第14話 レッド・ソード・ダンサー

 まるでこの戦いを楽しんでいるかのような笑みと挑発。

 血を撒き散らし殺意を露わにしたバードレスはレシリーをギロリと睨む。


「おぉ怖い怖い、血が出すぎて頭に回んなくなった?」


「キルアァァァァァァァ!」


 鉄でさえ破壊しそうな牙を剥き出しにし噛み砕こうと突撃を繰り返すバードレス。

 

「おっと!」


 重力を感じさせない軽やかな動き。 

 バードレスの猛攻を魅力するようなわざとらしい動きで避けていく。


「アッハハ♪ ほらこっちだよ?」


 その姿はまるで華麗なバレエを踊っているように錯覚してしまう。

 その光景に俺の脳内はいつの間にかクラシックを再生させていた。  


「隙は……そこかなァ!」


 猛攻のバードレスに生まれた一瞬の隙。

 

 レシリーの顔には狂気にも近い笑みが溢れ懐に入った瞬間、蹴りを叩き込む……!

 

 華奢な足からは考えられないような威力。

 顔面の黒い皮膚を抉られ地面へと派手に叩きつけられる。

 

「さて第2ステージといこうか」


 再び目つきが変わる。

 今度は享楽のような明るく、だが心の内は見せないミステリアスな雰囲気へと変わる。


「鳥ちゃん、もっともっと遊ぼうよ」


 痛みに悶るバードレスの上に飛び乗りレシリーは華麗なタップダンスを始める。

 刺々しい靴は軽やかな音を生み出しステップは徐々に加速していく。


「なんなのあれは……」


「あれが戦いだって言うのか?」


 悦楽の笑みを浮かべダンスを踊る姿は殺し合いを行っているとは思えない優雅さを醸し出している。

 

 冷静に見ればカオスでおかしい状況。なのに何故か俺は心はその矛盾した光景に興奮しフリージャズを脳内で奏でる。


「グァ……アァァァァァ!」 


「ハッ!」


 振り下ろそうとするバードレスの動きに合わせレシリーは動き軽やかな蹴りを入れる。


「ここだよここ僕の頭に流れているトランペットの畳み掛け……このサビで決めるのが僕は一番好きなんだァ!」


 スチームブレードを鮮やかに回しそのまま右翼を華麗に切り取る……!


 ズバッ____。


 血液と共に上空を舞う黒き翼。


 両翼を切断されたバードレスにもう空を自由に舞う選択肢はない。


「さて最終ステージ、フィナーレと行こう」


 再び変わった目は赤い閃光を放ちスチームブレードを向ける。


「最後のチョイスは……コーラスにしよう」

 

 身体を揺らし脳内に流れているであろう曲に酔いしれるレシリー。

 

「ガァァァァァァァァァ!」


 怒れるバードレスは瀕死の身体を動かし口から波動砲を無作為に放ち続ける。

 地面を切り裂くほどの凄まじい威力。

 

「さぁ行こうか殺ろうか!」


 頬が裂けそうなほどの笑み。高らかに響く叫び声。出会った時の無垢な顔はどこにもなく狂気に満たされている。


 音楽に身を任せ常軌を逸する様子は戦闘狂という言葉を体現したような姿。


 次々と波動砲を軽やかに避け続けスチームを利用し上空へと跳躍する。   


「スチー厶・バースト・ダウンブレイク!」


 煙を纏わせスチームブレード頭部へと突き刺す……!


「逝っちゃいな」


ドズァァァァァァ!


「ガァァァァァァァァァァ!」


 潮吹きのように飛び散る血液。響き渡る断末魔。目からは生気がなくなり遂にはピクリとも動かなくなる。

 

「嘘だろ……」


 驚愕する以外何もすることが出来ない俺とユリエス、そしてギルド集団。


「よっと」


 そんな視線を全く気にせず大剣を引っこ抜いたレシリーは再び屈託のない笑顔でこちらに振り向く。


「どうマスター? 凄いでしょ! 僕の姿に酔いしれた? いい音楽頭に流れた? だったら仲間にしてよ!」


 殺し合いをしていたとは思えないその純粋で狂気に近い表情。

 音楽を奏でダンスを踊るようにバードレスを討伐した異質すぎる戦闘スタイル。


 ……俺はまたとんでもない奴を仲間にしてしまったのかもしれない。

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