たんだから後はなるようになれよ」


 この2人を仲間にして良かったと心から実感する。

 俺を信頼して俺についてきてくれるんだ。俺も覚悟を決めてやってやる。

 

 

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