第7話 強すぎる力/二人の約束

 トラブルがあった店では人だかりが出来ている。多分あの重力魔法のいやユリエスの殺気が全体に広がったのだろう。


 即座に移動したのが功を奏したのか逃げた先の広場には誰もいない。


「危なっ……大事になる前に退散しておいて良かった」


「……」


 気まずい空気。申し訳なさそうにするユリエス。いや怒ってるという感情より驚いている感情の方が勝っているのだが。


「ユリエス、今の魔法は?」


「……ごめんなさい、気味が悪いでしょ?」


「えっ?」


「私の魔法は周りよりも高かった。でもそのせいで私は奴隷になった」

「何故だ? そんな強い魔法なら寧ろ重宝されるんじゃないのか?」


「そんな都合のいい話だったら……私も幸せに暮らせていたわ」


 重苦しい口から開かれた内容は何とも救えない話だった。


 ユリエスは獣人族として故郷で弟達と共に平穏に暮らしていた。


 だがある日、モンスターが現れユリエスは家族を仲間を守る為に強大な魔法を使用した。


 モンスターは全て討伐。しかし周りは称賛の声を向ける者はいなく寧ろとしてユリエスとその弟達を追放した。


「皆気味悪がってた。昨日まで仲良くしてくれた人達も豹変したように……」


 あの殺気を恐れたのだろうか。


 そして故郷を失い行く宛のないユリエスは弟達と共に奴隷になる道しか残されていなかった。この悲劇的な話はここで終わり。


「笑えるでしょう? 救おうと思って使った力が逆に周りから非難されるなんて、おかげで私は奴隷の身、弟すら守れないで……本当に私はつくづく無能よ」


 大粒の涙が溢れ始める。それまで被っていた冷たい仮面が剥がれ始める。

 

「笑っていいのよ? もう優しい善人のふりなんてしなくていいの。私みたいな危ない奴隷は捨てればいい、文句は言わない」


「ユリエス……」


「貴方が優しくしてくれたの……少しの時間だけど嬉しかった、でももうお願いだから私に構わないで!私に優しくしないで!私に……私なんかに価値を見いださないで!」


 次々と放たれる自らを蔑む言葉。頼むユリエス、そんな言葉を言わないでくれ。 

 もう止めてくれ。そんな思いを胸にユリエスの身体を抱き締めた。


「っ……!」


「止めてくれもう自分を貶すのは、お前は何も悪くない」


「……止めてよ、そんな慰め」


「慰めなんかじゃない。お前は皆の為に力を使ったんだろう?守りたいという正義で動いてそして守った。寧ろ褒められるべき行動だよ」


 人のためにやったことが常に感謝の意が返ってくることはない。俺が元いた世界だってそうだ。良かれと思ってやったことも返って迷惑となり非難されることもある。


 だからこそ誰かがその行動を認めなきゃいけない。肯定しなきゃいけない。


 俺の親友だったエイジも俺の行いをあいつなりに全てを肯定してくれた。だから俺もそうする。お前がしてくれたように。


「頑張ったんだよユリエス。結果的にこうなってしまったのかもしれないけどお前の頑張ろうとした行動は決して無駄じゃない。誰よりも立派なんだ。この世界にいる誰よりも」


 今さっき転生してきた俺に大層なことを言える資格はない。ユリエスの全てを分かった訳ではない。


 でも俺はユリエスを褒めて認めてあげたくなった。守りたくなった。父性本能ってやつだろうか。こんな青二才がそんな感情を抱くのは早すぎるかもしれないが。


「……馬鹿、貴方本当に馬鹿よ」


 強がっている言葉だがユリエスの声は震えている。肩には涙と思われる湿りが出来る

 コーウェルさんは生意気と言っていたがそんなことはない。寧ろ強い意志の現れだ。


「私以外にも優秀な奴隷はたくさんいる。私に絡まなければ貴方は苦労しない。私がいなくても貴方はこの世界で生きれる。貴方が幸せになる方法は他にもたくさんある」


「そんなの関係ない。俺はユリエスと一緒に旅がしたい。今出会ったやつにこんなこと言われても説得力ないかもしれないけど……」


「……本当に馬鹿」


 次に見たユリエスの顔は泣きじゃくりながらも不器用な笑顔だった。

 その顔がとても愛しく見れば見るほどユリエスを守りたいという気持ちが強くなる。


「本当にいいの? 私といたらまたあんな風に絡まれるかもしれない、貴方にまた迷惑を掛けるかもしれない」


「そんなのどんとこいだ! 何かあったらそいつブッ飛ばす……多分」


「フフッ……しまらないわね」


「ご、ごめん」


 転生して吹っ切れたと思ったが根にある自信の無さは今でも残っていた。

 あれだけ偉そうなこと言ったくせに本当にしまらないな……情けない。


「貴方の名前は?まだ聞いてない」


 そういえば自己紹介を忘れていた。


「俺は柏木ユウト17歳、名称は好きに読んでいい」


「じゃあ……ユウトでいいかしら? もし嫌なら変えるけど」


「それでいいよ、なら改めてよろしくなユリエス!」


「……ええこんな私だけど宜しくお願いするわ、ユウト」


 太陽が美しく照らす中、俺達はパートナーとしての誓いの握手をする。


 これからどんな運命が訪れどんな人達と出会うのか不安もある。でもそれ以上に未来への希望が更に強くなっていく。


 これがユリエスとの出会い。俺の異世界冒険の最初の到達点。物語はまだまだ始まったばっかりだ。


 

 








 


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