第24話

おそらく清潔感を漂わせようとしたのだろう、カラフルでポストインダストリーな床は、悲しいかな、数多くの人々の靴底によってすり減り、車窓から覗く太陽がその傷跡を仄白く浮き上がらせる。


ガタゴトと揺れる車内で、その三人組は横並びの席を連なって占拠し(ついでに男の膝には二人分の大きな荷物が載っている。)、お情けの椅子のクッションは、車内の揺れに合わせて座っている乗客たちも揺れているのを見るに、本当にお情けでしかないようだ。


早朝の太陽に照らされる乗客の横顔はどこか眠そうで、事実俺の隣で事の主催者は首を揺らしながら転寝をしている。


俺たちは今、京都へ向けての電車に、朝っぱらから乗っている最中だ。


「ふぁぁ、ねむ」


俺はそう呟く。


「それなぁ、俺もこの時間はまだ寝てるわ」


そう言うのは向坂美鈴。


「へぇ、意外だな」


「何が?」


「いや、ちゃんと寝てるんだなって」


「そりゃあ俺も一人の乙女だしな」


「『俺』なのに?」


「あん?」


「いや、何でもない」


すごい剣幕で睨まれた。


『次は東京、東京』


「お、そろそろか」


「そうみたいだな」


俺は膝の上に置かれた余分な荷物を、隣に返した。

「グエッ」と聞こえたような気がするが気のせいだろう。


「ひどいじゃないですか先輩!寝ている乙女の腹にリュックをたたきこむなんて!」


「ん?ああすまん。気づかんかった」


「あぁ、せっかくいい夢を見ていたのに先輩のせいで寝起きが最悪です。ここは先輩に罰を受けてもらわないと。ね?美鈴先輩?」


「またその流れかよ……マアナ」


「ほら!美鈴さんもこう言っていることですし、今回はこれ以上先輩が問題行動を起こさないように監視するため、ホテルは同じ部屋に泊まりましょう!」


「いや、今のは棒読みで肯定には入らないな。なぁ、美鈴?」


「マアナ」


「ほら」


「いやいや!今の方が棒読みでしたよ!ね!美鈴先輩!」


「マアナ」


「まったく、懲りないやつだ。ここは一発殴って分からせないといけないと思うんだが……美鈴、どれくらいの強さで殴ればいいと思う?」


「真穴」


「……え?つまり、どういうことですか?」


「話しかけんな。今俺は精神統一の途中だ……スーハ―」


「……まさか!今から私、お腹に真穴でも開けられるんですか!?」


「スーハ―、よし、整った。行くぞ」


「ちょっと!私まだ死にたくありません!

そうだ美鈴先輩!明日カフェオレをおごります!ですから助けてください!

え!?美鈴先輩!なんですかその目は!まるでリア充破滅しろというような眼じゃないですか!ちょっと!?助けてくだ——」


「せいっ!」


「はうあ!」


俺は渾身のチョップを、ゆるゆるな後輩の頭にたたきつけた。







「クックック、ウノです!」


そう言ってカードをたたきつける後輩、栗原美奈。


「次、俺の番な。はい、ドロー4」


そう言って黒色の一番強いカードを盤上に出すのは向坂美鈴。


「クックック、美鈴先輩、おぬしも悪よのう。この中で一番カードの枚数が多い先輩に4枚も引かせるなんて。これで先輩の負けは確実ですね。

……そうだ!いいこと思いつきました!このゲームに負けた人は罰ゲームとしてみんなの荷物をホテルまで持つことにしましょう!」


「お前、絶対俺が負けそうだからそんなこと言ってるだろ」


俺は後輩を睨む。

すると後輩はわざとらしくそっぽを向いて口笛を吹き始めた。


「なんですか先輩、負け惜しみですか?そんなのは勝ってから言ってください」


「……はぁ、お前なぁ。……まあいい、だが、罰の内容を変えていいか?」


「ええ、より重くなるのであれば大歓迎ですよ」


「じゃあ、罰の内容はこの旅行中ずっと中二病の衣装を着ることに変更で。美鈴もそれでいいな?」


「ん?俺?まあいいぞ」


「美奈もそれでいいな?」


「なんですかその、さも私を狙ってますと言わんばかりの罰ゲーム……まあいいでしょう。こっから負けることなんてないでしょうし」


事実、俺は6枚、美鈴は4枚と、三人の中では美奈が抜きんでている。

でも、多分美奈が負けることになるんだろうな。

俺は先ほどからそんな匂いをプンプンと感じている。


「じゃ、それで。よし、俺のターンな。はい、ドロ4を二枚ッと。で、色は赤な」


「うーん?美鈴さんがドロ4を一枚出して、樹先輩がドロ4を二枚だしたから、私が引くカードの枚数は……4足す4足す4で……12枚?今私は一枚持っているから……合計手札は13枚?あれ?先輩はさっき6枚で、今2枚出したから4枚で……ん?私がビリになった?」


「おい美奈、あとが詰まっているぞ」


「うーん?いや、ちょっと待ってください?なんか、私の計算だと私がビリになっちゃうんです」


「あってるぞ?」


「あってる?いやいや、先輩、何言ってるんですか、さっきはあんなにも大差をつけて私が一番だったんですよ?」


「あってるぞ?」


「いやいやまさか。そんなことが現実なわけ……現実!?」


美奈は俺たちの手札を見比べて言う。


「はっ!確かに思えばあの時の先輩は余裕そうだった!まさかこれが……こんちくしょう!騙しやがったな!」


そう言って美奈は盤上に赤の数字カードを置く。


「いやいや待て待て、確かに俺一人だったらそんなことも可能だが、今回は美鈴がいる。お前もまだ負けたわけじゃないだろう?」


「はい、ウノ~」


そう言うと美鈴は一枚を残してカードを盤上に置く。


「このチーミングクズめ!はっ!いやでも、待てよ。まだ先輩には勝てるチャンスが——」


「ああ、悪いんだが、俺もウノだ」


「やっぱりチーミングクズだったか!」


結果、後輩は大敗した。







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後書きです。


ごめんなさい。

今回はこれしか書けませんでした。


これは言い訳になるのですが、最近英会話スクールに通っていることを話したと思います。

それが楽しすぎるのです。


まず一つ目に、担当の方が熱心にうなずいてくれます。

多分、「I like an apple.」と一言言ったら、「Wow! You like an apple? Me tooooooo!」と頷いてくれます。


さらに、先日一般クラスの最底辺から始めさせられたと言いましたが、あれは勘違いでした。

英検で言うと二級の上から準一級の下くらいまでかかるレベルの授業でした。


ここにきてやっぱり僕は確信しました。


僕は外国人だったのです。


そう思えば腑に落ちることも多々あります。


多分、僕が高校生の時に誰からも話しかけられなくなったのは、外国人と思われていたからでしょう。

その時は自分が外国人だということに無自覚だったので、外国人オーラを隠せていなかったんでしょう。


ごめんなさい、日本人の皆さん。

僕は外国人だったようです。


小説については次こそはたくさん書くので大目に見ていただけると光栄です。

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