第29話 上級魔法派試験③

「ではこれより第25試合、2463番バイド・グロウスと2843番ユウトの試合を始めます両者前へ」


「バイドさんそんなガキブッ飛ばせ!」


「瞬殺だ瞬殺!」


 奴を持ち上げ俺を貶す大声のヤジ。


「マスター負けるなぁぁ!」


「ユウト頑張って!」


 2人だって負けてない。ヤジの大合戦に観衆も何事かとボルテージが上がっていく。


「おいおいあの子バイドと戦う気かよ」


「逃げりゃ良かったのに……これで何人目だ?」


「新人潰しのバイド……試験に顔を表しては魔法派の卵を潰していくゲスな奴」


「止めとけよあいつはAーだそ? 変なこと言うと目をつけられて制裁を食らう」

 

 ヒソヒソと聞こえる観衆の声。なるほどそういうことか。

 目の前にいるこいつは状況魔法派になる気など毛頭なくただ出る杭は打ちたいだけの差別主義者。


 だが実力はあるから誰も口出し出来ない。一番たちの悪いパターンだ。反吐が出る。


「フンッ坊主、逃げずにここに来たことは褒めてやるよ」


「逃げる? まさか」


 会場ブッ壊れるだとかそんなこと今はどうでもいい。なるようになれだ。

 そんな冷静なことを心配するほどに心の余裕はない。


 レシリーを……ユリエスを馬鹿にされて正気でなんていられない。


「では試合はじめ!」


 開始を合図するアナウンス。

 同時に足を蹴り上げ間合いを詰める。


「フンッそんな無作為に突っ込んだところで……」


「ブラスト・アクセル」


「えっ?」


 加速魔法で一気に背後に回り込む。


「ロック・フィスト!」


 そのまま巨大な土の拳を顔面を抉るように叩き込む……!


「ぐおっ!?」


 歯が折れ上空へと吹き飛ばされるバイド。番狂わせに観衆が大いに沸く。


「ま、マジかあの子供バイドに一撃を食らわせたぞ!」


「馬鹿な……今の速さは!」


「遅い。それで最強ですか?」


「ガキが……ユグドラシル・ライド!」


 バイドの周りを囲む植物のような触手。先端は鋭利に尖っている。

 よしよし感情的になっている。まずは奴の綻びを作り出す。


「ブラスト・アクセル」 


 再び加速を行い次々と迫りくる触手を避け続ける。

 

「ジュゼッペ・カッティング!」


 風の刃で触手を切り刻んでいく。速度は速いが精密性は低い。冷静に対処すれば何も問題はない。


「こいつ……手こずらせるな!」


「貰った」


「っ!?」


 周りが見えなくなった奴は俺が既に回り込んでいることにも気付いていない。

 

「フレイム・バスター」

 

 炎の刃の峰打ちで胸部を抉る。

 軋む骨の音。そんなの一切構わずに更に力を込め一気にブッ飛ばす……!

 

「ぐぶぁ!?」

 

 唾を吐き散らし腹を抑え崩れるバイド。

 汚い嗚咽だ。ゲス野郎の悶る姿など見てられない。目が腐る。

 

「このガキ……!」


 次の一撃で終わらせる。幸い運任せの魔法も安定した高威力で発動している。


「……ハッ……ハハッ……アッハハハッ!」


「っ?」


 突如狂ったように笑い始めるバイド。

 気でもおかしくなったのか?


「勝った気になるなよ坊主、プロテクト・アヴェイル」


 彼を取り囲むように生成されるバリア。

 このバリア……レシリーの蹴りを防いだやつと同じか。


「そんなバリアがどうだっていうんだウォーター・フォール!」


「カウンター」


 水の波動を受け止めバリアの中へと吸収される。

 同時に集約された波動は俺の方へと勢いよく跳ね返してくる。


「なっ……!?」


 このバリア……防御だけでなく反射の能力も持っているのか。

 間一髪避けたが反応が一歩遅れ頬から血が垂れている。


「はぁ!? 何あの魔法!」


「かなりの上級魔法ね……防御に反射、それに返した魔法は2倍の威力に底上げする」


「めっちゃ強いじゃん!?」


「あいつ性格は最低最悪だけど技術は高いようね。私でも持ってない」


 ユリエスですら所持していない魔法。

 一筋縄ではいかないということか。


「惜しかったな……お前の実力は認めてやる。だがこのバリアが貼られた以上お前に勝ち目はない!  いくらでも魔法を撃ってこい全て跳ね返してやるよ」


「チッ……」


 反射する防御魔法。俺も出せるがお互いに防御じゃ決着がつかない。さてどうするか。


 ……いや待て、それこそ活路じゃないか?

 デジャヴを作り出すことこそが____。


「インフェルノ・ドライブ・フェニーチェ」


 上空に浮かぶ不死鳥の形をした業火。

 かなりの威力で出現した不死鳥は俺の合図と共に螺旋を描き突撃を始める。


「ほぅ?  炎魔法の上級。だが無駄だ!」


 バリアの中に吸収された業火はドリルのように集約され再び反射する。


「今度こそ終わりだクソガキッ!」


「プロテクト・アヴェイル」


「何!?」


 その魔法を使うことを俺は待っていた。

 迫りくる業火に対し鏡のように奴の行動を真似る。出現したバリアは再び業火を吸収する。


「馬鹿な何故その魔法を!」


「……さて、このバリア2倍にして跳ね返せるんですよね? つまりこれから貴方に食らわせるのは更に2倍にした4倍の攻撃」


「!?」


「その威力にバリアは耐えられますか」


「ま、待て! 待っ……!」


「燃え尽きろ……クズ野郎!」


 待つわけがない。

 バリアに凝縮した業火をドリルのように変化させ一気に叩き込む……!


「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」


 無敵を誇っていたバリアはバラバラに崩壊しバイドを焼き尽くした。

 

「人にしてきた理不尽な痛み……これで少しは分かったか」

 


 


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