第18話 出会いは運で出来ている。

「……きて……起きて」


 何だこの声?俺を呼んでる?


「……起きて……起き……なさい」


「……きろ……起ーきーろ」


 1人じゃない2人の声。曇っているが確かに聞こえる。

 多分ユリエスとレシリーだろう。あと5分だけ寝かせ____。


「起ーきーろー!」


 ドズッ!


「ぐぶぇ!?」


 腹が抉られるような衝撃と痛み。眠気はブッ飛ばされ思わず飛び起きる。


「なななな何だ何だ!?」


「エッへへおはようマスター! どう僕のボディーブロー起こしは?」


「起こす為にそんなことする奴がいるか!」


「ここにいるけど」


「屁理屈を言うな!」


 最悪の朝。こんな痛い起こされ方されては昨日の心地よさは帳消しだ。


「ったく溝に入れやがって……」


「おはようユウト。寝癖立ってるわよ早く整えなさい」


 そんな俺を見てツンッとした口調で話すユリエス。昨日の天使のような優しさはなくいつも通りに戻ってる。


 でもそれもギャップということで愛嬌だと思うとよりユリエスが愛おしく感じる。

 

「悪いなちょっと昨日の夜は……」


「昨日の夜は?」


「いやなんでもない」


 起きてたなんてバレたら多分恥ずかしさからブチギレられて腹蹴りの刑だ。 


 ツンデレという属性の扱いはまだ全ては分からないが接し方は多少は分かってきた。


「それで今日は何するのマスター?」


「ちょっと出掛けてくる。ユリエスは来てくれ。レシリーは自由時間」


「えぇ〜僕も連れてってよ! 何処に行くか知らないけど」


「ダメだ、好きに歓楽街でも回ってろ」


 ユリエスはともかくレシリーを連れていったりしたら城中にうるさい声が響き大迷惑になることは大抵予想がつく。 


 明るいのはいいが調べごとの際にそれは集中できなくなるだけだ。


「レシリー留守番頼んだぞ」


「ちょマスター!?」


 駄々をこねるレシリーを無視し城へと向かう。しかしこの国はかなり広い。

 昨日で大体は回れたかと思っていたが全くそんなことはなかった。


「ここか」


 近くで見ると余計に大きく感じる。芸術的な設計。白に統一された外壁。

 俺がイメージしていたお城よりもはるかに綺麗で豪華だった。


 大図書館へは銀貨1枚で入場出来るらしい。金取るのかよと思ったが盗人対策には当然か。


 平和過ぎる日本のせいで感覚が麻痺してしまっている。


「マジかよ……」


 顔を見上げてしまうほどの帯びたしい本の数々。見てるだけで気分が悪くなる。

 

「悪いなユリエス、俺が文字読めないせいで突き合わせてしまって」


「別にいいわよ。でも勘違いしないで貴方が文字が読めないから仕方なくよ。仕方なくだからね!」


「はいはい分かってるよ」


 ユリエスには申し訳ないが暫くは翻訳役として付き合ってもらわないと。 


「それで何を探すの?」 


「まずは人体の構造」


 とりあえずは身体の構造から。もしかしたら男でも前世とは作りが違うかもしれない。


 と思ったのだが……。


「……同じだ」


 図を見ても全て同じ。アレがあって女性よりも筋肉質な普通の男。骨の構造も特に変わった部分はない。

 ユリエスの説明を聞いても特に変わった所はなかった。


「じゃあ歴史なら!」


 歴史書なら子供の作りだとか天使の秘密だとか女性についてだとか色々書かれていると期待したが。


「ない……」


 全くない。あるのは別に興味のないフリラード王国の歴史と戦いの記録ばかり。

 閃華のメーデー、喪失の水都などよく分からない単語のオンパレード。


 ただユリエスから歴史の授業を受けたみたいな形になった。


「何で1個もないんだよ!?」


「ユウトまだ探すの? そろそろ3時間経つわよ……」


 もう100冊くらい読み漁った。成果はゼロ。ヒントになりそうなものすらない。

 ここまで本があって一向に情報が見つからないってどういうことだよ!?


