第26話 怒りの蹴撃
雲ひとつない素晴らしい快晴の日。春のような涼しい風。
「来たか……」
やってきた試験の日。今日によって今後の未来が変わってくる。
「大丈夫よユウト貴方は頑張ってた。絶対にいけるわ」
「そうだよマスターいけるよいける! 何を頑張ったかはよく知らないけど!」
「……レシリーお前は話に入ってこないでくれるか?」
「辛辣!?」
よく分かってないレシリーはとりあえず置いといて今日まで人生で一番勉強に挑んだ。
これが俺の大学受験。当たって砕けろ。とにかく全力を出すんだ。
試験会場となる場所には何人もの男が集まっていた。全員がライバルと思うと少しばかり気が引ける。
「うわぁ人が多いね!」
「当たり前よ。上級魔法派は魔法を扱う者にとって目指すべき目標なのだから」
「そういうのよく分かんないや。てかユリエスも試験に受けるの?」
「もちろん、成人年齢である16歳を超えれば種族関係なく誰でも受けれるからね」
成人年齢の低さには驚いたがおかげで俺もユリエスも試験に受けられる。
「試験まで時間があるな、そこらで時間を潰して「おい」」
別れの言葉を遮るドスの効いた声。何事かと振り向けばいかにも偉そうな顔をした金髪の男。周りにはガラの悪そうな大人が数人。
「どきな坊主、ここは俺のスペースだ」
「オラオラどけどけクソガキ! ここはバイドさんの私有地なんだよ!」
なんだこのいかにもDQNのような風貌と言動の集団は。
私有地だとか急に何なんだ?
「そんなの誰が決めたんですか? ここは公共の場所では?」
「今決めたんだよ! ごちゃごちゃ舐めたこと言ってると捻り潰すぞガキが!」
あぁ駄目だ会話できないタイプだ。こういう話が分からない大人が少なからずいるのは前世でもここでも変わらないらしい。
にしてもこの人は誰だ?
「まぁまぁエイスド落ち着きな。世間知らずの坊主に教えてやるよ。俺は最強の魔法派バイド・グロウスだ。ランクはAー」
Aーだと? Aランクに上がるのは至難の業とユリエスが言っていた。つまりかなりの実力者ということか?
「誰ですか?」
「誰ですかだと?」
「「「アッハハハハ!」」」
「こいつは傑作だ。こんな田舎者がこの王国にいるなんてな」
だが何処か迫力がない。絵に描いたような小物感。多分馬鹿にされているのだが滑稽にしか見えなくて怒りも湧いてこない。
そもそもこんなガキにマウントを取りたがる時点でやってることが小さい。
(面倒な人に絡まれたな……)
これ以上関わっても意味がない。適当に会話して抜けようとしたのだが。
「っ!?」
背後に伝う2つの殺気。恐る恐る振り向けば狂気に満たされた仲間が彼を睨んでいる……。
「ねぇユリエス……こいつすっごくぶっ飛ばしたいんだけど」
「貴方と意見が合うとはね……私もよ」
ヤバいキレてる。ユリエスだけじゃなくレシリーまでキレてる。
「ちょユリエス、レシリー!」
「下がっててユウト」
「待て待て!」
今にも爆発しそうなユリエスを必死に止める。ここでまたキレたら何が起こるか分からない。
「よせユリエス、無駄にトラブルを引き起こすのは良くない。お前だって分かるだろ?」
「っ……それはそうだけど貴方は悔しくないの?ここまで一方的に言われて」
「そりゃ俺だって嫌だよ。でもここで殴りかかるのは違う。言わせておけばいいさ」
「……分かったわよ」
ボルテージを上げていたユリエスの怒りはようやく静まっていく。
俺だって嫌なこと言われたらもちろんキレる。そんな聖人じゃない。
そんなことしたって何の意味もないし周りから滑稽と思われるだけ。何を言われようが媚びず無視するのが妥当な判断。
「てことだ、レシリーお前も」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょぉ!?」
今更の静止が間に合うはずもなくレシリーの怒りが込められた蹴りは彼の腹に強烈な一撃を叩き込む。
やってしまったまたいらないトラブルを作ってしまったぁ!
「おっといきなり攻撃はいけないな〜坊主」
「なっ!?」
と思ったのだが彼の腹にはバリアのような壁がレシリーの蹴りを防いでいた。
態度はしょうもないが実力はAーという立場に見合っている。
「プロテクト・アヴェイル、俺が編み出した最高の防御技さ。坊主達のような貧相な蹴りではこのバリアを破れる訳がない」
「何だと!?」
「威勢がいいのは構わないが感情的なのは良くない。さっさと帰りな」
嘲笑と共にバイドは俺達がいたエリアを占拠していった。
「あっ! ちょっと待てまだ終わって」
「おい」
「ちょマスター何で止めるのさ!?」
「いきなり蹴りを叩き込む奴があるか! 」
ユリエスと違い怒りを爆発させるレシリーをどうにか引きずり場を後にする。
「甘いよマスターあぁいう奴にはガツンと一発やってやるんだよ!」
「あのなぁ……試験前に変なトラブルを起こすな、あんなの気にした方が負けさ」
「ぐぬぬ……でも許せないよ! 僕が言われるのはいいよ、でもマスターを馬鹿にされるのは癪に障る!」
「いいんだよ。俺は怒ってないし」
俺のために怒ってくれるのはとても嬉しいが手を出すタイミングじゃない。
「むぅ……まぁマスターがそう言うなら深追いはしないけども、あぁブッ飛ばしたい!」
開始前に色々トラブルにあったが切り替えるしかないな。あんなのに気を惑わされて受験失敗なんてたまったもんじゃない。
「只今より王宮魔法派試験を開始します。エントリーされた方は番号札を持ち筆記試験会場までお越しください!」
「来たか」
開始を告げるアナウンス。
遂に始まる俺の受験が。
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