第30話 WINNER
「勝者2843番ユウト!」
湧き上がる歓声。熱狂する観戦人。
「っしゃぁ!」
勝利の喜びをガッツポーズと共に全身で表現する。これまで溜まってたストレスが全部吹き飛んだ。
「あっ……がっ……」
身体全身に大やけどを負っているが息はある。ルールには違反していない。
死ななければ問題はない。こんな奴にはこれくらい痛めつけとかないとまた同じことを繰り返す。
「マスタァァァァァァァ!」
「ぐぉっ!?」
勢いよく飛び込んでくるレシリー。石頭が腹部の溝に直撃する。
「凄いよマスター最高だったよ!」
「 痛い痛い痛い抱きしめんの止めろ!」
こいつ華奢な腕のくせになんてパワーだ。 抱きしめられてるだけなのに腰部は悲鳴を上げている。
いやあんなデカい大剣をいとも簡単に振り回し時点である程度の力は予想してたが。
「リフレクトを利用したカウンター返し……全くよくもそんな発想が思いつくわね」
驚いたような呆れたようなユリエスの顔。だが口元は笑みが溢れており安らかな表情を作っていた。
「ぶっ飛んでるか?」
「いい意味でね。おめでとうユウト」
「っ……!」
「どうしたのユウト?」
「い、いや別に」
破壊力が凄まじい。好きな人に褒められるとここまで気持ちいいものなのか。
寒くないのに全身が鳥肌立ってる。もう男だからとかどうでも良くなってる。
性別の垣根を超えての恋心。
愛の形は無限大だ。
「さて結果の申請に行きましょう」
実技に勝利した者は室内の試験場へと再び集められ結果を通達される。
返された成績書にはユリエスは筆記試験、実技試験共に満点のトップ。
俺は筆記試験はボーダーラインギリギリだったが実技試験は満点。
どっちも王宮魔法派になることが出来た。
本来ランクの昇格には毎回テストがあるらしいが合格した為、いきなりAーからのスタートとなる。
俺ら以外に合格したのは僅か5〜6人ほど。実技で勝ったが落ちた人も多い。
それほどシビアな試験だったのだろう。自画自賛のようになってしまうがよく受かったものだ。
「おめでとうございます! はい上級魔法派を示すバッチです。紛失されますと再発行に時間が掛かるので失くさないようにお願いします」
胸元で輝く黄金のバッチ。これでようやく上級魔法派になったという証明がなされた。
「ユウトさーん!」
「あっルイスさん」
「良かったお二人共合格したのですね!」
「えぇ色々ありましたが……とりあえずは」
こちらを見つけ次第、一目散に掛けてきたルイスさん。
祝福の笑みはとても朗らかで作り笑顔ではない心からの笑顔に見えた。
「そういえばあのク……いやバイドとという人は?」
「あぁあの人ですか? 審査委員会も手を焼いていたそうですが……包帯ぐるぐる巻きの状態で今さっき号泣しながらこれまでの行いを謝罪してたそうですよ」
ザマァないな。
その光景を想像するだけで笑いがこみ上げてくる。あぁいうのがやられるシーンはどこでも痛快だ。
「さてマスター、僕もランクが上がったしこれでまたクエストに行けるね!」
「えっランク上がってたのか?」
「うんルイスさんに頼んだらB+まで格上げしてくれたよ!」
「えぇ!? いいんですか?」
「はい、本来は監査員と共にランクを上げるのが一般的ですが今回は私の推薦という形でレシリーさんのランクを上げました」
(ルイスさん凄いな……)
知らぬ内にレシリーも無限回廊攻略の功績でBーからB+まで昇格してたらしい。
推薦だけで上がるとは上級魔法派はそれほど社会的に信用されてるのか。
まぁしかしこれで全員高水準のランク。これまでよりも自由度を高くして動くことが出来る。
「それでユウトさん、兼ねて王宮魔法派になった訳ですがこれからの予定は?」
「そうですね……フリラード王国よりも栄えた、特に書物が多い国に向かいたいです」
行くとなるならやはり情報が豊富な国。フリラードにはこの世界の核心に迫るような書物は1つも無かった。
となるとここよりも繁栄した国に行くのが一番の最善策。
奇行が多い3年前の転生者の情報や道筋も見つかるかもしれない。
「なるほど……ならエスラルド王国が一番いいと思いますよ」
「エスラルド王国?」
「北東を80キロ向かった所にある国です。音楽面で優れていますが知識面も栄えており一番の特徴は全長300メートルにもなる大図書館です!」
大図書館。まさに俺が望んでいる物がありそうな場所じゃないか。
それにここよりも栄えているということは転生者の存在、世界の秘密を知っている者もいるかもしれない。
そこに行く以外の選択肢はない。
「ただ少し問題がありまして……」
「問題ですか?」
何だまた何か深刻なことでも起きているのか?
「80キロの長旅となるとやはり道中で中級モンスターも沸きますし安全に着ける保証はありません」
「何だ、それくらいなら覚悟決めてますよ」
様々なモンスターがいるこの世界。日本みたいに安全が保証されてるなんて思ってはいない。
下手をすれば死ぬ覚悟はもう出来てる。能力を借りてるからって無敵じゃない。
「いえ一番の問題はモンスターではなくある山道でして……」
「山道?」
「マグマ・ロード」
マグマ・ロード?
何だその明らかにヤバそうな名前は。
無限回廊よりも危険さがプンプンしてる。
「上級モンスターが住み着いてる火山地帯がありまして。エスラルドへの唯一の道なのですが最近は活発期が続いており……」
「つまりエスラルドには行けないと?」
「いえ行けなくはないですが……かなり危険な状態です。しかし火山活動が停滞するタイミングは掴めません」
「迂回は?」
「火山地帯の道以外はまだ整備がなされていません。足場が不安定かつモンスターも多いので危険の具合はほぼ同じです」
つまりどちらにしろかなり危険な道ということか……。
「……行きますか? 一応聞きますけど」
「えぇもちろん」
「やっぱりそう言うと思いました」
全く次から次へと危険なイベントが訪れる。こんなに起きるとさすがに慣れてくる。
もう感覚が麻痺してきた。
「無限回廊を突破したんです。もう止めはしません。ですが今回は私も同行します!」
「ルイスさんも?」
「さすがにマグマ・ロードを何の対策なしに進むのは危険です。僅かな力にしかなりませんが私も協力します」
「でもそれじゃルイスさん自身が……」
「私もエスラルドへ向かう予定でした。そこに関しては問題ありません」
ありがたい。
ユリエス、レシリーに加えて新たな仲間。
実力は未知数だが心強い。
「てことでマグマ・ロードには1ヶ月後に向かいます。それまでにこれ全部やっておいてください」
「えっ?」
渡されたのは目が痛くなるほどびっしりと書かれているリスト。
馬の仕入れ。
防具の手入れ。
火耐性の魔法の入手。
3日ほどの食料の調達。
その他諸々。
「あのこれ全部やるんですか?」
「もちろんもう1つでも満たせていなかったらマグマ・ロードへは許可しませんからね」
……これはまた忙しくなるかもしれない。
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