第41話 華麗なクライシス

 赤を基調とした幕が上がり中には華麗な楽器を持った演奏者が綺麗に羅列する。


「始まったか……」


 指揮者のわざとらしい大げさな指揮棒の動きに演奏者は鮮やかな演奏を奏でる。


 バイオリンは美しい旋律を奏で金管楽器は壮大さを演出する。

 

「素晴らしい……」


「これが庶民でも聞けるなんていい時代になったな」


 ヒソヒソと優雅な演奏を絶賛する国民達。

 音楽にはド素人の俺でも分かるくらいこんな凄い演奏をあんな金額で聞けるなんてかなりのお得だ。


「いいねぇ……旋律同士がダンスをして僕達の心を震わせる……!」


 絶頂が抑えきれてないレシリーから溢れる笑み。音楽になると跳ね上がる語彙力から生まれる絶賛の言葉。 


 あんなに過激な戦い方をする戦闘狂なのに音楽が趣味というギャップが凄まじい。


「……ユウト」


「どうしたユリエス?」


 そんな会場全体が音楽に魅了されている中……ユリエスはどこか不安そうな警戒していそうな表情をしていた。


「何か嫌な予感がする……」


「嫌な予感?」


「明確には分からない。けど……こう優雅な音楽の中に隠れて何か嫌な空気が流れてるような」


「気のせいだよ」と言っても良かった。

 だがユリエスの顔から出る冷やかしでも被害妄想でもない雰囲気がその言葉を喉元で引っ込めた。


「まさかモンスターがいるのか?」


「いやモンスターじゃない。でも何か不穏な空気が流れてる気がする」


(……待てよ)


 ー今日このコンサートで王家の人がお忍びで来ているってことをだよー


 あの販売所にいた男はそう俺に話した。

 まさかユリエスが感じているのは王家の人間がいるからなのか?


 いや何故王家に嫌な空気を覚える?

 

「……まさか」 


 その逆だったらどうなる?

 ユリエスが感じたのは王家の人間そのものではなく王家の人間に対する誰かの空気だとしたら……。


(そういえばあの時……)


 先程躓いていたあの少年。

 他の観客と違い何故か辺りを必要以上に見回し挙動不審に近い行動をしていた。

 

「あの少年が王家だとするなら……」


 これはあくまで根拠なんてない仮説。

 だが妄想だのという言葉で片付ける気分にはなれなかった。


「ユリエス、ここから見える観客で何か不穏な動きの者がいたら直ぐに知らせてくれ」


「え、えぇユウトは?」


「ちょっと人探しに行って来る」


 邪魔にならないように姿勢を低くし暗転している席を捜索する。


(その場を離れたが階段は使っていなかった。ということはこの階にいるはず)


「フィールド・サーチ、条件は150センチの少年」


 2階席のみに魔法を反映させ放つ。


 フィールド・サーチ。

 あの神から与えられた探索魔法の1つであり条件を加えることで対象を素早く探り当てることが出来る。


「……あそこか」


 2階席の端から反応する小さな人影。

 シルエットには帽子が見えぶかぶかのコートを羽織っている。

 

 間違いない。先程の少年だ。


 なるべく騒ぎにならないように徐々に近づいていく。


 その時だった____。


 バンッ!


「っ!」


 突如、コンサートホールの照明が一斉に消える。

 優雅に包まれていた会場は前触れもなく闇に呑まれる。


「な、何だ?」


「こんな時に停電?」


 ザワザワと異常事態に困惑する観客達。


「えぇ!? 何なの急に!」


 それはレシリーも例外ではなかった。


「停電……フィールド・サーチ」


 今度は全体に探査魔法を放つ。こんな時に偶然停電が起きたとは思えない。


「ん?」


 暗闇に潜む何か……。


 遠くから筒のような物を目の前の少年に向けている。


「筒……いや違う!?」


 筒と錯覚していたが真実は全く違かった。少年に向けられているのは……リボルバーの形をした巨大な銃。


バァン!


 次の瞬間、闇に染まった空間に一発の破裂音が響き渡る。


「伏せろ!」


「っ!?」


 頭で考えるよりも先に身体が動いた。弾丸が少年の頭を抉る寸前、ギリギリ間に合い少年を庇う。


「な、何だ!?」


「銃声!?」


「皆逃げろ!」


 その銃弾がトリガーとなり会場は一気にパニック状態へと変貌する。

 我先に外に出ようも出入り口には人が密集し騒ぎは更に大きくなっていく。


「クッソ何なんだ!」


「ユウト大丈夫!」


「マスターこれは一体!?」


 そんな中でも冷静な2人は観客の雪崩を避けながらものの数秒で俺の元に合流した。


「話は後だ。ユリエス、レシリーこの子を安全な場所まで避難させてくれ」


「この子は……?」


「多分訳ありな子だ。とにかく今はこの子を避難させろ」


「ちょユウトは?」


「今の銃声の主を探す」  


「なら私も!」


「俺のことはいい。この子を守ってくれ」


「そうやってまた……無理をするの?」


 ーでも……私はそんなに弱くない。貴方に守られるだけの奴じゃないのよ。だから次からは私を信頼して欲しいー 

 

「っ……」


「また無理をして一人だけ傷つくというの? 私はそれほどまでに頼りがないの?」


「違う……信頼してるからだ」


「えっ?」


「信頼してるからこそ、この子を任せたい。大丈夫俺も危険と思ったら直ぐに逃げるしユリエスに助けを求める」 

 

 ユリエスを傷つけたくはない。

 でも約束を破ることもしたくない。

 

 これが正解なのかは分からないがそんな俺が思う最善の考えをユリエスにぶつけた。


「もしそれで無理をしたり怪我なんてしたら……その時はお説教でも何でもしてくれ」


「……分かった。絶対に無茶をしないで」


「あぁ絶対に守る」


「行くわよレシリー!」


「了解! マスター気を付けて!」


 ユリエスとレシリーに連れられた少年は客が少ない出入り口へと移動していく。


 暗闇の中で庇った時、少年の身体の震えと怯える声を確かに感じた。

 何の事情があるのかはまだ分からない。だがあんなに震えてる子を見捨てるという選択は既に頭には毛頭ない。


「よしっ……」


 ほとんどの観客が外へと避難し会場は静寂に包まれる。


「アライズ・リペア」


 停電に陥ったシャンデリア型のライトの光を修復し、2階から飛び降り全てを見回せる1階席へと移動した。


 誰もいない会場。

 何処からか感じる気配。


「さっきからコソコソと隠れて何をしているんですか? バレてますよ」


 観念したかのように現れた黒い衣装を身に纏った6人の男。

 手元にはあの少年を狙った特殊な形をした銃と歪な長剣。


「一体何が目的なんですか?」


 その質問に彼らは全く応じない。

 代わりに黒ずくめの男達は一斉に俺に銃を向ける。


「話せないってことか……なら力付くでその口を開かせる……!」


 

 

 

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