第38話 悪夢 【ユリエス視点】
「ユウトッ!」
止められなかった。
また無茶をしようとする彼を絶対に止めようと頭は考えていた。
でも身体が間に合わなかった。
「ユウト! ユウト!」
「ユリエス落ち着いて!」
直ぐに彼の元に向かわないと……。
ユウトが……ユウトが……!
「待ってくださいユリエスさん! 大丈夫ですユウトさんは生きています」
「えっ……?」
「分断された寸前にシエルをユウトさんの元へ向かわせました。あの子は生体反応を感知することが可能です」
「じゃあユウトは……?」
「大丈夫、探索の魔法にしっかりと反応があります」
頭を支配していた絶望の鎖が少しばかり無くなっていく気分。全身の力が異常なほどに抜けていく感覚。
「ユリエス!」
「大丈夫よレシリー……少し安心しただけだから」
ユウトが生きている。
その事実だけでもどうにか心を保っていられる。
「ですが油断は出来ません。ユウトさんがキャタピラーと共に進んだのは危険ルート、生還確率は……高くありません」
「……分かってる」
「とにかく私達も先に進みましょう。マグマロードの出口付近の安全地帯で再び危険ルートと合流することが可能です」
進めば進むほど噴火が激しくなるマグマ・ロード。
正規ルートでもこの危険。ユウトが進んだルートは……いや考えちゃいけない。
「グラビティ・ダウン!」
迫りくる炎モンスターを重力で蹴散らす。
生きてる。生きていると信じてる。
神殿攻略だって無限回廊だって彼は優れた機転で突破した。
「上位モンスターの反応はありません。このまま駆ければ無事に安全エリアへと向かえます」
「……マスター大丈夫かな」
「彼の魔力やセンスを見れば簡単に死なな「絶対にない」」
「死なない……ユウトは死なない……」
最初に出会った時、偽善者だと勝手に捉えてずっと警戒していた。
でもそれからユウトと過ごして、ユウトとクエストに行ってユウトと勉強して。
日に日に頭で彼のことを考える時間が多くなっていた。
「ユリエスさん……」
「大丈夫、ユウトは……」
いつの間にか大切な存在になっていた。何処か抜けてるけど頭がキレてる。
飾らなくて真面目で優しくて、でも突っ走り過ぎて危なっかしい。
信頼できる存在……それほど程度に思っていた。
「生きてなきゃ……私が……」
でも失って初めて気付いた。
ユウトが別れてしまったあの瞬間、怖くなった。失ってしまうんじゃないかと理性的でなんていられなかった。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
考えれば考えるほど信じたくない最悪な未来が頭を過る。
失ってしまうという可能性があって理性などやっぱり保ってられなかった。
私は……ユウトに依存していたんだ。
「大丈夫……大丈夫……」
何度も何度も自分に言い聞かせる。
レシリーは私に声を掛けているが何を言っているか聞こえない。
もうどれほど駆けたのだろうか。
「あと少し向かえば安全エリア、ユウトさんが向かった道と合流出来ます!」
顔を上げた際には既にマグマ・ロードを突破していた。
溶岩は減り火山の噴火も遠い安全で広大な場所。
反対にはもう1つの道。
ユウトが通ってきた修羅の道……。
「マスターの反応は!?」
「シエルの反応はあります。ですがユウトさんの反応が疎らで……」
「キュォォォォォォ!」
その時、遠くから鳴り響く高い鳴き声。
地面を駆ける馬の足音。
「この声シエルです!」
「ユウト……ユウト!」
頭よりも体が動く。
ユウト……ユウト……ユウト……!
ドサッ……。
「えっ……?」
スズネから倒れるように落ちる何か。
「ユウ……ト?」
無惨に焼かれた左腕と左目。
鮮血に塗れる衣服。
生気を感じない青紫の瞳。
「なっ!?」
「そんな……!?」
……嘘だ。
これがユウトなはずがない。
ユウトは……もっと笑顔を浮かべて……いつも通り話してきて……。
「ユリエス! ユリエス!」
「違うユウトじゃない……ユウトは生きて帰ってきて……」
「しっかりして! マスターは……」
「嫌……嫌……嘘よ」
「ユリエスッ!」
「っ……!」
「マスター助けたいなら悲しんでるだけじゃダメだよ!」
そうだ……。
弟達を失った時も呆然とすることしか出来なくて何も救えなかった。
また同じことを繰り返す?
違うユウトを……救うためには……!
「酷い傷……アフェイロ・エロース」
「ヒール・アフェクション……!」
ルイスさんの回復魔法に重ねるように最上級の回復魔法を放つ。
「ユリエスさん……!」
「大丈夫、私達ならユウトを!」
もう悲観したり嘆かない。
絶対に救う。
悪あがきでしかないのかもしれない。
それでもユウトを救う。
「マスターもう大丈夫だから! 直ぐに2人が治すから!」
何度も何度もレシリーはユウトに言葉を投げかける。
「そうよ……こんなとこで死んじゃダメよユウト!」
お願いユウト返事をして。
お願い。お願い……。
もう一度あの笑顔を見せて。
私の名前を呼んで。
私の全てを貴方に上げるから……。
他には何も入らないから……。
だから目を覚まして。
ユウト____。
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