第8話 変態

 そんなこんなで始まった新たな仲間ユリエスとの旅路。と言っても計画なんてない。


 結局その後3日ほど滞在してようやく動き出した。


 既に金貨を4枚使っている。10枚もあるんだがら1週間は持つと思ってたがあと少しで資金が尽きてしまいそうな勢い。となると……。


「仕事だよな」

 

 豪華な甲冑を来た勇者にでっかい斧を持った大男。大きい帽子を被った魔法使い。


 あぁいう人がいるということはギルドとかクエストとかそういうのもあるってことだよな?


「ん?」


 何かと人だかりが出来ている場所。


「ユリエスあれは?」


「クエスト紹介所よ。って知らないの?」


「田舎者だからな。そういう知識は全く」


 魔法の強さの他にユリエスの知識もこの世界を生きていくには頼りになる。

 右も左も分からない以上、しばらくはユリエスに依存して学んでいくしかない。


 クエスト紹介所には傭兵やら冒険者やらの男達。案の定女性は一人もいない。目の前の巨大な掲示板には恐らくクエスト依頼の紙が無数にある。 


 何も読めない……どれから引き受ければいいんだ?


「ユウト、これとかは?」


「なんて書いてある?」


「読めないの?」


「あ、あぁ田舎者だからな……」


 これほどまでに田舎者という言葉を重宝したことはない。読み書きもなるべく早く覚えないと……。  

 英語すらまともに学べなかった俺が学習出来るかは不明だが。


「遺跡神殿でウルフハウンドを15匹討伐、報酬は金貨3枚に銀貨15枚。冒険者の適正ランクはC+〜Bー」


「ランク? 」


 適正ランク___。


 魔法派、武具派に関係なしに示される冒険者のランク。


 全部でDーからS+までの15段階のランクで分けられランクが高ければ高いほど報酬が高い高難易度のクエストを受けるのに有利になる。


 ランクを上げるには相応のクエストを何度も攻略していく必要がある。だがユリエスの話だとBランクとAランクでは雲泥の差があるらしい。


「俺達のランクは?」


「私は前に測った時はBー、ユウトのも測ってみる?」


 案内されたのはクエスト紹介所の直ぐ横にあるランク測定場。様々な冒険者が列をなしている。


 どうやら魔法石という物を使って輝きの具合で現在のランクを決めているらしい。


「ではこの魔法石に手をかざしてください」


 水色に輝く石の中にある手形のようなモノ。係員の誘導に従って手を置いた瞬間、魔法石は眩い光を放ち……ぶっ壊れた。


「えっ?」


「そ、測定不能です」


「測定不能!?」


 まさかあの神の力に耐えきれずに魔法石が壊れたのか? 

 これじゃランクもクソもないじゃないか。


「えっと……とりあえずCランクでお願いします」


 我に返りそこまで目立たなそうなCランクを選択する。

 啞然と困惑に包まれる空気。まさか壊すほどの力とは自分も思ってなかった。


「ユ、ユウト今のは……」


「何か不具合でもあったんだろうな!」


「いや魔法石が不具合なんて……」


「ほらっ早くウルフのクエスト受けようぜ! ウジウジしてたら取られちまうぞ」


 ユリエスにすらドン引きされる始末。ここは勢いでどうにかするのが得策。


 詰め寄られる前にクエストの紙を強引に取り受付に差し出す。

 

「このクエストでお願いします」


「はいよ!」


 受付嬢なんて言葉をよく聞くがそんなものこの世界にはない。受付にいるのはセクシーなお姉さんじゃなくて筋肉ムキムキの大男。


 あそこだけ湿度が高そうだ。


「さっ行こうユリエス」


 クエスト用の馬車に乗り国を出る。男のみということを気にしすぎていたが水の国ということもあり町の景色はかなりのもの。


 だかやはり女性という華がいないとどこか息苦しい。


「神殿まではかなりの距離がある。今のうちに仮眠しておいた方がいいわよ」 


 ユリエスと会ってからある1つの疑問が脳裏をずっと過ぎっていた。

 何かって? そんなのあれしかない。


(ユリエスが本当にどうか)


「ユリエス、お前男なんだよな?」


「それ以外に何かあるの? 男に決まってるでしょ。冗談はほどほどにして寝ておいた方がいいわよ。私は寝るから」


 案の定の返答。軽く俺の質問をあしらいユリエスは眠りに入る。寝顔は更に可愛い。


「男……?」


 どう見ても女の子だ。もう女の子にしか見えない。男じゃない。


 顔は美少女。身重も小柄。体格も華奢。声も少女。口調も少女。これが男と思う人がいるだろうか、いやいない。


(もしや……)


 という言葉がないだけで概念はあるんじゃないか?

