第9話 神殿攻略①


「お二人さんそろそろ着きますぜ」


「ん……着いたのね」


 騎手の声に目を覚ますユリエス。あくびをしながら少しばかり乱れた服装を整える。


「ユウト? 何してるの?」


「い、いや何でもない」


(マジかよ……いや俺が血迷ってただけか)


 誰も知らない俺の苦悩。ユリエスが男だということが決定的になってしまった。


(どうすればいいんだよ!?)


 男と見るのか?

 いや無理に決まってるだろ女の子にしか見えないんだよ。寧ろ女の子よりも可愛い。


「どっちで見ればいいんだ……」


「どっち?」


「いや俺の話だよ、それとごめん……」


「えっ?」


 冷静に考えておけば分かっていたはず。女性なんているはずがない。いるのは俺の仲間になった

 

「神殿が見えてきたわね。ユウト大丈夫?」


「あ、あぁ」

 

 気持ちをどうにか切り替え気合いを入れ直す。今から俺はクエストをするんだ。ゲームじゃない、判断を誤れば死ぬことだってあり得る。


 そんなことを考えている内に目的地へと到着していた。そこはまさしく廃墟と化した何階もある巨大な神殿。深夜ということもあって心霊スポットのようで少し不気味。


「でっかいな、ここにいるのか?そのウルフなんたらってやつ」


「ウルフハウンドよ。巨大な牙と爪で冒険者の身体を切り刻み肉を喰らう。ぼーっとしてたら餌になるわね」


「嫌なこと言うなよ……」


「大丈夫よ。中級モンスターだから難しくない。ユウトも魔法派なんでしょ?」


 成り行きでその役職になってるとは言えないがこの運任せ魔法以外に特筆すべきものがない以上否定することも出来ない。


「一応な、自慢は出来ないが「静かに!」」


 突如ユリエスは大声を立て俺の言葉を強引に静止する。

 同時にまるで狼のように四つん這いになって辺りをくまなく嗅ぎ始める。


「ユリエス……?」


「少し黙ってて」


 奇行にでも走ったかと焦ったがそうでもないらしい。


「この感覚、ウルフハウンドね」


「分かるのか?」


「獣人族の特徴、この鼻が敵の反応と数を教えてくれる。3匹、いや4匹隠れて私達を狙ってる。気を付けて」


 ユリエスの顔には緊張が走り両手に出現したのは光り輝く紋章が記された魔法陣。

 俺の魔法陣とは違い緑・白・茶・銀と独特な色合いをしている。


「私が使えるのは土魔法、風魔法、光魔法、そして無属性魔法、私の場合は重力。魔法陣の色は使える属性が多いほど鮮やかになる」


 なるほど、そういう仕組みなのかこの魔法陣は。


「貴方の魔法陣は?」


「俺の? 俺のは……」

 

 手を前に向けると自然と魔法陣が浮かび上がってくる。鮮やかな虹色の魔法陣。

 ガラスのように月光を反射し輝くのは万華鏡のように美しい。


「なっ!?」


「ん?」


 何かに驚愕しているユリエス。


「あ、貴方まさかを!?」


「ワイルドカード?」


「全ての属性魔法が使える者だけが使える最高峰の魔法陣よ! 噂では聞いたことあるけど本当に使える人がいるなんて……」

 

 この虹色の魔法陣はこの世界ではそう呼ばれているらしい。


 純粋な興味と興奮が混じったような輝く瞳。ユリエスは俺が大層な魔法使いと思っているのだと思う。


 こんな美少女、ではなく男の娘に期待されるなんて幸福でしかない。


「そ、そうなのか」


 だが素直に喜べない。これは借り物の力であって俺が努力して得た物じゃない。おまけに制御が効かない。

 

「それよりもそろそろ来るんじゃないか? ウルフハウンドってやつが」


「え、えぇ気を引き締めて」


 中級のモンスターとは言っていたが俺にとっては未知の存在。

 油断など全く出来ず普段は味わえぬ緊張感から生唾を思いっきり飲み込んでしまう。


 なびくそよ風。舞っていく枯れ葉。早くなる心臓の鼓動。今か今かと思考が巡る。

 そして遂にその時は訪れる。


「ガァァァ!」


「来たわ……!」


 咆哮と共に急襲する黒い生物。名の通り狼の外見をしたモンスター。

 ユリエスの予測通り4匹のウルフが俺達を八つ裂きにしようと爪を光らせる。


「ジュゼッペ・カッテイング!」


 ユリエスが起こした風は刃のように変化しウルフをバラバラに切り刻んでいく。

 

「ロック・フィスト!」

 

 地面から拳を模倣した石を生み出しアッパーするようにウルフをブッ飛ばす。間髪入れずに繰り出していく魔法。

 その姿はとても華麗でダンスを踊っているようにも見えた。


「ユウト、そっちに1匹行ったわよ!」


 見惚れている間に1匹のウルフハウンドが俺に向かって突進を始めていた。

 見ているだけじゃ終われない。ユリエスに続かなければ!


「フレイム・バスター!」


 魔法陣は更に虹色に輝き巨大な炎の刃がウルフを引き裂く……!


 ポッ……。


「えっ?」


 小さい。思っていたよりとんでもなく小さい。小石程度の大きさの刃の攻撃が案の定外れる。


「ガッ……?」


 困惑したような肩透かしを食らったような目で見つめるウルフ。

 やめろそんな目で見ないでくれ。


「ちっさ!?」 


「グァァァ!」  


 ボゴォ!


「おぐぇ!?」


 ウルフの頭突きは顔面に直撃し吹き飛ばされる。何でだ。何でこういう時に運が悪くなるんだ。

 そもそも運任せの魔法ってなんだよ!?


「ユウト!?」


 鼻血を抑えながらユリエスに介抱される。なんてみっともない。なんて情けない。痛いよりも虚しさが勝ってしまう。


「チッ……ファントム・スチーム!」


 蒸気のように噴射された煙は辺りに煙幕を作る。記念すべきクエストの初陣は何ともしょうもない失態で開幕する。

 


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