第35話
古人はあらゆる知恵を生み出した。
それは現在も使われているし、別に恨んじゃいない。
だが。
それを学ぶいかんという問題は、これとは別の話で、つまり俺が“定期テスト”なぞという悪弊に不平を漏らすのは至極真っ当なことなのだ。
古来人間と言うのはその持ち前の知恵を生かしてナチュラルセレクションを生き抜いてきた。
それは分かる。
そして、その先人たちの知恵は流動的、可変的であり可塑性があるため学んでも悪いことはない。
それも分かる。
しかし。
なぜ、我々はそれによって、杓子定規に自分を測られなくてはいけないのか。
俺はどうしてもそこにエスノセントリズムの感を認めざるを得ない。
BLM運動は確かにグローバル社会における多様性の拡充に一役買った。
しかしその多様性とは何なのか。
その実はただの規格化された個人の有象無象である。
我々個人は情報化を通じてさらに、情報統合思念体、代替可能なパーソナリティーの存在として希薄化された。
だからこそ俺は、ここで個人の幸福追求権を所望する。
この権利は個人が個人の範囲内において身勝手にふるまい幸福を得る権利だ。
または、社会から孤立することができる権利ともいえよう。
それがあれば、たとえば“定期テスト”のような一つの数値で人間性が図られ、享受できる幸福の程度が規定されるような事態には陥らない。
とは言いつつも、俺にとってはこの社会は生きていく世界であるとともに必要不可欠な世界となり果てているわけであって、ただ託つようにうだうだと並べた論は感情を置いてけぼりにして一人熱狂するのみであって、即ち、俺にはその先鋒となる勇気などないわけである。
だから俺は、ひとしきりそこまで考えをめぐらした後、世の苛烈さに一つ嘆息をして、目の前の教材へと取り掛かった。
「樹君、今日、空いているかしら?」
そう訊いてくるのは雨森由奈。
辺りは休み時間らしい喧騒に包まれていて、テスト期間となったため過酷さが増した授業から解放されたことを、皆喜色満面となって喜んでいる。
「ああ、空いているぞ」
「そう、じゃあ、例のカフェでテスト勉強会を催そうと思っているのだけれど、来られるかしら?」
「問題ないな」
「なら良かったわ。放課後に開くから」
そう一言言った雨森は、俺に微笑みを見せると自分の席に戻っていった。
「で、お前、テスト勉強は抜かりないんだろうなぁ?」
訝しんだ様子でそう聞いてくるのは荒木幸助。
「まあな」
「頼むぜぇ。お前も勉強会に参加するんだろう?」
「まあな」
「『まあな』じゃねぇよ。今日の勉強会はほぼほぼお前のために開かれるようなもんなんだからな?」
「いや、こう言っちゃなんだが、俺の学力はそこまで危なくないぞ?」
「それは知っている。知っているんだがな、それでもお前のために開かれる」
「む、それはかわいそうだな……俺の勉強にあいつらを巻き込んでやる由はない。よし、今日は断っといてやってくれ。あいつらの貴重な時間を俺のために使わせるのもあれだしな」
「あー、いや、そういうわけでもない」
「ん?じゃあ一体どういうわけだ」
「んー、あいつらにこいつへの好意は口止めされているからな……」
「ん?なんて言った?」
「いや、何でもない。つまりあれだな。あー、そう、頭のいいお前に頭の悪い奴ら、特に宮前を教えさせて、お前の理解も深めようという算段だ」
「ふむ、なるほど。効率的だ。よし、乗った」
「はー、とりあえず一安心だな」
「ん?なんか言ったか?」
「いやなにも。それより、それを聞いたら宮前たちも喜ぶだろうよ」
「ああ、力不足にならないよう何とか頑張る」
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後書きです。
少し休ませてください。
と言うよりかは、書き溜めを作らせてください。
大丈夫です。
2,3日後には復活しますんで。
多分。
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