「あぁ……止めだ止めだ。これじゃ拉致があかない、すまないユリエス今日はここで「お困りですか?」」


「「ん?」」


 退散しようとする俺達を呼び止めたのは高くユリエスのように綺麗な声。


「っ!?」


 振り返った瞬間、目に写ったのは水色のロングヘアーと十字架が刻まれた瞳。

 ユリエスよりも大人な体型だが華奢で肌は白く女性に見間違えるほど。


 白い洒落た衣装を身に纏い胸元には金色の紋章が装着されている。


「めっちゃ綺麗だ……」


「ちょ!? ユウト!」 


「いっ!?」


 思わず口に出してしまった俺の髪をユリエスは強引に掴み頭を無理矢理下げさせる。


「ユ、ユリエスいきなり何だよ!」


「それはこっちの台詞よ! 上級魔法派の人にそんな軽い口調で話す人がいるか!」


「上級魔法派?」


「魔法派の僅か1パーセントしか存在しないAランク揃いの選ばれし魔法派たちよ!」


「それって……もしかして偉いやつ?」


「決まってるでしょ! 失礼な態度取れば首がブッ飛ぶわよ!?」


「首!?」


 そんなに偉い人だと分かった瞬間、穴という穴から変な汗が流れ始める。

 しまった気を抜いていたせいでかなりフランクな口調になってしまった。


「す、すみません!馴れ馴れしい口調で!」


 もうとにかく謝るしかない。いくら強力な魔法が使えるとはいえ王国の者と争えばヤバくなることは想像つく。

 どうか許して「いいですよ」


 そうだよな許しくれるわけ……えっ?

 

「怒って……ないんですか?」 


「はい、そもそも怒っていませんし……いや寧ろ綺麗と言われていい気分というか」


 華麗で真面目そうな見た目とは裏腹にフランクな口調。少し申し訳なさそうな顔を浮かべながら微笑んでる。


「ごめんなさい。いきなり話しかけた私が悪いですね、そっちの白髪の貴方も顔を上げて?」


「いいんですか……?」


「大丈夫大丈夫、そんなことに怒る魔法派なんてほんの一部ですから」


 緊張していた身体が一気に脱力する。良かったここで詰まなくて。

 

「あっ申し訳おくれました。私はルイス=グリフォン、こんなですが上級魔法派でありランクはAです」


 胸にある黄金のバッチが多分彼の地位を示しているのだろう。

 ユリエスもそれを見た途端に顔色が変わった。 


 それにしてもめちゃくちゃ綺麗だ。ユリエスとかレシリーとは違う。大人の美しさ。

 でもこの人も……男なんだよな?


「ちょっと気になりましてね。そんな本を何冊も重ねてまで本を読んでいるのはとても熱心な勉強家だと」


 集中していたせいで気付かなかったが積まれた本は俺の身長を軽く越していた。


「あぁいや……勉強家というかちょっと気になっていたことを探していただけで」


「探していたこと?」

 

 この人にもダメ元で聞いて見るか。


「女性って知ってます?」


「ジョセイ? そんな言葉聞いたことが……」


 やっぱりか。王宮の人ですら知らないとなればもう概念がないのは決定的だ。


「あっありますね!」


 そうそうないって……ん?


「えっある!?」


「はい。3年前ある魔法派の方からそのような言葉を」


「誰ですかそれは一体! どんな格好していてどんな見た目で! どんな奴で!」


もう冷静ではいられない。無意識の内に肩をガシッと掴んでおり質問攻めをしていた。


「ま、待って待って! 教えますから」


「あっすみません……」 


「確かその人はそう、をしていました」


……………えっ?

 




 



 



 

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