第13話 ダーク・ファイティング
馬車の中から見れる朝日は前世の世界と変わりなく美しい。戦いの後はこういう景色を見て安らぎたい所だが……。
「がぁぁぁぁ! ごぉぉぉぉぉ!」
だらしない姿で寝るレシリー。
その姿に上品らしさなど微塵もない。
そして恥も外聞もない耳障りないびき声。
(うるせぇな……)
とんでもなくうるさい。寝ようと思えば思うほど眠気が覚めてくる。こいつを仲間にしたことを早速後悔してる。
込み上げ続ける苛立ち。しかし俺以上に苛立っていたのは……。
「ユ、ユリエス?」
とんでもない殺気が丸見え。あの傭兵を蹴散らした時と同じ。瞳孔が開いたあの狂気に満ちたゾクゾクする顔。
「気にしないでユウト、何でもないから」
「いや何でもないようには」
「な・ん・で・も・ないから」
「は、はい!」
威圧感が凄い。さっきまでの美少年とは思えないほどの顔。恐怖以外の何者でもない。
いびきで眠れないのに苛立つの分かるがここまでのことか?
もはや睡眠とかそういうのを超えた私怨みたいなのを感じる。
(大丈夫なのかこのパーティ……)
こんな個性同士で殴り合ってるようなパーティは果たしてうまくいくのか?期待と不安が混じってる。不安が大半を占めてるが。
そんな気持ちを胸にしまい無理矢理にでも眠ろうとしたその時。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「っ!?」
今度は何なんだよ!?
断末魔のような気分が悪くなる声。眠ろうとした時に気味悪い叫び声とか勘弁してくれ。
「焦るな!陣形を整えろ!」
(陣形?)
徐々に騒がしくなっていく声。1人じゃない、2人、いや10人以上はいないか?
眠気が消えてしまった身体を動かし咄嗟に馬車の外へと目をやる。
「あれは……傭兵の集団?」
ガタイのいい男達。様々な防具と武器。
断末魔の発生は多分この集団からだろう。何故か全員上を向いて恐れを抱いている。上に何かあるのか?
「えっ?」
太陽を遮る黒い陰。鋭利な翼。刺々しい身体。どう見ても危なっかしい外見。
「キルァァァァァァァァァァ!」
「と、鳥!?」
漆黒の巨大な鳥は紫の炎で騎士を次々と焼き尽くす。為す術もない傭兵集団は悲痛な叫びを上げることしか出来ない。
「なっブレスト・バードレス!?」
「ブレスト・バードレス?」
「鳥獣の中でも上級クラスにいる種族よ。ここで遭遇するなんて……」
禍々しさを体現したような外見。歪に尖っている黒の翼。
漂う強敵感。ユリエスの反応を見るに相当な敵ということは分かる。
「なら早く魔法で「待ってユウト!」」
「あれだけの魔法を使ってこの短期間でまた戦うのは危険よ。下手すれば死ぬ!」
「じゃあどうするんだよ!? ユリエスも魔法が使える状況じゃないだろ! あのままじゃあの傭兵集団が!」
互いに魔法を消費した状況。確かに俺も体力の限界が近付いていた。
雑魚モンスターならまだしもあんな化け物と最後までやり合える望みは見えない。
だがこのまま次々と殺られていくのをただ見てるだけなのは胸くそが悪い。
(どうすれば……)
「ちょっとお二人さん、僕のこと忘れてないかい?」
絶望に打ちひしがれる俺達に話し掛ける場違いで享楽的な声。
豪快に寝ていたレシリーはいつの間にか起きバードレス見つめて笑っている。
「丁度いい訛った身体に喝を入れられる。マスター、ユリエス、ここは僕に任せてよ」
「レシリーお前何を?」
「倒すんだよあの鳥野郎」
「正気か!? あんなヤバいやつをどうやって!」
「大丈夫大丈夫僕って結構強いから、それに強い敵の方が興奮するタイプなんでね!」
華麗に馬車から飛び降りると包んでいた布を勢いよく取る。
(これは……?)
帯びたしい機械が装備された巨大な剣。穴のような部分からは煙が噴射される様子は厨ニ心を刺激する。
「スチームブレイド僕の相棒さ。カッコいいでしょ? 僕は魔法が使えないからこういうとこに拘ってるの」
体格に見合わない大剣をいとも簡単に振り回す。
「ねぇマスター、僕のはまだ君達にとって仮の仲間なんだよね? ならこいつ倒す代わりに正式な仲間にしてよ」
「倒せるのか?」
「もちろん、僕は本心しか話さないよ!」
血湧き肉躍り自信に満ち溢れているレシリー。その真っ直ぐな目に迷いも嘘も感じない。
「やっほー鳥ちゃん! こっちに来て僕と遊ぼうよ、そんなのよりもさ!」
指をクイクイと舌を出した舐めきった挑発を繰り返す。それに応じるように鼓膜が破れるほどの咆哮と共に迫りくる。
レシリーの身体を真っ二つにしようと黒き翼は突撃を始める……。
「レシリー!」
「心配ご無用」
「っ……!」
振り返ったレシリーの目は鋭く心までを見透かしていると思うほどに強い。
能天気な雰囲気は消え去り敵を狩る剣士の目をしていた。
「スチームバーストッ!」
大剣から噴射される煙は辺りに煙幕を形成する。
姿を隠したレシリーは錯乱するブレスト・バードレスの左翼を真っ二つに切断する……!
ズバァァァァン!
「何!?」
「ガァァァァァ!」
響き渡る切断の音。
悲痛な叫び声。
紫色の血液が飛び散りバードレスはバランスを崩し地面へと派手に墜落する。
「さぁ……踊ろうよ!」
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