第28話 上級魔法派試験②

 会場を移された場所はまさに闘技場のような場所。数百人以上いた受験者は大幅に減っている。


「これ殺し合いとかしないよな?」


「そんな訳ないでしょ。死なない程度に戦うだけよ」


「それ大丈夫かよ……」


 死なない程度にって逆に言えば死ななければどれだけやってもいいっことだよな?

 なんて野蛮なやり方なんだ。


「うわぁいいねぇ! 僕もやりたかったな〜」


「というか何でレシリーがここにいるんだよ?」


「観戦は自由なんだよ〜観放題なんだよ〜戦えないのは辛いけどマスターとユリエスの戦いも見てみたいよ。堪能したいよ!」

 

 もう完全に闘技場じゃねぇか。

 試験なのに見られるというのはよく分からないがこの世界がそうなら従うしかない。

 

「しかし見られるのはな……なんとかするしかないか」


 もし仮に運任せ魔法がとんでもない威力で出てしまったらどうなる?


『きゃぁぁぁぁ!』


『会場が……!』


『何なんだよあいつ!?』


『化け物だぁぁぁぁぁ!』


 ……とかになったりしないよな?

 会場ブッ壊して対戦相手殺したなんてなったら立場的に絶対にヤバい。


「ではこれより実技試験を行います!  対戦相手は掲示板に掲載してあるのでご確認をお願いします」   


「もう始まるのか……」


 不安をよそに直ぐに実技試験が始まる。


「ファイヤー・スピア!」


「ブリザード・クラッシュ!」


 合図と共に戦いを始める受験者達。

 お互いの持つ魔力を全力でぶつけ合い競い合う。見てるだけならいい娯楽だ。


「番号的に私の方が早いわね。えっと対戦相手は……」


「何だぁ? お前が対戦相手かよ」 


「ん?」


「忘れたとはいわせねぇぜ。俺はバイドさんの右腕の魔法派エイスドだ」


 テンプレのようなイキリ声。振り向くとそこには金髪頭の……いや誰だこいつ。


「えっこんな人いた?」


「レシリー知り合いにいる?」


「いやいやこんな趣味悪い奴に知り合いはいないよ。それにキモい音しか耳に入ってこないよ……」


「はぁ!? 忘れてんじゃねぇよ。さっきバイドさんの隣にいただろ!」


 ……あぁそういえばイキリ散らかしてる人がなんかいたな。

 存在感無さすぎてすっかり忘れていた。


「とんだ肩透かしだな。こんなチビガキが相手だとか魔法を使わなくても勝てるぜ。ヒャハハハハハハハハ!」


「……そう」


 あっヤバいこの人死んだ。

 ユリエスの顔が怒りに染まっていく。


「まっせいぜい無駄あがきを頑張りな」


「……ユウト、ここでは死ななければ何してもいいのよ。だから少しは好きにしてもいいわよね?」


「は、はい……お好きにどうぞ」


 そして結果はどうなったかというと……。


「ごはっ!?」


「ほらっ早く立ちなさいよ」


「バガな……Bランクの俺が……!」


 案の定ユリエスの圧勝。

 散々イキっていた金髪頭は顔面をフルボッコにされブッ飛ばされている。

 

「ぎ……ぎざまぁ!」


「グラビティ・ブラスト」


「!?」


 飛び掛かった身体を容赦なしに重力魔法で地面に叩きつける。


「あんなセリフはねぇ……強くなってから言いなさいッ!」


 ドドドドドドドドドッ!


「ごぶぇぇぇ!?」


 重力を纏った蹴りのラッシュが金髪頭をノックダウンさせる。

 

「し、勝者2672番ユリエス!」


 終始一方的だった試合。審判は愚か見物客までもがドン引きしている。

 うん、俺だってドン引きした。怒らせたらレシリーよりもヤバくなるんじゃないか?

 

「ふぅ……スッキリした」


 そんな観衆とは裏腹にユリエスはストレス発散を果たしたスッキリ顔で戻ってくる。


「お、お疲れ様ユリエス」


「大したことなんてしてないわよ。少し気に触れたから……好きなようにやっただけ、ね?」


「は、はい」 


「マスターユリエスって結構怖い?」


「結構というか……かなり怖い」


「本気で怒らせたらヤバいね……」


「あぁお互いに気を付けよう」


 笑顔なのだが完全に目が笑ってなかった。ヒソヒソ声で怒らせてはいけないとレシリーと約束する。


「さて次は俺の番か、対戦相手はっと……」


「よぉ坊主」


 ドスの効いた声。ガタイのいい大柄で筋肉質な身体。見下すような視線。

 この人まさかさっき俺に絡んできた人か。


「まさかお前とは奇遇だな」 


「あっ!  こいつさっき勝手に場所を占拠した奴!」


「おいおい酷い言いがかりだな〜強者は常に場所を持っているんだぜ? このバイドはな」


 また自分で強者の謎理論を言ってるよこの人。確かにレシリーの蹴りを防ぐなどと実力は確かだと思う。


 筆記試験を突破してるのもその証拠。だがどうも大物感というか威圧感を感じない。


「マスターやっぱりこいつぶん殴っていいかな?」


「止めとけ」

 

「なら蹴りで!」


「そういう問題じゃねぇよ!」


 毎回暴力で解決しようとするな。しかしこの態度には俺も苛立ちが募っていく。

 これで大人なのは地獄だ。


「坊主、王様ごっこでもしてるのか?」


「はっ?」


「そんな小さい奴引き連れて。実に滑稽だな趣味だな」


「こいつ……いい加減にマスターを馬鹿にするのも!」


「弱者は黙ってろ。特にその銀髪の、こんな人間もどき仲間にして何の意味があるんだ?」




 ……あっ?





「獣人なんて森に帰って草でも食ってろ。人間様の世界にいる資格なんてないんだよ」






 ……こいつ本気で言ってるのか?





 

「貴方……いい加減にしないと!」


「待てユリエス」


 心の中にある何かが外れる。さすがにこの態度は……


「口はよく働きますね」 


「はっ? 」


「……」


「っ……フンッイキがるのも程々にしておくのが身のためたぞ」


 一瞬怖気づいたような顔になったが直ぐに強がりの笑みに戻り奴はその場を後にする。


「ユリエス、あいつにキレてるか?」


「法がないなら殺したいほどに。貴方が許可するなら直ぐにでも」 


「レシリーは?」


「もちろんボコボコにしたい!」


「その怒り俺が買ってもいいか?」

  

 ここまでのクズだとは思っていなかった。


「お前が満足するくらい……奴をボコボコしてやるよ」


 あの時の2人の怒りが分かった。俺が何を言われても別にどうでもいい。

 だが仲間を……レシリーをユリエスを馬鹿にされるのは許さない。


 穏便に済ませようとしていたが気が変わった。あいつは……ぶちのめす。





 


 

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