第15話 狂乱キッド
「ね? ね? 見た見た僕の華麗な一撃! カッコいいでしょ凄いでしょ! だから仲間にしてよぉ〜」
犬のように目を輝かせ上目遣いで仲間にしてくれと可愛らしく見つめている。
飛び切りの笑顔で。少しでも顔を寄せればキスしてしまいそうな距離に。
「ねぇどっちなの、するの? しないの?」
「す、する! もちろんするよ絶対に! 正式な仲間に!」
「ホント!? やったぁ!」
可愛らしくピョンピョンと跳ねるレシリー。その行動すら俺にとっては畏怖でしかない。
どれだけ可愛い動きをしてもあの光景が目に浮かぶ。
ダンスと共に怪物を討伐して……あの衝撃が今でも頭を巡る。二面性にも程がある。
ここで拒絶したらどうなるだろうか……。 笑って終わるのか、それとも激昂してめちゃくちゃに切り刻まれるのだろうか。
多分ユリエスも同じことを考えている。レシリーに対する底知れぬ狂気と二面性。
「なら正式な仲間ってことで心機一転王都に向かいましょー!」
そんな俺達の心を知るはずもなくレシリーは俺達を馬車へと誘う。唖然とする傭兵集団を放置して。
「ねぇマスター見てくれた?」
「あ、あぁ見たよ」
「何処が良かった? 何処がカッコよかったねぇ教えてよ!」
その姿はまるで忠実な犬。ご主人様に褒めてもらいたいかの如く俺に懐いてくる。
まだ出会ったばっかだっていうのに何なんだこの懐きようは……。
「ちょっと待て何でそんな懐くんだよ!?」
「音さ」
「お、音?」
「マスターが心が奏でている音はとても美しいんだ。僕はもう君に一目惚れしてるんだよ!」
「……はっ?」
心が奏でている音?
つまりどういうことだ。
美的センスが独特過ぎてよく分からない。
「マスターもユリエスもいい音奏でているからもう好きになっちゃうよ! 好きになった人には猛烈にアプローチするものさ」
そんな情熱的でぶっ飛んだ愛の理論で王国に帰るまで2時間。
全く眠れないし生きた心地がしなかった。結局俺は帰りも一睡も出来ずに王都に到着。
もはや眠気は一周回って消えてしまった。眠気を超えた謎のゾーンに入りむしろ目も脳も冴えている。
「おぉこれが王国! 人がいる、栄えてる、店がある、城がある!」
「レシリーもう少しボリュームを……」
「ごめんマスターそんなの無理だよ! だって凄く興奮するもん!」
目をキラキラ輝かせ辺りの店を次から次へと巡り続ける。服屋に入れば……。
「凄い赤に青、白に黄色、色とりどり!お洒落だしカッコいいし僕の服よりも全然凄いよ! いやぁ王都って最高だねマスター!」
武器屋に入れば……。
「おぉ盾にボウガンに新品の鉄の剣! さすが王国品揃えが凄い! ねぇねぇこれどうやって作ってるの見せて見せて!」
飲食店に入れば……。
「あぁ美味い! このウルフの肉柔らかくて脂身少なくて最高! グリーンスライムのゼリーも甘いしエキスのジュースの喉越しはハーモニーを奏でてる!」
服屋に入れば……。
「この生地どこで作られてるの? 故郷に比べたら想像出来ない凄さだよ! めっちゃカッコいいじゃん素敵じゃん!」
とにかく褒めて褒めて褒めまくる。愛くるしい動きと子供のような好奇心。レシリーが褒めれば店員は全員心から喜ぶ。
いや可愛いよ?
ユリエスとはまた違う無邪気な可愛さ。
でもあの狂気の二面性と音がどうとかの前衛的なセンスが脳裏によぎる。
「ねぇねぇマスター、次は何処へ行こうか?広場とは行ってみたいな!」
まぁでも戦闘でなければこの天真爛漫で純粋なテンション。
下手なことをしなければ問題はない、と信じるしかない。
ユーモアなセンスの女の子……じゃなくて男の娘と思えば気が楽になる。
「そういえばレシリー、お前は何処から来たんだ?」
「何処って?」
「故郷だよ。王都に行きたかったってことは田舎とか?」
「あぁ……それがよく分からないんだよね。ホントに何もないところだったから。読み書きもなかったし無の境地ってやつ?」
「おかしな話じゃないわ。村によっては読み書きの文化が浸透してない場所もある。王国とだと格差があるのよ」
ユリエスはその話を何の変哲もないように解説する。
王都と田舎ではそこまで差があるのか。となるとかなりこの世界は広いはず。
それこそ地球くらい広大な世界、いやそれ以上の規模なんじゃないか?
いきなりスケールが大きくなってきた。
しかしそんなに広いのに女性が誰もいないことなんてあるのか?
「レシリーお前の村に女性はいるか?」
「ジョセイ? 何それ?」
「例えば胸が大きかったりする人とか」
「あぁそういえばいたかも!」
「本当か!?」
「凄い筋肉の人がいてね。特に胸の筋肉が凄かったんだ!」
「……うん」
まぁそうだとは思っていた。そこまで情報が行き渡ってない場所なら……。
という淡い期待はムキムキの男によってボッコボコに打ちのめされた。
きっとボディービルダーみたいに謎に光ってる身体をしてるのだろう。
男の大きい胸板を見たところで「何を見ているのだろうか」と感情が無になるだけだ。
「ねぇねぇそれよりもマスター、次はあの店に行こうよ早く早く!」
「あ、あぁ」
現実を受け入れよう。この世界に女性は一人もいない。いるのは多種多様な男だけ。
ユリエスとレシリーが女性と見間違えるほどの綺麗な外見なのが唯一の救い。
アレさえなければ女性だ。アレさえなければ。
「ユリエスどう思う?」
「そうね……少し、いやだいぶ独特だけど悪い人ではないと思う。それにあの明るさ私は嫌いじゃないわ」
ユリエスも同意見。
個性の暴力のような存在だがそれはそれでまた一興と思って仲間にしよう。
一気にパーティが賑やかになった。
「……ねぇユウト」
「ん?」
「いや……何でもない。さっ私達も早く行きましょう」
「あ、あぁ……分かった」
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