第17話 ボーイ・ミーツ・ボーイ

 突然のブッ飛んだ提案。すぐそこまで来ていた眠気は何処かへ消える。


「何言ってんだ!? 別の部屋を用意しただろ!」


「いやぁ寝るからには皆で寝たほうが温まるじゃん? それにユリエスもいるし!」


「ユリエス?」


 レシリーの後ろに隠れ顔を赤らめているユリエス。サイズがあってなかったのか寝間着は萌え袖のようになっている。


 まてとんでもなく可愛いのだが……。


 何だこの天使は。俺を尊さで撲殺しようとでも思っているのか。破壊力がとてつもない。眼福すぎる。


 口元を抑えないとニヤケがバレる。

 

「ユリエスがね、「あぁ寂しい……私ユウトと一緒に寝たぁい」って言ってたから」


「ちょ!? そんなこと言ってないわよ! 貴女が発案したんでしょ私は別に1人で寝たかったわよ!」


「じゃあ何でついてきたの?」


「そ、それは仕方なくよ。仕方なく!」


「へぇ……仕方なくかぁ」


「な、何よ」


「い〜や、可愛いなって!」


「はぁ!? 可愛くないわよ! 馬鹿じゃないの!」


「アッハハハハハ! そういうところだよ」


 愛くるしい2人のやり取り。いやちょっと待て、何で寝る方向で勝手に進んでる?


 というかレシリーとはまだ出会って半日くらいだぞ。

 何でそこまと距離感を近付けるんだ。

 

「待て待てお前ら! 俺は一緒に寝るなんて聞いてないぞ!」


「だって今言ったもん」 


「そうじゃなくて! 俺は1人で寝たいんだよ勝手に決めるな!」


「えぇじゃあマスターは僕達と一緒に寝たくないの?」


「いや寝たくないわけじゃ……その落ち着かないというか」


「落ち着かない? 男同士だよ?」


 確かに男同士だ。俺もユリエスもレシリーもアレがある。男同士で寝るなんて別になんら不思議なことでもない。

 でも今回は違う。男は男でもほぼ美少女な2人と一緒に寝る。


 ユリエスに首筋嗅がれただけでも頭がおかしくなりそうなのに添い寝?

 思春期の男には刺激が強すぎるんだよ!


「てことで一緒に寝ましょー!」

「ちょ!?」



* * *



 ……どうしてこうなった。結局レシリーの勢いを返せず添い寝を許してしまった。


 右にはユリエス、左にはレシリー。お互いに俺の方に顔を寄せスースー寝ている。 

 大きいベッドじゃないから密着状態。


「あぁ……いい音するねぇ……♪」 


 女性のようないい匂い。甘えるような可愛い声で囁かれる寝言。サラサラした髪。確かに温かくて居心地がいい。


 でも全然寝れない!

 変な気分になる。男だと分かっていても拭えない煩悩が頭を駆け巡る。


 寧ろ男だからこそ余計に意識してしまう。男と心で念じる度にそのギャップに頭がやられる。


 レシリーはまだどうにかなる。だが問題はユリエスの方だ。こんな密着してたら煩悩が暴走して寝れる訳がない。


(これでどう寝ろと……)


 もう無心になるしかない。俺は木の棒、俺は木の棒、俺は木の棒、俺は「ユウト」


「っ!?」


「まだ起きてる? ……寝てるの?」


 ユリエスの透き通った声。咄嗟に寝たふりをしたおかげか誤魔化せている。


「なら少しくらいいいわよね……」


 何がいいんだ?

 少しってなんだ?

 言えないようなことされるのか?

 顔が見えないから何をしようとしてるのか分からない。


「あのねユウト、まだ信じられないの。こうやって今ここにいるのが」


 とても優しい、でも何処か緊張してるような声。意地を張って強気なユリエスとは思えない。


「全部失って奴隷だった私がこうやって生きてることが。こんなまた希望がある道を歩んでいいのかなって」


 覇気がなく神殿攻略での強気なたくましさは何処かへと消えている。


「ねぇユウト何で私を選んでくれたの? 睨んで無視して酷いことしたのに。店でトラブルだって起こした。魔法の力? それとも別にあったの?」


 魔法の力もあるし別の意味もある。ただその意味が外見がドストライクだったなんて下心、口が裂けても言えない。

 庇護欲とかが刺激されまくって頭で考える前に選んでいた。


「正直……貴方を最初に見た時「何なのよこいつ」なんて思ってたわ。変わった服を好んでいきなりご飯奢ってきて、裏があるヤバいやつの奴隷になったのかと思った」


 ヤ、ヤバいやつ……そんな風に思われていたのか。いや確かにヤバいと思われても仕方ない。あの時は特に先を考えずに物事を進めていた。


「でもね貴方よりも私はもっとヤバいやつ。変にプライド高くてくすぶって奴隷のくせに愛想振りまけなくて。それでも貴方は優しくしてくれた」


 プライド高い奴なんて前世でいくらでもいる。何も努力せずに口だけは動く。俺だってそうだ。

 

「可愛げなく話しても店でトラブル起こしても貴方は全く怒らなかった。それが不思議でたまらない。警戒しているのにいつの間にか貴方に過去も全部話しちゃってた」


 あの時か……予想よりも遥かに重いカミングアウトに俺もどう受け止めていいか分からなかった。

 それっぽいこと言って慰めることが人生経験が未熟な俺に出来る精一杯のことだった。


「それでも貴方は抱きしめてくれた。その時の貴方の表情を見て初めて思ったのよ「この人なら信じていいのかもしれない」って。それで貴方についていきたくなった」


 ここまで誰かに頼られることはなかった。凄く嬉しくて、でも頼られる故の不安もあって、色々感情がぐちゃぐちゃになってる。


「レシリーみたいに愛想を振りまけるか分からない、素直になれるか分からない、笑顔を見せれるか分からない、それでも貴方は私のパートナーでいてくれる?」


「……あぁ」


「えっ?」


 気のせいと思ってくれるくらいの小さな声でユリエスの問いかけに答える。


「……気のせいよね起きてる訳ないのに。ごめんなさい。こういう事起きてる貴方に言えればいいんだけど」


 細く冷たい手が俺の髪に触れ優しくゆっくりと撫でられる。


「信じてるわ……おやすみなさい。少し抜けてる私のパートナー」


 その安らかな言葉を聞いて俺はようやく深い眠りにつく___。




 









 


 



 


 






 


 

 


 

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