第25話

「うぅ、こんなところで着る予定じゃなかったのに……」


後輩はスカートのすそを下に引き伸ばしながら、少し頬を赤らめて言う。


「えーっと、この後はホテルか。バスの時間は……まだ時間があるな」


時計を見て時間を確認するのは向坂美鈴。


「そうみたいだな……歩くか」


俺のこの一言に一瞬「え?」という顔をした後輩だが、ホテルには十分歩いて行けるし大丈夫だろう。


「おいおい五条、まさかこんな格好の奴を連れまわす気か?」


そう言って俺たちの背中に隠れている後輩を指す向坂美鈴。

後輩は心なしかほっとした表情をしている。


「まあ、問題ないだろう」


「いやいや、大ありだろ。俺たちまでも変人と思われちまうぞ」


「そここそ先輩の威厳を見せるところだ。俺たちは後輩のそれをどっしりと受け止めてやらねばならん」


人の趣味を馬鹿にするような趣味は、俺にはないからな。


「どこで誠実になってんだかよく分らんが……らしいぞ、栗原。お前の助かる道はなさそうだ」


後輩の顔からは血の気が引いていた。






「予約していた栗原です」


俺はホテルの受付にそう言った。

というのも、後輩は俺の後ろに引っ付いてもじもじし続けているし、向坂だと何かと問題を起こしかねないので、この一団のなかで唯一、人畜無害な俺の出番となったのだ。


「三名でご予約の栗原様ですね。こちらが部屋のカギとなります。部屋の場所は——」


そして俺たちは一通りの説明を聞いた後、部屋へと向かう。

と言っても、女子と同じ部屋というのは精神衛生上よろしくないので、俺だけ別の部屋なのだが。








「ここが対魔獣前線基地<KI・N・KA・KU>か……」


そう呟くのは向坂美鈴。

俺たちはホテルに荷物を置いた後、京都の観光名所に訪れていた。

どうやら後輩の「キョウトとは何ぞや」の説明が活きているようである。


「ところで後輩」


俺は俺の背中に隠れるようにして引っ付いている後輩の方を振り向いて続ける。

衣服は依然、中二病のままだ。


「この後はどこを回るんだ?」


「予定では龍安寺です。……それより私の衣装っていつ——」


「そうか、よし、向坂。あそこの茶屋で一休みしたら違うところに行くぞ」


「チャヤ?そうか、疲れた兵士たちをいやすところみたいなところか」


「うう、こんな衣装でなんて……恥ずかしいよぉ」







「うわぁ、石ですね」


「だな」


俺たちは今龍安寺の石庭に来ている。

歴史ある石庭を「石」だの言う馬鹿二人にはご容赦願いたいが、実際、情趣も感じえない一高校生がそこに行った時の印象はそんなもんである。


「この『石』の一つ一つが退魔戦線で散った兵士の『意志』を表していると思うと感慨深いよな」


どうやら情趣を解する高校生はここにいたようだ。

その名も向坂美鈴。

京都に対する知識は後輩、栗原美奈によって毒されてはいるが、それ以外は、まあちょっと不良気味で京都も知らないほど馬鹿ではあるものの、普通の高校生である。


「おい後輩」


「なんでしょう」


「俺は知らないからな」


俺はそれとなく向坂美鈴の方を指して言う。


「あぁ……正直私もあそこまで信じるとは思わなくって。ってことで先輩には——」


「俺は知らないぞ」


「いえいえ、先輩には——」


「知らないからな」


「ちぇ、ケチ」


ああほら、向坂美鈴が何やら鎮魂の儀式を始めた。







その他にも仁和寺などを回ったが、「なんかすごい」という漠然とした感想しか持てなかったので割愛させていただく。


仄かに照る月光の、水面を揺らす涼風の中、隆々と辺りを囲む膝ほどの岩壁は、京都の夜景を見下ろしていた。


俺は今風呂に入っている。

今回選んだホテルは結構割高なところだったので、さすがというべきかやはりというべきか、風呂からは絶景が臨める。


このホテルは後輩が見つけてきたものだが、客の入りを見る限り有名なところではないようで、確かにちらほら他の客を見かけるものの、現に今、この大浴場は俺の貸し切り状態である。


俺としてはこう言った静かな場所は好きなので、結構気に入ってはいる。

後輩が云うには「これでコミュ障な先輩も安心できますね!」だそうだ。

あいつのニマニマしたうざったらしい笑顔がフラッシュバックして気分を損ねたので、あとで往復ビンタをしておこう。


まあ、あいつもこの旅行のためにこんな穴場まで見つけてくれたんだ。

そこは感謝しないとな。


そう言えば、最近見た漫画に感謝しながら正拳突きをするキャラクターが出ていた気がする。

最近の感謝の流行はそれなのかもしれない。

よし、往復ビンタのついでに正拳突きもしてやろう。


とまあ、ここまでグダグダと自分語りをして楽しんでいたものの、これ以上ここにいるとのぼせてしまいそうだ。


俺は頭の上に載っているタオルをおもむろに手に掴むと、お風呂を上がったときによく悩まされる頭のくらくらでフラフラとしながら更衣室へと出た。







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後書きです。


今回はなぜ、僕がこのラブコメを書き始めたかを書きたいと思います。


興味ないですか?

いえいえ、実はこの物語の今後に深く関係しているんです。


本来、僕はこの物語を自分がこんな物語を読みたいと思って書いていました。


ですから、結論を言わせてもらうと、確かに僕の物語と同じものはありませんが、それでも面白いと思えるラブコメの登場により、僕のラブコメ欲は満たされてしまったのです。


しかし、それでもなお、ウェブ上に出るラブコメでは足りない部分がある、ましてや僕は高校生ですから、ライトノベルを買って博打を打てるほどのお金を持っていないわけなんです。


今はその足りない部分を何とかつなぎ合わせて書いているという状況なんです。


ちなみに、ここで注釈を入れますが、足りないということはないということではなく、文字通り足りないということです。


ですから、何が言いたいかと言うと、必然的に投稿できる話が少なくなってしまうのです。


ですから、これは断腸の思いですが、この作品の、こののんびりした投稿ペースに耐えきれないという方は、どうか他の、新進気鋭で僕のと比べたら断然格上である作品に移っていただければ幸いです。


この度は、長らく皆様を待たせたのにも拘らず、塵ほどにもならない話を投稿することになってしまったことを大変申し訳なく、また不甲斐なく思います。


もしよろしければ、今後とも応援していただけると幸いです。

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