第4話 衝撃の事実/運命の出合い
「そうだ! お礼として金貨と奴隷を無償でプレゼントしよう!」
「えっいや別にそんな」
「遠慮しなくていい。貰えるものは貰っておくのが世を渡る術だよ」
「はぁ……」
まだ大人の流儀は分からないのでそういう事はいまいちピンと来ない。
(そういえば確か神様が言ってたな「少し残念な世界」って)
確かに残念なことはあるがそれはあくまで俺自身の話。この世界に対しては今のところ特に不満も何もない。
緑も美しいし川も綺麗。コーウェルさんもいい人そうだし残念な部分なんてない。
「着いたぞ」
そうこう考えている内にいつの間にか馬車は森を抜け出し巨大な門の前にいた。
「ここは?」
「フリラード王国だよ」
フリラード王国。
話によると迷いの森近くに位置する王国。水が多く涼しさを感じさせる中世の街並み。
木造の建築は中世の西洋を感じさせとても綺麗で住みやすそう。だが……。
「何だ?」
違和感を感じる。栄えている歓楽街を見回すが男しかいないのだ。右を見たらマッチョな男。左を見たら長身の男。後ろを見たら小柄な……男。
「何で男ばっかり……女性は?」
「何のことだね?」
「へっ? いやだから女性」
「ジョセイ? それは食べ物か何かか?」
「えっ? いや冗談よしてくださいよ! だから女性です見たことあるでしょ!」
「はて……ジョセイなんてモノ見たことも聞いたこともないぞ」
知らない……?
まさか知らないのか女性を?
つまりこの国には男しかいないのか!?
「はっ!」
(残念な世界……まさか!)
女がいない世界。
(嘘だろ……マジかよ!?)
神様の言葉がようやく理解できた。この世界が残念な理由……それは女性がいない。
いや多分女性という概念すらない。少し所じゃない。これは俺のような思春期の男にとってとんでもなく残念な場所だった。
(女性がいない……女性がいない……おっぱいもお尻もあの甘い匂いも存在しない……)
悪夢だ……高校は男子校。
大学とかでようやく女性と夢のキャンパスライフを作れると思った矢先、男しかいない世界に転生される……。
「ふざけんなよあの神……!」
俺は女性と関わっちゃいけないのか!
何か俺は悪いことをしたか神様!
何でこうなるんだよぉぉぉぉぉぉ!
「ハッ、ハハハハ……最悪だ」
「大丈夫かユウト君?」
「はい……大丈夫です」
生きる渇望を失い傷心した気持ちを整えたいが時間は一切待ってくれない。
コーウェルさんが叩き起こしてくれるまで魂が抜けもぬけの殻となった俺は意識を手放していた。
到着場所は木造の立派な建物。看板には文字が日本語のような形をした何かが書かれている
「着いたよ、ここが私が経営する奴隷売買所だ! 立派だろう?」
(ど、奴隷売買所……)
この世界では当たり前なのだがどうも物騒な名前に気が引けてしまう。
中に入ると受け付けが2人。ロビーにある掲示板には色々なことが書かれている。何かしらは読めるかと思ったが、全く何も読めなかった。
「うちは結構大きい商店なんでね、様々な品揃えがあるよ」
「品揃え?」
「奴隷のことさ」
(品物扱いなのか……)
奥の扉を開くと薄暗い灯火が光るだけの部屋にはいくつもの檻。中を見るとボロボロの服を着た男達。
やはり奴隷という身分だからまともな扱いはされてないのだろう。いくらこの世界の常識としても見ていて辛い。甥っ子と同じくらいの年齢の少年もいたからこそ尚更。
「さてユウト君、君はどんな奴隷を望んでいるのかな? 力仕事に欲しいのであれば筋肉質の奴隷。戦いに欲しいのであれば魔法が使える奴隷。使用人に欲しいのなら家事能力がある奴隷。好きなものを選んでくれたまえ」
「そうですね……」
奴隷など取るつもりはなかったし実際に買うなど初めてのこと。とりあえずは自分に足りない者を補える人が欲しい。
「なら魔法が強くて読み書きが出来る人はいますか?」
読み書きが出来る者。そして魔法に強い者。文字が読めず魔力も不安定の俺に一番欲しい人材だ。
「魔法が強い、文字が読める……あぁもちろんいるよ、しかし……少し問題がある」
コーウェルさんが顔を曇らせる。何かヤバいことでもあるのだろうか。
「君は獣人族に怖さを感じるかね」
「獣人族?」
「 獣と人間の血を持ったハーフの種族さ、優秀な種族なのだが凶暴な一面があって嫌われていてね」
「はぁ……別に構いませんが」
案内された場所にいる1人の奴隷。しかしその奴隷は周りとは全く違う雰囲気を醸し出していた。
「これは……?」
白く繊細なツーサイドアップに獣の耳。女の子のような可憐な顔立ちに小柄で華奢な肢体。天使のような美しい外見に俺の心は一瞬で射抜かれた。
「こいつは獣人族の奴隷でね、知識があり魔法も強い。だが酷く反抗的でな」
こちらを見つめる青色の瞳は鋭く敵意のような殺意のようなものが含まれているように見える。
「私が売っている奴隷でも一番手が掛かっておる。優秀なんだがこの性格のせいで誰も買ってくれなくてな「決めました」」
「えっ?」
「この子がいいです」
決まった。共に行く仲間が。
「これを買うのかい!? 他にも魔力が強い奴隷の候補はたくさん……」
「いえこの子がいいんです」
「そ、そうか君はかなりの物好きだね」
困惑した表情で俺を見つめる。断られる前提で面白半分で話していたのだろう。腰に装着した無数の鍵から一本を取り出し手際よく檻を開ける。
「喜べ獣人、お前のご主人様だ」
「……フンッ」
「おい何だその態度は! 奴隷ごときが!」
「まぁまぁコーウェルさん落ち着いて」
少しつり上がった目は猫のようにこちらを更に鋭く睨んでいる。怒鳴られようとその態度を改めることはない。
「この子はもう俺の所有権なんですから。俺の好きにしていいんですよね?」
「そ、そうだがしかしいくら何でも主人にたいしてこの態度は不敬が過ぎる」
「大丈夫ですよ。俺は何ともないですから」
「そうか……分かった。後はユウト君の好きにしてくれ」
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