 考えてみれば俺はまだこの世界のことをほぼ知らない。


 ユリエスは田舎出身だ。王国では偶然男しかいないだけでどっかの辺境に女性がいてもおかしくない。


「男と勘違いしてるだけじゃないのか?」

 

 概念がないならユリエスが自分を男と勘違いしてもおかしくない。そうだ女性だ。ユリエスは女性なんだ。


 まぁそうだよな、こんなかわいいのに男なんてあり得るはずがない。


(何だよそういうことだったのか!)


 変な心配をして損した。やっぱりユリエスは女性___。


ガタッ!  


「うぉっ!?」


 突然の大きな振動。何事かと咄嗟に辺りを見渡したが何も起こっていない。馬車が強く揺れただけか。


「ん?」


 体勢が崩れたユリエス。余程の深い眠りなのか全く起きずに無防備な姿で寝ている。

 スカートはめくれ掛け少し覗けば下着が見えてしまいそうな際どさ。


「全く無防備だな」


 華奢な身体を支え再び大勢を整えさせようとしたその時だった。


ムニュ……。


「ん……」


「えっ?」


 膝に感じる柔らかい不規則な弾力の何か。

 何事かと咄嗟に足を離すと原因は直ぐに分かった。


「やっば……!?」


 体勢を直そうとしてる中、無意識に俺の膝がユリエスの秘部に当たっていた。

 少し色気ある声を出したユリエスだが直ぐにまた静かな吐息と共に眠りについた。


「危なっ……」 


 不可抗力でありユリエスは寝ているとはいえ申し訳ないことをしてしまった。

 

 ……いや待て、何だ今のは。


 突起物に触れたような感触。    

 その感覚は今も膝に鮮明に残っている。


「何かを詰めていた? いやスカートの中に入れるか?」


 そのまま寝ようと思っていたのだが様々な考察が頭を錯綜し混乱する。

 それまで女性と結論付けた思考は一気に崩れ行く。


「ヤバい……気になる」


 どうするべきか。

 どうすればこの疑問を解決出来る。


「っ!」


 脳裏を過る選択肢。そういえば神から与えられた魔法にスカル・リングという透視の魔法があった。


 対象を定めれば何かに覆われていても出現した特殊リングで全てくっきりと見えるという便利なもの。


 あの感触だけで男と裏付けるのは無理がある。胸の大小は説得力に欠ける。

 となると調べるとすれば……スカートの中にある秘部。男女を見分ける唯一の方法。


「いやいやちょっと待て! 何を考えてる」 


 頭でもおかしくなったか。何でそんなヤバいことをしようと思った。

 もしユリエスな実は起きてたなんてなったら……想像しなくても酷いことになるのは分かる。


 止めよう。思春期の愚かな過ちだ。詮索しないのが得策。


「寝よう、それが一番」


 走り続ける馬車の音……。 

 時折吹く心地よい風……。

 永遠とも思える時間……。


 ……


 ………


 …………


「あぁダメだ眠れない!」


 だが寝ようと思っても全く眠れない。寧ろ心のモヤモヤがより大きくなっていく。

 

「……やってみるか」


 確認するだけ。ユリエスが男か否かと言うことを確認するだけだ。

 変態とでもクズとでも罵って構わない。それ以上に気になっているんだ。

 

「スカル・リング」


 魔法陣から出現した鏡のようなリング。

 これをユリエスに向ければ……。


 物音を立てず、繊細にユリエスのスカート部分にリングをかざす。

 そこには黒い下着と何か膨らんだモノが……えっ膨らみ?


「いや……もう一度だ」


 もう一度スカートをリングをかざす。

 そこには確かに膨らんだモノが存在する。


 それはまさしく男だということを決定付ける確実な証拠。

 そして女じゃないことを確定させる確実なる証拠。


「嘘だろマジかよ……!?」


 当たり前の結果をさらに裏付けることになってしまった。


 ユリエスは……男だ。






 


 




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