男だけの世界に転生しましたが男の娘がいるので問題ありません

スカイ

ハジマリ編

第1話 死への急転直下

「おっぱい欲しいわ……」


 放課後の教室内。とんでもない最低発言を開口一番に呟いてしまう。

 でも許して欲しい。16~18歳の健全男子はそういうモノが欲しくなるのだ。


ー新宿での男子高校生死亡事件から3年、犯人は未だに捕まっておらずー


 スマホを開けば暗い気持ちになるニュースばかり。情熱を注げるのは今ハマってる謎解きゲームだけ。

 そして中高共に男子校。そうなると現実を忘れさせてくれるような癒やしとなる彼女が欲しくなっていく。


「んだよ、湿気った顔してんなユウト」


「そういうお前は相変わらず能天気だな」


 チャラい見た目。完成された顔。女性にモテるであろう卓越した筋肉。

 名前は園崎エイジ。小さい頃からの親友で今もその関係は続いてるが人生の華やかさには雲泥の差がある。

 だらしなく女運にも特に恵まれなかったこの俺、柏木ユウトとは。


 小さい頃、と言っても小学生だが生意気にも俺は恋を知っていた。クラスのマドンナに一目惚れし心は薔薇色に包まれた。


 結果はどうだったのかって?

 見れば分かるだろ付き合ってる訳がない。というか声すら掛けれなかった。恋を覚えたのはいいがそれをどう実行するかの手段は全くなかった。


 そっからは親に進学の為と行きたくもない男子校に放り込まれまともに女性と絡んだことすらない。だからこそ彼女が欲しい欲はさらに増えていく。


「そりゃ能天気にもなるさ。なんせ新しい彼女が出来たからな」


「お前また新しい彼女作ったのかよ。前の彼女は?」


「いやぁ凄く可愛かったし性格も良かったんだけど……束縛が酷すぎて辛くなったから別れた。俺のメンタルが弱いのもあったんだけどな」

  

 陽キャのエイジにとってそういうタイプは苦手なのだろう。でも俺からすれば何とも羨ましい別れ方だ。


 一回くらいは束縛されるほど狂おしく愛されてみたい。ボイス系の動画でよく聞く「○○君は私のモノ、誰にも渡さない」ってやつを味わってみたいものだ。


「いいなお前は、女運に恵まれてさ」


「誰にも女運はあるって。お前にも春はいつかは来るよ」


「春ねぇ……」


 頭もいい。黄色い声援。サッカー部のリーダー。おまけに俺みたいなタイプとも仲良くしてくれる性格の良さ。

 何でこいつはこんなに完成されているのだろうか。嫌味な奴なら嫉妬するだけで済む話だがいい奴だからこそ自分が不甲斐なくなってくる。


「まっとにかく帰ろうぜ」


「部活は?」


「今日はあの口うるさい顧問が急に体調崩して休みなんだよ」


「いいのか? 俺なんかと帰るとお前のイメージ落ちるぞ」


「何言ってんだよ、友達は友達だ、誰となろうととやかく言われる筋合いはない」


 本当に完成されてるなこいつは……。小中高一緒ってこともあるけど未だにこの関係を続けているのもはとても嬉しい。

 俺に対しても誰に対しても肯定してくれる。そんな聖人のような性格。


「ねぇ次のデートどこ行く?」


「渋谷のクレープ屋とかいいんじゃね?」


 カップルの和気あいあいとした華やかな話し声。他校の男生徒は可愛い彼女を連れてこうやって青春を謳歌している。


「いいねぇ青春してるよ!」


「お前も少し前までしてただろ。その束縛が強い子と」


「あれを青春と呼ぶのは難しい。あぁいう愛は俺の青春には合わない、あぁ今回の彼女は俺にピッタリな女の子でいてくれねぇかな……」


「いずれはお似合いの子が……ん?」


 スマホの通知が鳴る。SNSのタイムラインだろうか。

 開くとそこにはメイドのコスプレをした女性……ではなくて男性が写っていた。


「あぁそれ有名なレイヤーじゃん。男だけど女の子みたいで可愛いって」


「知ってるのか?」


「あぁテレビにも紹介されてたよ」


 男の娘。ここ数年で出てきた新たな性癖のジャンル。可愛いらしい顔と小柄な見た目を持つ男だけが許された特権。

 女性みたいだけど実は男性という背徳感が世の男の心を刺激して急激に需要が高まった。


「あっそうだ! もしかしてお前男にモテるんじゃないか?」


「はい!?」


 急に何を言い出すんだこいつは。


「だってよ、お前が先月の親戚が集まった時に甥っ子から異常なほど好かれていたって話を聞いたぞ」


「あんなの身内としてだよ」


「お前の子供好きが変な誤解を生んだりとかしたんじゃねぇか?」


「そんな訳ないだろ……」


 確かに俺は子供好き。変な意味はなく無邪気に遊ぶ子供の姿が俺にとっては愛くるしく感じる。だから甥っ子ともなればこれでもかと遊んであげたくなる。


「分からないもんだぞ? 男女問わず無意識に好かれるのはよくあるからな」


「勘弁してくれ。俺のタイプは異性だ。それもちょっと目が鋭くて小動物タイプ」


 仮に告白されてもパニックになる。女性から告白すらされてないのに男からされたらそれこそ頭が真っ白になる。


「冗談だって、さっ行こうぜ」


 あぁ憂鬱だ。隣には俺とは別の世界の親友。周りには幸せの絶頂にいるカップル。


 劣等感が凄い。誰も俺を馬鹿にしてる訳でもないのに劣等感を凄い感じる。なるべく早くこの場から抜け出したい。そう思って横断歩道を足早に渡ったその時……。


「えっ?」


 何で俺は空を向いている?何かにブッ飛ばされたような感覚が全身を襲う。何が何だか直ぐには理解出来なかった。

 でも目の前を横切る車を見てようやく理解する。あぁそうか、俺は引かれたのか。


「ユウト!? おいユウト!」


 視界がボヤけていく。エイジは必死に俺に話し掛けているようだが全く聞こえない。 

 多分これ死ぬパターンのやつか。まだ17歳だというのにもう死ぬのか。


「ユウト! ユウト! ユウトォ!」


 ごめんエイジ先に逝く。せめて一回くらいは女性と付き合いたかった。手を繋ぎたかった。その先にも進みたかった。でももう無理らしい。


 死に妥協してしまうのは悔しいが……それに抗う力もない。


 こんな風になるなら……あの時クラスのマドンナに告白しとけば良かったな……。


 さよなら俺のくだらない人生。


 もしまた生まれ変われるなら……モテる人であってくれよ___。




 



 

 

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