第16話 安らぎと謎
日もくれた頃、最後に連れられたのは何かいい匂いがする木造の店。
相変わらず看板は読めないのでこれが何なのかは分からない。
「ユリエスあの看板は?」
「足湯の店よ。とりあえずリラックスも出来るし入りましょう」
この世界にも足湯があることに驚く。しかも入った店はまさに前世にあった足湯と何も変わっていない。
心が落ち着く木造の建築。アロマみたいな効果がありそうな草。憩いの場としては最適の場所だ。
「あぁ気持ちいい……最高!」
「こんな安らげる場所があるなんてな」
「えぇようやく心から休めるわ……」
温度も適温。心地よい湯は疲れた身体を癒やし安らぎを与えてくれる。
少しでも気を抜けば寝てしまいそうだ。
(案外この世界も悪くないかもな、今の所)
最初は最悪な世界だと思っていたが過ごしてみてそこまで悪くはないと感じてきた。
いやむしろ前の世界よりもいいかもしれないと思ってる。
男とはいえユリエスやレシリーなどのかわいい子と一緒にいて共に戦いつつこうやって何もない時はくつろぐ。
死と隣合わせなのはキツいが毎日意味もなく生きていた無キャの人生に比べれば全然マシだ。
「おい聞いたか? あの酒屋の主人、天使が来てくれたらしいぜ」
「マジか! 運がいいな」
「ん?」
向かいで談笑する中年くらいの男2人。
天使とかなんとか言ってなかったか?
「めでてぇなぁ……俺のとこにも天使が跡継ぎを運んで欲しいよ」
「待つしかないな赤ん坊が来るのは」
赤ん坊……? 天使が運ぶ……?
何なんだそのメルヘンチックな内容は。
「……そういえば」
この世界に来てずっと疑問に思っていたことがある。
子供は一体どう生まれているのか?
子供は女性からしか生まれない。それはどうなろうと変わらない事実。
男が自ら産むことは絶対に出来ない。だからこそ気になっていた。
男しかいない世界で子供はどうやって生まれるのかを。
「あのすみません、いまの話って?」
「何だい兄ちゃん知らないのかい?」
驚いたような顔でこちらを見つめる。この世界では常識なことなのか。
「ここではな、毎月の最初の日に赤ん坊が天使によって運ばれて届けられるんだよ。届けられるかは運次第。運良く赤ん坊が届けられた村や都市は今後も栄えていくんだよ」
何だその都市伝説みたいなのは……。
表情を見る感じふざけて言っている訳ではない。そんなメルヘンなやり方で赤ちゃんが送られてくるのか?
「その天使というのは?」
「さぁね不思議なことに誰も見たことがないんだよ」
「えっ」
それじゃ結局都市伝説じゃないか。
どっかの宗教みたいな組織が広めたのか?
「まっ気になるなら王国の図書館にでも行ってみたらどうだい?」
「図書館?」
「様々な知識がある場所さ。俺は無理だねあんな場所に行くのは。本なんか見るだけでも気持ち悪くなる」
図書館。
いかにも情報が眠っていそうな場所。前世でもかなりお世話になっていた。
そこに行ってみるのもありか。
だが今日はもう疲労が溜まっている。ゆっくり休んで明日向かおう。
しばらくして足湯から出たあとゆっくりと宿探しでもしようとしたのだが……。
「おい兄ちゃんウチの宿に泊まらないかい?」
「いいやこっちに来いよ!そっちのオンボロと違って設備がいいぞ?」
「んだと!? ろくな食事出さないくせによくそんな大口を!」
「あぁ!? そっちだってベッドがクソみたいに硬いくせによ!」
看板娘ならぬ看板男の言い争い。
まだ看板娘の言い争いならまだ見てられたかもしれない。
でも言い争ってるのは明日には顔の忘れそうな男と男。互いに貶しあって必死の客引きは見るに堪えない。
散々振り回された挙げ句宿が決まったのは30分後。もう既に空は暗くなり街灯が灯り始めていた。
「はぁ……疲れた」
倒れ込むように深々のベッドに身を委ねる。食事はしたから後は寝るだけ。
ここまで温かいベッドに感謝することがあるなんて思ってもいなかった。当たり前って最高だ。
「序盤からハード過ぎる」
度重なる死闘。
ツンデレの魔法使いのユリエス。
音楽に身を任せる戦闘狂のレシリー。
運任せの魔法。
女性がいない世界。
これら全て一週間ほどで起きた出来事。
次々と起こる許容量を超えた出来事に頭がパンクしそうだ。頭がズキズキする。
「女がいない異世界か……」
それにこの世界は謎が多い。まだ奴隷制度程度なら「異世界だからそんなのもあるのか」と許容は出来た。
しかしそれでは無理があるのが多い。
何で女性がいないのか。
子供はどうやって生まれるのか。
天使とは一体なんなのか。
現時点でもこの量。これから先新たな謎が浮かび上がる可能性だってある。
気にしない方が楽だがどうも気になってしまう。別に魔王を討伐しろなんて勇者の義務もない。
自由な反面とくに目的もない。その日暮らしで意味もなく過ごすくらいなら世界の謎を解き明かしていきたい。
「となるとやはり王国か……」
窓の外から見える巨大な城。あのおやじが言っていた図書館。頼みの綱は今のところそこくらいしかない。
まぁ今はとりあえず寝よう。この時くらいは考えるのを止めても問題はない。
お疲れ自分、おやす「マスター!」
「えっ?」
消灯しようとした瞬間、バァン!と勢いよく扉が蹴破られる。
マスターという呼び方。明るい声で破天荒な勢い。
「レシリー……?」
「寝ようよ一緒に!」
「はっ……はぁっ!?」
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