第21話
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宮前佐奈視点
私の恋している人が今、隣に座っている。
それも今までより近くに!
私は緊張のあまり意味もなく手を擦る。
「まだ痛むのか?」
そう言って心配そうにのぞき込んでくる樹君。
そこにはさっきまでの剣幕は鳴りを潜めた、優しい表情の、私の思い人の顔があった。
「ううん」
私はその距離に少し胸を高鳴らせながら、短く答える。
「そうか……」
少しの沈黙が流れる。
波打ち際の音はザーザーと砂を均し、日の入りを迎えた橙色の夕日は青かった海をオレンジに染め上げる。
「まあ、お前はかわいいんだからもっと気を付けたほうがいいぞ」
何も気づかない彼はまたそうやって一人の乙女の心を不必要に昂らせる。
でも、それでも心地よかった。
彼が心の底から認めてくれているような気がしたから。
「お前は、いや、お前たちは幸助が好きなんだよな?」
彼はなおも続ける。
私はそこで否定したらせっかく今まで築き上げた私と彼の関係性が崩れてしまいそうで何も言えなかった。
「あいつは、まあ分かっているとは思うが見た目は普通、中身も普通、何のとりえもない奴だがいい奴なんだ。これからもよろしく頼むよ」
「……うん」
私はやるせない気持ちと共に答える。
……果たしてこのままでいいのだろうか?
私の恋は気づかれぬまま終わっていいのだろうか?
私の中に葛藤が生まれる。
私はこのままでいいのか。
私の世界は灰色のままでいいのか。
そんな葛藤に苦しんでいたら、ついぽつりと呟いていた。
「ううん、違うよ」
「ん?なんか言ったか?」
彼は聞き逃したようでもう一度私に訊く。
ここで私は、別に「ううん、何でもない」と答えることもできた。
でも、その時私の中に起こっていた葛藤がそれを差し止め、変わってこう繰り返した。
「ううん、違うよ」
「違う?何がだ?」
私は少し驚いた。
自分がその言葉を言えたんだということに驚いた。
今までの自分を振り返って、その言葉は何かに縛られているように感じていたからだ。
しかし言えた。
私は今しかないと思った。
同時に後は野となれ山となれとも思った。
私は、葛藤が産んでくれたこのチャンスに乗って、本心からこう言いだした。
「私が、ううん、私たちが幸助君のことが好きってこと。私たちはね、樹君が——」
「あ!いたいた!おい樹!何してんだよ!……って、え!?宮前も一緒か!?もしかしてお取込み中だったか?」
大きな声が聞こえて振り返ると幸助君がいた。
後ろには由奈ちゃんとシャルリアちゃんもいる。
「ああ!すぐ終わる!」
そう樹君は幸助君に呼び掛ける。
「で、幸助が好きじゃないなら、いったい誰が好きなんだ?」
「それは——」
そこで今一度、自分に意識を戻したのがダメだった。
私は気づいてしまった。
自分にはもう先ほどの勇気がないことを。
「ううん、何でもない」
そう言ってさも何でもないかのように微笑む。
「ああ、そうか。つまりお前たちは幸助が好きなんだろ?」
「うん、そうかもね」
少し悔しくなって樹君から目をそらし、夕日を見つめる。
もう夕日は半身を海に浸している。
私はそれを、目に焼き付くほどに見つめ続けることしかできなかった。
「まあ、安心しろ。ああ見えて幸助は本当に優しいんだ。お前たちの気持ちをうやむやになんてしないさ」
私の遠い目を見て、幸助君に好意を向けているのに気づかれていないことへの憂慮と受け取ったのか、樹君はそう言った。
違うんだよ、樹君。
私は、ううん、私たちは、この上なく鈍感で、私たちを振り回して、でもとっても優しい樹君が好きなんだよ。
しかしそれは言葉にはならなかった。
「そうだといいなぁ」
私はもし樹君に好意を伝えたら来るかもしれない楽しい未来を想像して呟く。
「ほら、行くぞ。あいつらが——特に幸助が待ってる」
「うん!」
私はいつも通りの元気な返事をして、樹君と共に幸助君たちの方に駆け寄った。
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後書きです。
これって著作権とか引っ掛かりませんよね?
営利目的ではないから大丈夫なはずです。
というのも、この先の展開であるラノベ小説が、『涼宮ハルヒの憂鬱』ががっつり出てくるのです。
具体的には——
「で、樹君はその『涼宮ハルヒの憂鬱』に感化されて、ラノベを志向するようになったの?」
「ああ、まあ、大体そんな感じだな」
っていう感じです。
多分、この後に出てきます。
『涼宮ハルヒの憂鬱』って面白いですよね。
あっと、これ以上は熱くなってしまうので次の話の後書きで書きますね。
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