第11話 神殿攻略③

 予想外の強敵。対抗策が見出だせずただ神殿内を逃げ回るだけ。このままじゃ体力が尽きて殺されるだけ。


「シャインニング・シャベリン!」


 放たれる無数の光の槍。だがそれすらも無意味。鋭利な先端部分はブラックホールのように光を吸収する。


「これも吸収するというの……!」


 荒くなっていくユリエスの息遣い。魔法を連続で使用したせいか。


「避けろユリエス!」


「えっ?」


 キングウルフは螺旋を描くように突撃し巨大な爪が体勢を崩したユリエスに向かう。


「しまっ……」


 頭で考えるよりも身体が動く。怖くて仕方ない。それ以上にユリエスを守りたい心が俺の身体を奮い立たせる。


 天秤にかけられた覚悟という概念は恐怖を超越する。


「ルナティック・バリアァ!」


 間に合った。鏡のような盾を生み出し迫り来る爪を防ぐ。とてつもない力が全身に響き渡る。


「この……狼野郎が!」


 力任せに爪を弾く。バランスを崩したキングウルフは壁を突き破り宮殿の地下へと落下する。


「大丈夫かユリエス?」


「え、えぇごめんなさい。少し目眩が」


 額から汗が溢れ右手は魔力の反動か震えている。やはりかなりの体力を消耗してる。


「私の欠点……魔力は強くてもそれを受け止めるほどの体力がない。このままじゃ私も貴方もここに骨を埋めることになる」


 ユリエスと出会って一緒に冒険を始めた。それなのにここで終わり?ふざけるな、まだ俺は生きたい。ユリエスと一緒にいたい。


 この世界をもっと知りたい____。


「……待てよ」


 キングウルフが魔法を吸収する時、常に正面を向いて角の先端を当てていた。

 

「っ!」

 

 ある。この絶望を打ち消す唯一の希望が。でもそれはあくまで俺の仮説。運が左右する一か八かの賭け。


 いや恐れるな。ただじっとしていて最期を迎えるなんて犬死はしたくない。


「ユリエス、まだ魔法は使えるか?」


「1回程度なら……でも結局は吸収されるのがオチよ」


「いやそれで充分、この状況を覆す方法が1つだけある」



* * *



 月明かりに照らされる神殿。獲物を俺達を喰らおうとキングウルフは唸り声を上げ神経を尖らせた。

 

「行け!」


 静寂という静かな炎に薪を焚べる。


 俺の合図と共にユリエスはキングウルフの目の前に対峙する……。


「グルァァァァ!」


 牙をむき出しにしたキングウルフは獲物を喰らおうと襲いかかる。


「力は強くても頭は単純ね。ブレイヴ・アイブレイク!」


 一瞬怯んだがキングウルフは直ぐに光を角の先端へと吸収してきた。

 だがそれでいい。それが分かればこちらに勝機がある。


「今よユウト!」


 直ぐ様キングウルフの横に回り込む。異変に気づいたキングウルフは咄嗟に振り向こうとするがもう遅い。


「ソニック・バンカァ!」


 釘に似た巨大な槍は凄まじい速さで放たれ歪な角を粉々に破壊する……!


「ア゛ァァァァァァァァァァ!」


 響き渡る獣の絶叫。仮説は正解。キングウルフは常に正面から魔法を吸収していた。


 なら正面からではない攻撃は吸収能力が発動しない。本当に危険すぎる一か八かだったがやってみる価値はあった。


「最後のシメだ!」


 角を失った怒り狂うキングウルフは白く光る牙を俺に向ける。けど恐れなんてない。

 角さえなければただの図体の大きい獣。


(うまく発動してくれよ……!)


「インフェルノ・ドライヴ!」


 6つの巨大な炎は円形を描きキングウルフを空へとぶっ飛ばす!

 徐々に大きくなる炎……その大きさは予想を遥かに上回っていく。


「ガァァァァァァ!」


 焼き焦げていくキングウルフの身体。悲痛な断末魔。もはや神殿よりも巨大化した6つの炎は凄まじい爆発と共に消滅する。


「これが与えられた能力……」


 その真価を初めて目の当たりにし、そして実感した。

 与えられた能力は時には泣けるほど脆く時には骨すら残さない残虐な強さにもなると。


(この能力を俺は操れるのか……?)


 倒せたのは万々歳。


 だが運任せという深刻な副作用を持ってしている化け物な能力を何処にでもいる人間ごときの俺が操れるのか。


 倒せたというのに何故か心は不安が勝っていた。


「ユウト……今の魔法どうやったの? あんな規格外の威力初めて見た」


 俺を見つめるユリエスの瞳は畏怖のようなものを感じる。


 「どうやったの?」と言われてもそれが全て分かれば苦労なんてしない。

 だから今でも困惑から抜けれず魔法を放つのが毎回ギャンブル染みることになってる。


「自分でもよく分からない……けど俺の魔法はとんでもなく強い魔法を放てる時もあれば弱すぎる魔法を放つこともある。そんな一か八かなのが俺の魔法」


「貴方何者? ただの魔法派……いや例え怪物だろうとあんな強い魔法は放てない」


「バランスが最悪なだけのただな魔法派だよ。それ以上でもそれ以下でもない」


 他にいい返しは思い浮かばなかった。


 「別世界から転生しました」なんて正直に言っても戯言だと一蹴されるだろうしメリットも思い浮かばない。


「帰ろうユリエス、お前も疲れてるだ「ちょっと待ってユウト」」


 突然ユリエスはウルフの匂いを探ったように周りを嗅ぎ始める。


「どうした? ウルフは全滅させたぞ?」


「いやウルフじゃない。これは……人の匂い!?」


「人!?」


 こんなウルフ達がうじゃうじゃいた場所に人がいたのか?


 同じくウルフのクエストを引き受けた他の冒険者か?

 いやこれでも宮殿を動き回ったんだ。冒険者ならどこかで出会うはず。


「こっちよ!」


 ユリエスに先導され人の気配がする場所へと足早に向かう。まさかまだ敵がいるとかじゃないよな?


「これね」


「な、何だよこれ?」


 ユリエスが指したのは長方形の古びた大きな箱。まさかここに?


「開けるわよ」


 ゆっくり慎重に箱を開けていく……。


「「えっ?」」


 流れるような白と赤のグラデーションのポニーテール。


 鼠径部が見える際どいスカート。

 腹部が露出した派手な服装。

 手足に装着された防具。

 

 そこにいたのは袋包みにした巨大な何かを腕で抱きしめ心地よい吐息をしながら幸せそうに眠る紛れもない……




 






 







 


 

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