第6話 物騒な料理・最初のトラブル

 そこらの町を渡り歩きたどり着いた場所。木造の立派な建物。

 相変わらず文字が読めないがガラス越しに料理を食している者が見える。多分ここが飲食店だと思う。


「いらっしゃいませ!」


 入った瞬間、鼻孔を刺激したのは食欲をそそる肉の匂い。それと無駄に筋肉がある男。

 案の定周りの客も男だらけ。甲冑を着てる者もいれば高級そうな服を着ている者もいる。


 俺にとってはすっごく……暑苦しい。


 ユリエスのようなかわいい系が異常なほど目立っている。店内にいる数人もユリエスを物珍しい目で見つめている。


「何人様でごさいますか?」


「2人で。席はどこでも」


 案内されたのは町行く者がよく見えるガラス側の席。外を見ながら食べるのが好きな俺にはとてもありがたい。


「ご注文は?」


「えっ? あっえっと……」


 手渡されたメニューには色々記載されているが全部分からない。

 「オススメは何ですか?」と聞いてもいいがこの世界の食文化が分からない状態でそれはかなり危険。


 目玉の料理だとかグロテスクな物が出てきた時には絶対に吐く。

 魚の捌きすらまともに見れないほどグロ耐性ないのにそんなの見れる訳がない。


(どうする……そうだ!)


「ユリエス、好きなモノ選んでいいぞ」


 ここは文字が読めるユリエスに任せて何か物騒な名前の料理があれば除外する作戦で……。


「この赤龍のフカヒレ、狼の舌の串焼き、大蛇のスープ、それとスライム風味のパフェを」


 全部物騒な名前でした。

 というかスライム風味のパフェって何!?

 スライムって食べれるの!?


「そちらは?」


「じ、じゃあ同じもので」


「かしこまりました、少しお待ちを」


 目を光らせ頼み続けるユリエスを遮るタイミングがなく結局全て頼むことになった。

 全て物騒な名前のせいで厳選もクソも出来ない。こうなったら覚悟を決めて食べるしかないか……と身構えていたが。


「へいお待ち!」


「おっ?」


 物騒な見た目の割に意外と見た目は普通。香りも悪くなく寧ろ美味しそう。


「美味しい……」


 少しばかり味が薄いが全て悪くない。警戒していたスライム風味のパフェもしつこくない甘さで食べやすい。


 JKの間で流行っていた原宿やら渋谷の見た目重視の無駄にデコレーションされてるパフェよりも全然美味しい。


(名前の偏見で決めるのは早とちりだったか)

「どうだユリエ……スゥ!?」


 いつの間に平らげている。えっ1分も経っていなかったよな?俺なんかまだ全てを味見していた段階なのに。獣人族の食欲ってこんなに強いのか?


「あぁ……久々のまともなご飯」


 光悦した顔で満足した表情を浮かべるユリエス。初めて笑顔を見た。まぁ満足してくれたなら別にいいか。


「満足してくれたなら良かったよ」


「っ! べ、別に……」


 我に返ったのか咄嗟にいつものムスッとした顔に戻るがさすがに遅い。というか耳やら尻尾で満足してるのが丸分かり。


 逆にその頑固でツンデレな一面が可愛く見えてきた。反抗期の娘を持っている親は多分こんな感じなんだろう。


 まだ17歳になったばっかの青二才だが。


 そうやってユリエスを娘を見るように楽しんでいたその時……。


「おい」


 二人組の巨体の男が俺らに話し掛けてくる。目付きが悪い。多分好意的な考えで接してきた訳ではないだろう。


「そいつはお前の奴隷か?」


「そうですけど。奴隷というよりパートナーですが」


「パートナー?アッハハハハ!」


 高らかに響き渡る嘲笑。片方の男は腹を抱えて狂ったように笑う。


「こいつがパートナー冗談もよしてくれ、ここは獣人が入っていい場所ではないんだよ」


「そんな決まりが?」


「決まりもクソもない。こういう奴がいると飯が不味くなるんだよ」


 馬鹿にするようにユリエスを見下す二人。これがコーウェルさんの言っていた偏見持ちの野郎か。


 この二人がどんな背景を辿ってきたかは知らないがこの態度は流石に腹が立ってくる。


「決まりじゃないならこの子を退室させる権利なんてありません、そんなただの偏見で決めないで欲しいです」


「んだと? 傭兵の俺達にずいぶんな態度だなぁ?」


「坊主少しばかり遊ぼうぜ。この世界のルールってやつを教えてやるよ」


 俺の肩をガシッと掴んでくる。言葉で終わってくれれば良かったがこうなってしまえばもうその手段は残ってない。


 仕方ない。どうなるか分からないがここは魔法を使っ「アンダー・グラビティ……!」


「えっ?」


 突然の詠唱。その瞬間、二人の男は木製の床を突き破るほど地面に叩きつけられる。

 

「ぐおぁ!?」


 ムキムキの筋肉を持ってしても身体を持ち上げることが出来ていない。寧ろよりめり込んでいき顔が段々と見えなくなっていく。


(俺の魔法か? いや詠唱してないはず)


「好き勝手言って……」


「っ!?」


 背筋が凍るほどの殺気。死神に抱き締められたのかというくらい身体は硬直する。

 溢れる冷や汗を震えた手で拭き取りゆっくりと振り返る。


「ユ、ユリエス……?」


 赤く光る瞳。狂気的な形相。右手に出現する魔法陣。それまでの素直じゃない可愛らしいユリエスの姿はどこにもない。


「ユリエス!」


「はっ……!」


 突然理性を取り戻したのかのようにいつものユリエスへと元に戻る。

 

「お前今の魔法……」


「あっ……こ、これは」


 多分あの重力の魔法はユリエスからのだ。華奢な身体からは考えられないほどの威力。


 まさかこれがコーウェルさんが言っていた「魔法は強い」という部分……いや強すぎないか!?

 

「あのお客さん……」


 めり込む男。困惑する客と店員。


「し、失礼しました!」


 料理代と床の修復代を込みで金貨を2枚払いその場を足早に後にする。


 もしかして俺はとんでもない子を仲間にしてしまったのか……?


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