第17話

体育祭の翌日。


俺はブンブン部の部室に来ていた。

今は放課後である。


また中二病型モニュメントを相手どらないといけないと思うと億劫ではあるが、来てしまったものは仕方がない。

俺は部室の扉を開けた。


そこにはいつも通り中二病型のモニュメントが——

——いなかった。

代わりに、制服姿の後輩がいた。


「おう栗原、いつもの中二病はどうした」


「……うるさいです」


「ん?なんて言った?」


「うるさいです!」


「お、おう」


俺は栗原の声量に押されて黙り込む。


「……」


「……」


沈黙に耐えきれなくなった俺は、口を開いた。


「栗原……オセロでも……するか?」


そう言って優しくほほ笑みかける。

栗原はこくんと一つ頷く。

俺たちは黙りながら石を置き始めた。







「おーっす、っておい、なんだこの葬式みたいな空気は」


部室に入ってくるなりそう形容したのは向坂美鈴。


「確かに白と黒だしな」


俺は冗談めかしてそれにこたえる。

これで栗原が少しでも笑ってくれたらという狙いもあったのだが……

相変わらずむすっとしている。


ちなみにオセロの戦況は俺の圧倒的有利である。


「おい栗原、お前どうしたんだ?」


向坂がしびれを切らして訊く。


「……別に何でもありません。ただ、彼女持ちの人になんて興味がないだけです」


そう言ってフン!とそっぽを向く。


まあ、彼女持ちに興味を持つ奴なんてとんでもない屑だろう。


「おい五条。お前栗原になんかしただろ」


そう言って並の不良程度はあると思われる迫力で睥睨してくる。


「ん?何もしてないが」


「……栗原、それは本当か?」


「……ええ、本当ですよ。先輩は何もしていません。むしろ何もしなさ過ぎて一人の乙女の心を弄んだまであります」


その言葉を皮切りに、向坂の俺を貫くような眼はより鋭さを増したような気がした。


「いやまてまて!なんで俺が睨まれなくっちゃいけないんだ!俺は栗原が言ったように何もしてないぞ!」


「ええ!本当に先輩はいい趣味です!」


そう言って栗原はオセロの碁盤をバンとたたく。

そして碁盤の方をちらりと見ると、たたいた手で碁盤に置かれた石をごちゃごちゃにした。

……どうやら戦況打破は忘れていないようである。


「いい趣味?俺はこれと言って趣味はないが……」


「あるでしょう。女を持っていながら他の女をひっかきまわすいい趣味が」


「女?ひっかきまわす?何のことを言っているんだ?」


「まだとぼけるつもりですか!ああもうわかりました!この際だから言ってやりましょう!私は!彼女持ちの先輩のことが——」


「ああはいはいスト――――ップ!」


大声で俺たちの口論を止めに入ったのは、向坂美鈴だった。


「とりあえず落ち着け。大体状況は分かった。少し、栗原を借りるぞ」


そう言って向坂は栗原を引き連れて部室を出た。


「後、絶対に盗み聞くなよ?」


そんな捨て台詞を残して。

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