エスラルド・パレード編
第40話 新天地
マグマ・ロード突破から既に数日。
長い長い旅はようやく終わりを迎える。
「着きましたよ、目的地に」
そびえているのは豪華な石造りの門。
中に入り見えるのは賑わいに溢れた活気のある歓楽街。
多種多様な種族が集まり談笑し目まぐるしく歩いている。
「やっと着いた……エスラルド」
達成感に心が震える。
本来は4日で到着予定だったが俺の傷も考慮して結局着いたのは7日後。
かなりスローペースだったがおかげで到着前に傷も完治することが出来た。
傷跡も残っていない。精神的にも安定している。
「ほぉ? 盛り上がってるじゃん!」
フリラードよりも賑やかで人も多い。
至るところから華麗な音楽が流れルイスさんの言うように音楽の国ということを全身で実感する。
……案の定ここにも女性はいないが。
もはや男のみの世界に慣れてきてしまっている自分がいる。
「ではユウトさん、私はここで失礼します」
「何か用事でも?」
「えぇ旧友の上級魔法派と色々と大切な話し合いがあるので」
他の上級魔法派とも繋がっているのか。
最強の魔法派とも繋がっているらしいし人脈が凄そうだ。
「今回はお疲れ様でした。また何か縁があることを祈っています。ではまた!」
「キュイ!」
ルイスさんとシエル。
どちらも頼もしい存在だった。
シエルも最初は俺のこと汚物のように嫌っていたがようやく懐いてくれた。
あそこまでしないと好かれてくれないというのもキツいが……。
「さて、じゃあ俺達も早速大図書館に「ストォォォォォォォップ!」」
「マスター早すぎたよ!」
「は、早すぎ?」
レシリーの大声に思わず足がすくむ。
急に何なんだ?
「余裕がないってこと! はぁ……君の頭に休むって単語は存在してる?」
ため息が混じった声と共に頭をツンツンとされる。
「いや別に休まなくても」
「だぁぁぁめ! マスターは無理しすぎなんだよ。僕でも引くからね!」
「今回ばかりはレシリーに同意。少しは休まないと許さないなわよ?」
傷も完治してるしそこまで疲れてない。
そのままの勢いで大図書館に進みたかったが……。
「ユウト駄目なの?」
「マスターほらっ休も?」
「っ……!」
こんなことされたらもう無理だ。
この2人に上目遣いで見つめられたらもう抗えない。
合理性とか冷静にとか考える前に俺の口はその提案を肯定する意思を発していた。
「……分かった休もう!」
「やったぁ!」
あんな瞳で見つめられたら誰だってOKにしちまうよ。
もう2人の提案を断れる気がしない。
とりあえずスズネは厩舎に預け久々にゆったりと国を歩く。
「しかし栄えてるな」
「まずは腹ごしらえ、さぁ食うぞ!」
「そうだな……ってユリエス?」
俺に異常なほどピッタリとくっついて歩くユリエス。
サラサラのツーサイドアップからの匂いは頭をクラクラさせる。
密着してるのはとても最高なのだが……何故こんなにくっつくんだ?
