第39話 再生
………ト………ト……。
何処からか聞こえる小さな声。
それは震えている、だが真がこもったような力強い声。
俺を呼んでいるのか?
……ト………ウト………。
ここが何なのか分からないが何故か心は安らいでいる。
でもここにいてはいけない気がする。
……ウト………ウト………。
そうだ、俺は意識を手放したんだ。
あの灼熱を駆けてキャタピラーを倒して……その先は覚えていない。
俺は死んだのか?
いや死んでも受け入れられるほどの傷だったし心身共に崩壊してた。
ならもう終わりでいいか?
ここはゆっくりと眠れる気がする。
……ウト………ユウト………。
鮮明に耳に入っていく声。
ユウト……ユウト……!
いや違う……ここで終わっちゃいけない。
この声はユリエス。
俺に呼び掛けているんだ。
ユウト目を覚ましてユウト……!
終われない。終わってたまるか。
まだ俺はユリエスに何も伝えられてない。
まだ死ねない____。
* * *
「っ……」
曇ったような視覚と聴覚は徐々に鮮明さを取り戻していく。
俺の目に最初に写ったのは……涙をボロボロと流すユリエスだった。
「っ! ユウト!」
「ユリエス……?」
「ユウト……良かった……」
崩れるようにユリエスは俺の胸に顔を埋め静かに泣いている。
「マスター!」
続いて聞こえてきたのはあのうるさくやかましい、でも安心できる声。
姿を見なくても誰だか分かる。
「マスター大丈夫かい!?」
「ユウトさん!」
レシリーと、それにルイスさんだ。
久々に3人の顔が見た気がする。
「良かった……助かったんですね」
「俺は……生きてます?」
「えぇ先程までほぼ死んでいましたが」
焼け焦げ全く動かなくなっていた左腕は少しだが動かせるようになっている。
息苦しさも無くなり吐血もない。
きっとユリエスとルイスさんが治療魔法を使ってくれたのだろう。
「バカ……心配かけないでよこのバカ!」
「悪かったユリエス……変に無茶して」
こんな状況で言うのもおかしいが泣きじゃくるユリエスはとても愛おしく見える。
ゆっくりと綺麗で艶がある銀髪を撫でユリエスを安堵させる。
「ユウトさん、何か身体に違和感は?」
「特にはありません。スズネとシエルは?」
「どちらも無事です。ってまずは自分の心配をしてくださいよ……」
「全く無茶するんだからマスターは……僕でさえ本気で焦ったよ」
とりあえず全員が無事なだけで万々歳だ。
確かに無茶なことはしたと思うがまさかレシリーにまで言われるとは予想外。
「でも良かったです。さぁ治療魔法の効果がきれる前に抜けましょう」
処置はされたが完治していない身体。
身体もまだ思うように動かず結局ユリエスの馬に相乗りという形になる。
スズネはルイスさんに任せた。
「ユリエス?」
「……」
「まだ怒ってるか?」
「フンッ……」
赤くなっている目の周りはユリエスが泣いていたことを示している。
ムスッとした顔でこちらに目をあわせようとしない。
「あぁ……まぁその独断だったし無茶だったと思う、心配させてごめん……」
「違う、そうじゃない」
「えっ?」
「私はそんなに……頼りないの?」
「危なっかしいのよ!」といつもの強い声で怒られるかと思っていた。
だがユリエスの口から発せられたのは弱々しく震えている声での疑問だった。
「貴方のことだから私達を巻き込まない為に別ルートに行ったのでしょう?」
「……そうだな」
「その考えを否定するつもりはない。貴方の善意って分かってる」
見抜かれている。
俺の考えが全て。
「でも……私はそんなに弱くない。貴方に守られるだけの奴じゃないのよ。だから次からは私を信頼して欲しい」
振り返ったその目は……とても真剣で心からの思いを感じるモノを醸し出している。
何かが俺の心に刺さった。その目を見れば見るほど溶かされ魅力されていく。
「それでも頼りないなら貴方と同じくらい……いや超えるくらい強くなる。守られるだけの存在にならないために」
「……お前はもう強いよ」
俺じゃない。強いのはユリエスだ。
博識な知識と強くて豊富な魔法に何度助けられたことか。
その揺るぎない意志の強さに何度勇気づけられただろうか。
「悪いユリエス、何処かで無意識に守らなきゃって思っていたのかもしれない」
でもユリエスへの想いが庇護欲を掻き立て守ろうとしていた。
俺も何処かでユリエスを下に見ていたのかもしれない。
「これからお前のこともっと信頼する、でも守らせて欲しい、お前は……大切だから」
言ってしまった。
意識してこんなこと言うのは初めてだ。
「大切……私もよ」
その言葉と共にユリエスは優しい笑顔で俺の想いに応えてくれる。
もう狂おしいほど好きになってしまった。
ユリエスといれるなら世界も滅んでいい……なんてふざけたことも悪くないと思ってきた。
「ここからはエスラルドへ一気に突っ切ります、皆さんついてきてください!」
「よっしゃ! 行くよマスター!」
「落ちないでよユウト、しっかり私に捕まってなさい」
「もちろん、落ちてたまるかよ」
死闘を終え美しい朝日が昇る中、颯爽に馬は駆けていく____。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます