第44話 自由なき王子
「だ、第一王子……!?」
第一王子って……つまり王の位を継承する最有力候補がここにいる!?
王家って言ってもそんなに凄い人とは思ってなかった。
ってちょっと待て、もしかして俺そんな人にあんな馴れ馴れしい口調で話してた……?
「も、申し訳ありませぇぇぇん!」
「えっ!? ちょ、ちょっと!?」
こんなの完全に不敬罪とかで捕まる!
罰金とか懲役とか禁錮になるのか?
いや王子にあんな態度取ったら死刑ってことも……嘘だろ俺の冒険ここで終わり?
「すみません何でもしますから許してくださ「頭を上げてください」」
「……やっぱり王子って怖く思われてるのですかね」
「えっ?」
土下座した身体を起こした際の彼の顔はとても申し訳なさそうで何処か悲しい表情を浮かべていた。
「私は何も怒っていません。寧ろ貴方は命の恩人です。頭を下げなければならないのは私の方です」
そう言うと第一王子であるルルーは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「あ、頭を上げてください!」
まさか大国の王子に頭を下げられるなんて昨日の俺は考えもしなかった。
というかこの光景、結構ヤバくないか?
「ちょっとユウト来て」
気まずく異様な空気を察してくれたのか、ユリエスは丁度いいところで助け舟を出してくれる。
「第一王子……とんでもない大物と関わってるわよ」
「そうみたいだな……温和な人で助かったがこの人の部下とかに見つかったら面倒になるんじゃないか?」
「そうね。見る感じ何かに追われてるみたいだし勘違いが生まれてしまうことも否定出来ない」
「そしたら首とかぶっ飛んで公開処刑なのかなぁ?」
「……とりあえずどうするか」
「最優先でこの人を城に預けて「私達は潔白です」ってことも分からせないといけないわね。上級魔法派なんだから多少の融通は効くはずよ」
「でも失敗したら斧で首とか腕をズバッってされるのかなぁ?」
「……レシリーのイメージ通りの未来にならなければいいが」
「でもそれはそれで派手な死に方だから万々歳じゃない!?」
「ちょっと黙ろうかレシリー」
もはや恒例というか見慣れるようになった俺とユリエスとレシリーのやり取り。
そんな光景を見てなのか王子のルルーから笑みが溢れた。
「フフッ……」
「す、すみません! 見苦しい光景を見せてしまって!」
「見苦しい!? 僕とマスターの愛の言葉の投げ合いじゃないか!」
「何が愛の投げ合いだ!? 不毛な会話だろうが!」
「そうよ! というか何で私が省かれてるのよ!?」
傍から見れば呆れられること間違いなしのやり取りでさえも安らかな笑みを浮かべ王子のルルーは見つめながらこう話した。
「あぁすみません。面白い人達だなって思って。仲良しなのですね」
「おぉ分かってるじゃん王子ちゃん!」
「「王子ちゃん!?」」
「還元していけば同じ生き物だよ? ならそう呼んでも問題はなし!」
「「大ありだよ!」」
ドガッ!
「いっだぁ!? ゲンコツ!?」
こいつ国の王子に対して「王子ちゃん」とかどんな神経してんだ!?
怖いもの知らずにも程があるぞ!?
「いえ呼び方は何でも結構ですよ? 寧ろ馴れ馴れしいくらいが私は嬉しいです」
「だよね! いやぁ物わかりいいな王子ちゃんは!」
「「えぇ……」」
これを寛容的な対応を素直に受け止めてよいのだろうか。
レシリーが王子との距離を詰めれば詰めるほど俺の心臓の心拍数は上がっていく。
「何となく分かった気がします。貴方達は悪い人じゃない。信頼できる人だって」
そう言う王子ルルーの水色の瞳は汚れだとか煩悩だとかを感じさせず「純粋」「純白」という言葉がとても似合っている。
「えっと……そういえばお名前を伺っていませんでしたね」
「あぁ俺はユウトです。これでも一応上級魔法派です」
「同じくユリエスです」
「音楽に愛された美少年レシリーだよん♪」
「こいつは無視していいです」
「酷いな!?」
「ユウトさん、ユリエスさん、レシリーさん……しっかりと記憶に刻みました」
懐からメモ帳のような物を取り出すといかにも高級そうな万年筆で何かを書き始めた。
「それは?」
「あぁ個人的な趣味です。思い出に残る良い出来事や人物はこうやって書いていつまでも記憶に残しているのです。確か4年前の12の時から始めましたね」
4年前……?
例の謎の3年前の転生者よりも前の話だ。
記憶に残ることは記録してあるということはもしかしてその転生者のことも書かれている可能性があるのか?
「……俺のような人が3年前に現れたとかってありますか? 例えばこんな黒髪でワイルドカードを使用していた人とか」
「黒髪でワイルドカード……あっありますね! 3年前に」
「っ!」
ビンゴだ。
大図書館に行くよりも早く、しかもまさかこんな所で転生者の情報を得られるとは思ってもいなかった。
「その転生者に対してはどんなことを書いたんですか!?」
「……それはお教えできません」
「えっ?」
「この日記は父上からのプレゼントであり誰にも見せない私だけの日記と心に決めているので」
「そう……ですか」
それなら仕方ないか……。
俺だって俺以外に見せたくないものだとか宝物とかは山ほどある。
そういう大切なものを、ましてや父からのプレゼントに今出会ったばっかの俺が介入出来るのは自惚れている。
「ですが……1つだけこの日記を貴方に見せてもいいと考える提案があります」
「提案?」
そう言うルルーの表情は怯えても朗らかな笑顔でもなく真剣な顔をしていた。
「等価交換……私がこの日記を見せる代わりに暗殺組織:パレードを倒して欲しいのです」
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