横切る人達も不思議そうに見つめてくる。
「何でそんな近くに……」
「……勘違いしないで。また勝手に無理させないために近くにいるだけだから」
あぁそういうことか。
自分の予想以上にユリエスに対して辛い気持ちをさせていた。
その事実が重いほど申し訳なく感じる。
「大丈夫、もうあんな無理はしないよ」
その後、近くの肉屋に入り連戦に次ぐ連戦だった死闘を労う。
喉も炎でやられていたせいで3日くらい何も食べられない日が続いた後の肉は格別だ。
「美味い……美味いぃぃ……」
「な、泣くほど?」
喜びの涙が止まらない。
肉汁をこれでもかと堪能し噛みごたえのある肉を食らう。
空腹もあって生きていた中で一番食べた。
「あぁ食った食った! 回復したな」
完全復活。
しかし食ったことで落ち着いてしまい躁状態は何処かへ消えてしまった。
おまけに少し……眠い。
「そんな状態で調べ事できるのかしら?」
「無理だな……今日は止めとく」
結局、大図書館での調べ事はさらに後回しにすることにした。
となると急に時間が空き暇になる。
「じゃあ今日はとことん音楽を楽しもうよ! ここは音楽の国、いやぁ興奮するねぇワクワクするねぇ!」
音楽大好き人間のレシリーからすればここは天国や楽園以上の場所だろう。
目を綺羅びやかせ誰よりもテンションが高ぶっている。
「しかし音楽って何があるんだ?」
「クラシック、民族音楽、その他にもたくさんある……ってルイスさんは言ってたわ。近くにオペラハウスがあったはず」
うわっどっちも聞いてこなかった系統だ。
前世で聞いていたのはほぼテクノ系。
しかも知り合いのピアノの演奏会の観賞に行った時はずっと爆睡してた始末。
機械の奏でる音楽に毒されている俺が果たして上品な音楽に価値を見いだせるのか。
「ここかなオペラハウス!」
とかを考えていれば直ぐに目的地へと着いてしまった。
「でっか……日本では見れないな」
「ニホン?」
「こっちの話だよ」
そびえる巨大な三角の建物。
白を基調としており見るからに優雅さというか一流みたいな雰囲気が漂っている。
俺みたいな奴は完全に場違いだ。
オペラハウスに入る者もダンディな紳士やら華麗なイケメンやら上品な人ばっか。
「なぁ止めないか? ここ入るのは……」
「なに言ってんのさっ行くよ!」
「ちょ!?」
結局レシリーに強引に連れられ中へと入ってしまった。
天井には豪華なシャンデリア。
貴族やら金持ち以外も全然見れる場所らしいが装飾がエグすぎる。
「まだ席空いてるって、ユウトこの公演を取りましょうよ」
びっしり書かれている公演の掲示板。
値段は3人で銀貨3枚と意外にも安い。
「はいよ、午前の部チケット3枚! 場所はグランドホールだ」
建物に似合わぬガテン系の男からチケットを渡される。
「そういえば兄ちゃんこんな噂知ってるかい?」
「噂?」
「今日このコンサートで王家の人がお忍びで来ているってことをだよ」
王家……?
王家ってこの国のトップレベルの人が?
「それ本当なんですか?」
「さぁ風の噂だからな。まぁ嘘だろうよ」
(なら何で言ったんだよ……)
そんな信憑性の欠片もない噂を見ず知らずの俺にしたのか。
ずいぶんとお喋りが好きな人だ。
「ユウト?」
「何でもない。早く行こう」
スタッフに案内されたのはそれはまた豪華な場所。
グランドホールという名に恥じぬ3階にも及ぶ大きなホール。
迫力が違う。ここにいるだけで一流になれたと錯覚してしまうほどに。
「凄いところだな」
ユリエスもレシリーも売店に夢中。久々の1人だけの時間。
今くらいなら独り言呟いても誰にも言われない。
「……王家か」
嘘っぱちの噂話だとしても気になる。
王家となればこの世界のトップの権力を持っているであろう存在。
是非その目で一度は見てみた「きゃっ!?」
「ん?」
背後から聞こえる少女のような声。
振り返るとそこには派手にこけた深く帽子を被った少年。
ユリエスより少し小柄な身長。
席に足を引っ掛けたのかだろうか。
「君、大丈夫?」
「す、すみません前を見てなくて……ありがとうございます」
「あっちょっと」
少年は俺の返答を待たずしてそそくさと行ってしまう。
挙動不審というか、焦っているというか何処か様子がおかしかった。
(何なんだ……?)
「お待たせマスター、ってどうしたの?」
「えっ? あぁいや何でもない」
少し気になるが深追いする必要もないか。
売店にいた観客は全員が席に着席しブザーと共に客席が暗転する。
「さぁ始まる始まる♪」
「あまり騒ぐなよ」
遂に始まる優雅なコンサート。
だがこの時は全く知らなかった。
俺達は既にこの華やかな国の闇に巻き込まれているということを____。
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