第12話 眠れる赤い剣士
「なっ、こ、これは何なんだ!?」
「知らないわよ何でこんなとこに人がいる訳!? それもこんな安らかに寝て……」
互いにパニック状態。ウルフに襲われた怪我人とかならまだ納得出来たと思う。
しかしこの赤髪の子は安らか過ぎる笑みでスースー眠っている。場違いにも程がある。
とその時……。
「あぁよく寝たぁ!」
「「!?」」
幽霊見るよりも恐怖を感じた。とんでもないデカい声が突然俺達の耳に入ってくる。
箱から勢いよく飛び出した赤髪の子の顔は無駄に清々しい。
「あれあれここ何処?」
「き、君大丈夫?」
「ん? お兄さん達は?」
「あぁ俺はユウト、冒険者だよ」
「へぇ奇遇だね! 僕も冒険者なんだよ」
「えっ?」
今なんと言った? 冒険者? それがこんな危険な場所で能天気に眠ってる?ますます訳が分からない。
俺達のようにウルフハウンドを討伐しに来たという雰囲気にも見えない。
「君、冒険者なの?」
「そうさ正真正銘の冒険者。あっそうだ自己紹介が遅れたね」
寝癖がついた赤髪をかき上げ太陽のような笑みを見せる。
「僕はレシリー=パロリオット、同じ冒険者でも武具派でランクはBー、大好きなのは音楽とダンス! 以後よろしくね!」
熱血を体現したような自己紹介に押され腑抜けた返事を返してしまう。
勢いのある口調の割にユリエスのように整えられた端正な女性のような顔立ち。
美しい肌に華奢な身体。前世で会ったのなら確実に女性と思ってしまう。
でもこれも男の娘なんだよな?
男なんだよな?
いやもしかしたら……。
「君って男の子?」
「へっ? 何を言ってるの、男以外に答えなんかあるの?」
「じゃあついてるのか? アレが」
「アレ?」
「アレと言ったらアレだよ、その股関にあるやつ……」
「あぁこれのこと?」
「ぶっ!?」
レシリーは恥など全く感じさせずにスカートを豪快に捲った。
結果はどうだったかって?
それは勿論ついてたよ。黒いパンツの中にユリエスよりも若干大きいのが。
「いきなり何してんだ!?」
「何って? そんな恥ずかしがること?」
貞操観念どうなってんだ。いや男同士だからそういうのはないのか。
男同士でアレ見せ合うとかは悪ふざけでもたまにある。
しかしこんな美少女な見た目でそれをやられると色々やましい気分になってしまう。
(本当に男しかいないのか……)
「そういえばそっちの銀髪ちゃんは?」
「私? 私はユリエス、このユウトという人のどれ……じゃなくてパートナーよ」
「パートナー? どういうこと?」
「その名の通りだよ、俺は奴隷と主人なんめ関係は嫌だから良きパートナーとして一緒にいる」
「へぇ……変わってるね。でも面白い! お兄さん気に入ったよ、奴隷をそういう扱いする人は僕が見てきた中でも初めて!」
第一印象といい明るい口調といい悪い奴ではなさそうだ。
俺とユリエスの関係にも笑って受け入れたしユリエスへの偏見もない。
「しかし何でこんなとこに? ウルフハウンドがいるこの場所で寝てるなんて普通じゃない」
「あぁそれがさ……深い意味とかはなくてただ置いてきぼりにされただけなんだ」
「えっ?」
「丁度通りかかった貨物馬車の荷箱に忍び込んだら王国に行けるかなって、で目が覚めたらこんな場所に。荷台から落ちたのかなアッハハハハハハ!」
「まさか何か深い訳でもあったのか?」なんて思っていた自分の心配を返してくれ。
つまりレシリーは無断で乗った馬車からいつの間にか落ちており今に至るまで箱の中で寝ていたと……。
いや普通あんなでかい音して戦ってたら多少は気付かない!?
どんだけ深い眠りだったんだよ!?
「まぁそういうことさ」
呆れる以外に反応が思い付かない。
「ところで君達、僕を仲間に率いれようとは思わないかい?」
「仲間?」
「そうさ、僕を仲間に入れてよ!」
「ちょっと待って! レシリーと言ったわね、今ここで出会ったばっかりの人を仲間に引き入れると思う?」
ユリエスの意見はごもっともだ。悪い奴には見えないがいきなり「仲間にさせて」と言われても直ぐに受け入れるなんてさすがにしずらい。
「警戒心強いな〜。でもさ考えてみなよ、お二人共見た感じ魔法派でしょ? 僕みたいな腕っぷしの強い武具派が欲しいんじゃないかい? 体力あるよ、ありまくりだよ!」
確かに俺もユリエスも魔法派。魔力は高いが互いに体力は少ない。必要といえば欲しい人材だ。
「僕は身寄りがいないし誰の下にもいない、お買い得ですよ旦那?」
何でそんな急に胡散臭い商人みたいな呼び方になったのか。
確かに怪しいがだからと言って駄目というには惜しい気もする。
「ユリエス、仲間に率いれないか?」
「はっ!? 貴方本気で言ってるの?」
「今回だって体力不足の欠点が見えた。だから俺達とは違う体力自慢の武具派を入れてもいいと思う」
「でもいきなり入れるのは!」
「試しに入れてみるってことで、ダメだったらそこで終わり」
「まぁそれならいいけど……」
渋っているユリエスをようやく納得させる。この選択肢が当たっているかは今は分からない。でも俺の直感を信じたい。
「分かった。俺らのパーティに入ることを仮で許可するよ」
「本当!? ありがとう物分かりがいい人で良かった! これからは兄さんのことマスターって呼ばせてもらうよ!」
「マ、マスター……?」
俺の何処を見てマスターと呼びたくなったのか。まぁ呼び方くらい「下僕野郎」とか「クズ」とかじゃなきゃ何でも良いが。
「てことで改めて宜しくねマスター! それとユリエス!」
「まだ仮だからな?でもまぁ一応よろしくレシリー」
「……よろしく」
予期せぬ強敵との死闘。怪しさ満載の新たな仲間(仮)。多彩な男の娘。
こんなことになるなんて数時間前の俺は予測なんて出来なかった。本当に未来は何が起こるか分からない。
そしてまた……直ぐにまたそれを体感する羽目になるとは思ってもいなかった。
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