第10話 神殿攻略②

「いってぇ……」


 ユリエスが直ぐに止血してくれたお陰で軽い軽傷で済んだ。頭は少しくらくらするが。


 辺りにウルフはいない。少し意識を手放していた時に蹴散らしてくれたのだろう。


「ちょっと大丈夫? ウルフの攻撃を直で食らってたけど」


「あ、あぁ魔法が上手く発動しなくてな」


「こう言うとあれだけど……中級魔法のフレイムバスターがあんなになるなんて見たことないわよ」 


 ごめんなさい能力補正で見たことないことが起きてしまうんです。


「アッハハ……故障してんのかな」


 こうも運によって左右されるとなると使用を余計にためらう。


 安定した魔法の強さを持つユリエスを仲間にしておいて本当に良かった。当時は魔法よりも見た目への一目惚れで選んだが結果的には大正解。


「ユウト、ちょっと首を貸して」


「首?」


 言葉だけでは真意が読めなかったが直ぐにも理解することになる。

 

「なっ!?」


 突然俺の服を少しばかりはだけさせ勢いよくユリエスは俺の首筋の匂いを嗅ぎ始めた。


「ユ、ユリエス!?」


 首筋を伝う吐息。鼻孔を刺激する男とは思えない甘い匂い。密着する柔らかい身体。


 ヤバい頭がショートしそう。思春期の男にこれは刺激が強すぎる。理性が持たない。 


 いや待て、ユリエスは男だ。女の子にしか見えないが男なんだ。


(ユリエスは男、ユリエスは男、ユリエスは男、ユリエスは男、ユリエスは男、ユリエスは男!)


 呪文のように頭の中で連呼する。ギリギリ理性という紐を握り続けている。


「やっぱり……魔力は確かに感じる。それもかなり強い。でも何であんな威力に?」


 ようやく生殺しのような快感から開放される。あと数秒されてたら理性がぶっ飛んで思いっきりユリエスのことを抱きしめていた。

 

「ユウトどうしたの? 凄く顔が赤いけど」


「い、いや何でも大胆だなって」


「大胆? 魔力の確認をしただけよ? 獣人族の鼻はそういうことも分かるの」


 そうだこれが普通なんだ。ユリエスにとっては普通。変な気分になった俺がおかしい。


 本当に変態だなこんな大人と子供の中間点くらいの外見の子におかしな気持ちを抱くなんて。


「そうだよな! 普通なんだ普通、男同士だしこんな幼い子供に「17」」


「えっ?」


「私17歳なんだけど、子供扱いしないでくれる?」


(はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)


 17? 

 今17歳って言った!?

 俺と同じ年齢じゃねぇか!

 ヤバいどうしようどうすればいいんだ。


 子供だから男だからって貼ってた理性の防衛線が一気に崩れ去る。引っ込んでいた欲望がまたのし上がってくる。

 

「貴方の魔力は高い、だからこそ何であんなになったのかが謎ね……」


 そんな俺の心情を理解するはずもなく淡々と語るユリエス。いや落ち着け。ここは戦場。緊張感を持て、理性よ働け。


 再び込み上げた欲望を再び理性の紐で縛り上げる。バレないように冷静な口調で応対を試みる。


「魔力も分かるのか? その鼻」


「大体なら、細かくは分からない」


「便利だなその鼻」


「べ、別に大したことないわよ……」


 何でここでツンデレ発動すんだよ!?

 さっきの大胆さどこ行った?

 ツンデレの基準がよく分からない!


「とにかく! ウルフハウンドはまだ10匹くらいいる、どう戦える?」


「あぁもうあんなヘマはしないよ……多分」


 長期戦は避けたい。先程の戦闘でも少しばかり息が上がっている。運動部に入っておけば良かった。

 運任せ魔法には不安要素は残っているがとにかくやるしかない。


* * *


「ウォーターフォール!」


 滝のような水はウルフを地面を破壊するほど推し潰し粉砕する。


「よしっ」


 今の所は順調。やはり不安定だが比較的魔力は安定しておりユリエスに負けじと次々とウルフを討伐していく。


「アイアン・バレッタ!」


 ユリエスから放たれる無数の鎖。先端の刃をウルフに突き刺すとハンマーのように振り回し蹴散らしていく。


「これで終わりか」


 目標数の15体、いやそれ以上の討伐数。半分以上はユリエスの強力かつ多彩な魔法によるもの。


 戦いに夢中になっていたがもうすぐ夜が明けそうだ。徐々に朝日が美しく昇り始めている。なんやかんやあったがクエストは達成。



そう思っていたその時____。



「避けてユウト!」


「えっ?」


 ドォン!と激しい破壊音。目の間の地面が派手に壊れ凄まじい衝撃波が全身を襲う。


「ぐっ!」


 即座に防御魔法を使い何とか体勢を保つ。だが目の前の突然の驚異に俺は絶句する。


「何だよこいつ……!?」


 ウルフハウンドとは比べ物にならない大きさ。巨大で鋭利な爪を生やし額には歪な角が3本。威圧させるオーラは強者ということをこれでもかと表現している。


「ア"ァァァァァァァ!」


 鼓膜に響く咆哮。同時に衝撃波を纏った角は迷いなく突撃を開始する。


(まずい!)


「ライトニング・アビス!」


 巨大な電撃の球体が形成される。よしっ今回の威力は当たり。これで奴の角ごと……!

 

「グラァァァァ!」


「なっ!?」


 確かな手応えはあったはず。しかし電撃の球体は角によって吸収され突撃の勢いは更に増していく。


 まずい、対処が追いつかない……!


「レイズ・ウインド!」


 ユリエスが放った竜巻は俺を軽く持ち上げ辛うじて直撃を避ける。


「ユウト逃げるわよ!」


 壁に追突し動きが止まっている隙を狙いユリエスと共にその場から離脱する。


「何でこんな場所に……生息地は違うはず 」

「ユリエスあれは一体!? あいつ魔法を吸収して……」



「キング?」


「ヤツの名前。ウルフハウンドの頂点に位置するモンスター。奴は魔法などの能力を吸収する」


「吸収!?」


 まさに王の名に相応しい能力。強力な魔法であるライトニング・アビスが封じられたのもその為か。

 

「それだけじゃない。ヤツは吸収した魔法を自らの力に変化させる」


「てことは攻撃すればするほど強くなるってことかよ!?」


「それが王と呼ばれてる由来。Aクラスの冒険者だって苦戦するレベルよ、まさかこんな場所にいるなんて……」


 そんなヤツと戦っているというのか。序盤に戦う相手じゃない。


 こんな負けイベントのようなもの……俺らに勝ち目はあるのか?


 


 



 

 

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