第3話 運任せの魔法
最初に視界に入ったのは生い茂った草むら。元気に育っている木々。透き通った湖。
都会の喧騒など微塵も感じさせず日々のストレスを全て忘れることが出来そうな場所であった。
「ここが異世界……」
雲一つない青空。太陽が眩しい。
神様は補償として魔法を俺に貸したとか何とか言っていたがまるで実感がない。当然インプットはされているのだろうが。
「とりあえず動くか……」
寝そべっているだけでは話が進まない。とりあえず俺は手当たり次第この森を捜索してみることにした。
樹々にはオレンジ色の果実。甘いのかと思ったが食べてみるが……。
「まっず!?」
苦味しかなくとにかく不味かった。食料調達は無闇にしない方がいいな。とにかく人を見つけないといつまでもこの森にいる訳にもいかない。
「ブァァァァ!」
その時……犬のようなモンスターが牙をむき出しこちらに有無を言わさずに飛び掛かってくる。
「いきなりかよ!? えっと魔法は……」
脳にある記憶には手をかざして詠唱すれば発動すると刻まれている。
もう何でもいい、一か八かやるしかない。
「ファイヤーボール!」
ボォ!という炎を体現したような音。
出現した炎の球体はかなり小さい。だが的確に尻尾部分を軽く焼く。
跳び跳ねるように驚いた犬のモンスターは焦って逃げていった。
「出た……」
本当に詠唱しただけで発動した。原理はよく分からないがこれくらい単純なのはありがたい。
(てか……一体いつになったらここから抜け出せるんだ?)
もう何時間経ったのだろうか。何処まで行こうが中々森を抜け出せられない。
同じような光景を何度も見た気がする。迷路か何かか?頭を使うのはそこまで好きじゃない。
「……くれ!」
「ん?」
遠くから声が聞こえる。人がいるのか?
誰かいるのかと向かってみるとそこには1人の紳士が巨大なモンスターに襲われていた。高級そうな馬車は崩壊し馬は何処かへ逃げている。
「でっか!?」
3メートルくらいはあるだろうか。
巨大な四本足。
カマキリのような見た目。
両腕に巨大な刃物。
グロテスク過ぎる巨大モンスター。
「だ、誰か助けてくれ!」
彼がどのような人物かは知らないが助けるに越したことはない。
「下がってプラズマ・ブレイド!」
詠唱と同時に虹色の魔法陣が出現する。電流を帯びた2つの剣はモンスターに目掛けて突撃する。
鎌のような両腕をズバッと切り取る……!
「よしっこれで、ん?」
ここで終わらせるつもりだった。
そのつもりで魔法を放った。
しかし剣は攻撃をすることを止めない。もはや原型が残らないほどにモンスターを必要以上に切り刻んでいく。
「えっちょ……」
もはや骨すら残らない遺体。
全く制御が出来てない。さっきのファイヤーボールは弱かったのに今回の魔法は異常なほど強力。
まさかこれがあの神が言ってた運任せの魔法のシステムなのか?
(なんちゅうヤバい能力だよ……)
「ってそんなことより大丈夫ですか!」
奇跡的に馬車が壊れただけで身体は無傷。
高級そうな服は土に汚れてしまっているが紳士は無事であった。
「ありがとう君! つい森に迷ってモンスターに襲われて本当に大変だったんだ。このまま死んでしまったら私の功績が無駄になるとこだったよ。いやぁ助かった! ありがとう君は英雄だお礼は弾ませてもらうよ!」
「ど、どうも……」
ダンディな外見とは裏腹にとんでもない勢いとテンションに圧され思わず腑抜けた返事をしてしまった。
まぁ感謝されているのだから別にいいか。
「そういえば君、ずいぶんと珍しい格好をしているね。しかもそんな強い魔法を」
「えっ?」
俺のブレザーを舐め回すように見つめてくる紳士。そうかこの世界にとっては珍しい衣服なのか。
そんな奇抜な格好をした男が強力過ぎる魔法を使ってる。
だいぶカオスな状況だ。どうする完全に怪しまれてる。
「もしかして冒険者とかかね? タイプは魔法派か」
「ぼ、冒険者? 魔法派?」
「知らないのかい?」
(何だよそれ……)
紳士の話によると冒険者というのはこの異世界でモンスターを討伐したりする者のことらしい。
冒険者にも2パターンある。
魔法を主に扱う魔法派。
武器を扱う武具派。
魔法派は魔法を使えるが武具を使えない。
武具派は武具を使えるが魔法は使えない。
何故そうなるのまでは分からないがそんな相互関係で成り立っているらしい。
つまり俺は武具を使えないということか。
「じゃあその中だと俺は冒険者の魔法派になるんですかね……」
「そうなるな。しかし君のような強い魔法派がいて助かったよ!」
紳士は満足そうな顔でこちらを見つめる。
「だが助けてもらったはいいが馬車がこんな有り様に……」
「あぁそれならアライズ・リペア」
神から付与された修復魔法。
運に左右されるこの魔法。まぁ修復程度のことなら変動はないだろうし使ってもいいだろう。と思っていたのだが……。
「おぉ!」
「えっ!?」
まただ。修復された馬車は無駄に豪華な装飾品、サイズも大きくなっている。
おまけに馬も付属している。何でこうもバランスが不安定なのか……。
「凄いよ君! モンスターを倒すだけでなく馬車まで修復してくれるなんてしかも前よりも豪華に!」
「アッハハハ……」
まぁ……不発よりかはマシか。
その後、俺が森で迷っていることを説明すると紳士は快く出口に案内すると言い馬車に乗せてくれた。
「ここは通称迷いの森と呼ばれていてね」
「迷いの森?」
「どういう訳か規定の順路を進まないと永遠に出られなくなってしまうんだ」
(何て場所に転生させてんだよあの神!?)
この紳士がいなければ永遠に森をさ迷っていたと思うとゾッとする。神様ならもう少しいい場所に転生させて欲しかった。
「そういえば名前を聞いてなかったね」
「あぁ俺はユウトっていいます」
「ユウト君か、私はコーウェル、各地で奴隷商人をしている者だ」
「奴隷!?」
「知らないのか?」
「え、えぇ」
コーウェルさんの説明によると世界の各地に奴隷という身分が存在する。奴隷になった原因は様々だが奴隷は何百万人もいる。
この世界では奴隷売買は合法とされており常識とされている為、俺が変に「そんなのおかしい」と口を出すわけにもいかなかった。
郷に入っては郷に従えと言うがさすがに気が引ける……。
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