第39話

「おい、シャルリア、いつまで勉強するつもりだ」


突然、樹君の声が降ってくる。


驚いて顔を上げると、怪訝そうな顔をした樹君がいた。


周りを見渡すと私と樹君しかいないらしい。


「あれ?他のみんなは?」


私は頓狂な声を出して訊く。


「ああ、お前がその参考書を熟読している間にみんな帰っちまったぞ」


窓を見てみると辺りはもう真っ暗である。


「ご、ごめん。ボーっとしてた」


「……まあいいが」


すると彼は立ち上がる。


「ほら、帰るぞ」


「え、あ、うん」







駅に向かっている道中、樹君はこう切り出した。


「なんだ、にしてもシャルリア、お前はカタコトしか喋れないわけじゃなかったんだな」


「と言うと?」


「あー、つまりあれだ。俺としては昔の方がよかったなぁと思っていただけだ」


昔の方がよかった。

その外面だけが心の内で反芻され、ようやく中身が追い付いてくる。


今、樹君が『昔の方がよかった』って言ってくれた!

つまり!素の私の方が魅力的ってこと!?

さらにさらに!樹君が私との思い出を覚えてくれていたってこと!?


二重の意味で沸き立った私は、満面の笑みでこう言った。


「うん!」







それからの樹君との会話は楽しかった。

楽しさが先行して記憶能力が追い付いていないようだ。


しかし、帰る方向は違うので当然ながら途中で別れることになるのだ。

私にはそれがたまらなく口惜しかった。


しかし、明日また会える。

明日また話そう。


そう思ったら踏ん切りをつけられた。

私は笑顔で樹君にさよならをする。

樹君もじゃあ、と一言返してくれた。


ここまで来て、私の心には火が付いた。

それは、カフェのころには消えかけていた火だ。


そして、同時に私もまだまだ捨てたものじゃないという実感も来た。


私は再度気合を入れなおした。

明日から逆転劇のスタートである。







***************************************

五条樹視点


今日と言う今日は、テストの当日である。


事前まで復習をする者、周りで問題を出し合う者、すっかり諦めてしまっている者、さまざまである。


かく言う俺は、幸助と問題を出し合っていた。


「いやぁ、にしても今回の範囲も鬼畜だなぁ」


ふと、幸助はそんなことを言う。


「仕方ないさ。先生方は大学進学まで見越しているんだよ」


「とはいってもなぁ」


少し不満そうな顔をする幸助。


そんな時——


「おはよう、樹君と幸助」


シャルリア・ウェルダムが挨拶をしてきた。


「お、おはよう」


俺たちは少し狼狽する。

そんな目線を受けながら、シャルリアは自分の席に着いた。


「おい幸助。今、シャルリアが普通の日本語を話さなかったか?」


「あ、ああ、俺も聞いた」


そう、いつものシャルリア・ウェルダムであれば、「はろお」と言ってくるはずなのである。


そんな外国人かぶれの彼女が、普通に挨拶をしてきた。

一体彼女に何があったのか。

謎は深まるのみである。


「まあ、万事塞翁が馬ってことだ」


幸助が俺の心中を察してか、そんな言葉で締めくくる。


「そうだな」


俺は一言、それを肯ずるのであった。







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後書きです。


多分次の次から急展開になっていくと思われます。


ラストは誰もが驚くような、「あうち!」と外国人になってしまうような展開を見せるのでご期待ください。

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