第43話 ルルー・シェルライト
「あっマスター!」
突然の命の危機に騒がしくなっているオペラハウス付近に響く聞き慣れた声。
レシリーは相変わらずのテンションで迷いなしに俺に突っ込んできた。
「マスター大丈夫だったの?」
「あぁ少し苦戦はしたが奴らは直ぐに退散していったよ」
「そっかぁ……僕も戦いたかったな。こう鮮やかにスチームブレードでズバッと!」
「会場が崩壊するから止めておけ」
大雑把で熱が入ると止まらなくなるレシリーに任せたらどうなるかくらい簡単に想像出来る。
「レシリー、これについて何か分かるか?」
先程の男達が所有していた武具の投影写真を見せる。
それを見たレシリーの顔は眉間にシワを寄せ珍しく厳しい表情をしていた。
「んー……いやこんな武具見たことないね。でも逆を言えば滅多に見れない素材を使ってるってことにもなる」
「滅多に見れない素材か……」
貴重かつ高性能な素材を使ったであろうあの武具。
しかし珍しいのであれば出処なども絞りやすくなる。
「そういえばユリエスとあの子は?」
「ユリエスがメンタルケアを行ってるよ。こっちこっち!」
レシリーが引っ張っていった先にはユリエスが例の子と同じ目線で話している。
その顔はとても優しく穏やかだった。
「もう大丈夫だから。何処か痛むだとか違和感があるとかはない? 遠慮しないで正直に言って欲しい」
「いえ……何ともないです」
「ユリエス!」
「っ! ユウト、大丈夫なの?」
「あぁこの子を狙った奴らには逃げられたが俺はこの通り無事だ」
「良かった……また無理してるのかと気が気じゃなかったわ」
「アッハハ……もうあんな無理はしねぇよ。さっき約束しただろ?」
またユリエスをあんな悲しい顔にはさせる訳にいかない。
マグマ・ロードに比べればまだ理性を持って対処出来ていた……はずだ。
「その子は大丈夫か?」
「えぇちょっとまだ怯えてるけど落ち着きを取り戻してはいる」
例の子は帽子を深く被りながら俺達の話を聞いている。
確かに襲撃された時より震えとかは収まっているがそれでもまだ何かに怯えているようだった。
「話をしてもいいかな?」
「は、はい」
小さい子の扱いは親戚の集まりでの甥っ子とのやり取りで慣れている。
ユリエスのように同じ目線で急かさないようにできる限り優しく話していく。
「単刀直入になってしまうのはごめん。でも聞かせて欲しい。あの男達は君を狙っていた……そうだよね?」
「ち、違います」
「ならこの紋章は?」
「っ!?」
例の紋章を見せた途端、分かりやすく表情が恐怖のようなものに支配されたように変化していく。
この子が狙われたというのは間違いない。
「俺達は敵じゃない。寧ろ君の力になりたいと思ってる。だから君が良ければ正直に話して欲しい」
「……」
数秒の沈黙のあと、観念したようにその子は小さく呟く。
「あの人達は……私を襲ってきました。多分間違いないです……」
「君は何かを後ろめたい気持ちがある? そうやって深く帽子を被って震えてるのはその現れだと思うんだ」
「……見たかった」
「えっ?」
「見たかったんです……一度はオーケストラを。でも結局最後まで見れなくて……貴方や他の人に迷惑を掛けてしまって……ごめんなさい!」
「君は悪くないよ。悪いのは上演中に襲いかかってくるマナーの悪い男達だ」
この子が何者かは分からないが少なからずこの子が悪いはずがない。
しかし「見たかったんです」ということはこういう民が楽しむようなことを出来ない立場の人間ということか。
「ユウトちょっといい?」
ふとユリエスが俺の袖をグイグイと引っ張り何かを話したそうにしている。
そんな姿も悶えるほどにかわいい……いや何を考えてるんだ。
「何処かで見たことがある顔なのよね」
「知り合いなのか?」
「いやそういう訳じゃないんだけど……上級魔法派の試験勉強の際に調べた本の1つにあの子のような顔をみたのよ」
本だと?
本に載るほどの有名な人だというのか?
「あっそういえば……!」
先程の戦いで忘れかけていたことを咄嗟に思い出す。
チケットを売買した受付が言っていた「今日このコンサートで王家の人がお忍びで来ているってことをだよ」という言葉。
あの時はなんの根拠もクソもない仮説に過ぎなかった。
だか今になると……その仮説が正しい可能性が出てくる。
俺は恐る恐るその子に確信に辿り着く質問を行う。
「勘違いだったら申し訳ないんだけど……君ってもしかして王家の人間だったりする?」
「えっ?」
「あっごめん。変なことを聞いて「何で分かったんですか?」」
「へっ?」
「……あぁ!」
「「!?」」
突然のユリエスの絶叫に俺だけでなくレシリーすら肩をビクっとさせた。
「え……え……!」
「ユリエス?」
「エスラルド王国第一王子……ルルー・シェルライト様!?」
「はっ……はぁ!?」
「えっ王子様なの!?」
「あっすみません……自己紹介が遅れてしまって」
俺達に安心を抱いたのか深く被った帽子を取ると柔らかな亜麻色の肩まである綺麗な髪が現れる。
その姿は王子とも王女とも呼べる中性的で綺麗な外見。
緑色の瞳はエメラルドのように輝き色白の肌は雪のように美しい。
ユリエスやレシリー、ルイスさんとはまた違う雰囲気が漂っている。
その場に人がいないことを見計らって淑やかな声で自らの身元を口に出した。
「エスラルド王国第一王子、ルルー・シェルライト。どうぞよろしくお願いします」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
俺は……とんでもないことに首を突っ込んでしまったのかもしれない。
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