第36話

口の中に安っぽい苦みが広がり、これまた安っぽいミルクの味、安っぽい甘さが後を追う。


俺は、と言うより俺たちはカフェに来ていた。


今俺が飲んでいるのは学生の財布にも優しいアイスコーヒーだ。


前をちらりと見ると、そこには対照的な三人の姿があった。


うーんうーんと唸っている宮前佐奈、すらすらと解き進める雨森由奈、じっと参考書を読んでいるシャルリア・ウェルダム。

三者三様である。


ちなみに幸助は宮前組である。


俺はと言うと、彼女たちから質問を受けても応えられるようにすでに今日やる範囲を完璧にし、万全の状態で質問を待っている。

と言っても無用の長物となってしまった感が否めないが。


ここでアイスコーヒーの話をしよう。

それをする上で一つ勘違いしないでほしいのは、別に俺は暇だからそんなことをしているわけではなく、そう、彼女たちが自分自身で問題を解決してしまう能力があり、それに与する形で俺の存在意義が希薄化してしまったことに対して嘆いているから気晴らしにそんな話をするわけではなく、ちょうど目の前に良いアイスコーヒーの例があったから話すだけなのだ。


今から話すのはアイスコーヒーにどの程度のミルクとシロップを入れるべきかということだ。


まず、安いものに関しては——


「樹君」


「なんだ!質問か!それとも、質問か!」


「ちょ、ちょっと、近いよ」


呆気を取られたような顔をした後、すぐに気を取り戻し俯いてしまったのが宮前佐奈。

俺にとって、本日の有望株である。


「あ、ああ、すまんすまん」


俺はすぐに勢い余って乗り出してしまった体を戻すとこう言った。


「それで、質問か?」


「う、うん、この問題が分からなくって……」


「ふむ、どれどれ、なるほど、この問題か。これはな……」







***************************************

シャルリア・ウェルダム視点


私には一種の諦念がまとわりついていた。


これは彼女、宮前佐奈が彼、五条樹君と親密になればなるほど、色濃く影を落とす。


私は彼、五条樹君が好きだ。

それは彼と初めて会ったときにはもう始まっていたのかもしれないし、もしくは一年生のころの体育祭でけがをしてしまった私を彼が保健室に運んでくれたあの日、喧噪を遠巻きに眺めながら私を暇にさせないようにと会話相手となってくれたあの日に抱いた感情かもしれない。


少し、私と彼の出会いを話そう。


あれは、一年生の体育祭の時の出来事だった。——







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後書きです。


投稿するべきかどうか迷いましたが投稿しました。

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