第37話
「外人はどこに出るのかしら」
「さあ、日本でも出るんじゃない」
そう言ってクスクス笑う彼女たち。
私の容姿は昔から特別だった。
それは他人を否応なく魅了したから、男子の耳目を奪い取り、しかしそれに一切なびかない、浮ついた話のない私は、今では陰で氷結の女王とまで呼ばれている。
もちろん、それには彼女たちのような僻みに満ちた人達が皮肉を利かせているという意味もある。
しかし、こんなことは昔からあったことなので気にしてはいない。
だから今回の体育祭も順調に終わる。
——はずだった。
彼女たちは、あろうことか手を出してきたのである。
結果、私は今地面に突っ伏している。
もちろん、当事者である彼女たちが私を助けるはずもなく、孤立無援となった私は、大丈夫、いつものことだからと、涙を飲み込み歯を食いしばる。
そんな最中でもクスクスと耳障りな音が耳を貫く。
そんなことには慣れている。
慣れているが、辛くないわけではなかった。
せめてもう少し、私の容姿が平凡だったら。
と、どうにもならないことを悔いてしまった。
それが悔しくて悔しくて、つい、私は一筋の涙を流してしまう。
それが彼女たちの意欲をより引き立てることになると知っていても。
「あー!泣いちゃったー!」
「ひどーい!皆なんてこと言うのー!」
「えー、でもぉ事実だしぃ」
「そうだそうだ!出て行け外人!」
彼女たちは大笑いにまで達する。
「おい、何事だ」
そんな時、一つの重低音があたりに響く。
「やば、この声、五条君だよね」
「歯向かったら宮前に消されちゃうよ」
「あ、あっち行こう」
そう言って彼女たちは霧散した。
「おいおい、けが人がいるじゃねえか」
そう言って近づいてくるのは、五条樹君。
今となってはそれだけでもドキドキしてしまうが、このころはまだ落ち着いていたので、初対面の時に普通の人と違って私に鼻を伸ばさなかった人だ、程度の認識だった。
「立てるか」
彼の顔をぼーっと眺めていると、どうやら手の届く位置まで近づいていたらしい。
間近から彼の声が聞こえた。
「う、うん!」
私は慌てて返事を返す。
そしてすぐに立とうとするが——
——ひざのけがが途端に沁みた。
「いっ——」
「大丈夫か?あー、膝にけがしてんのか」
私の膝のあたりを見て納得した様子の彼は、急に後ろを向けるとしゃがんだ。
「ほら」
彼は後ろを向いてそう言うが、私には意味が分からない。
「おぶってやるよ」
「っ!——そんなの要らないわよ!全然歩けるわ!」
「いやいや強がんなよ。結構血が出ているじゃないか」
「いい!大丈夫なものは大丈夫よ!」
「……ああ、はいはい。じゃあ、歩くぞ」
そう言って彼は手を差し出す。
「いいって言ってんでしょ!」
「はいはい、こりゃとんだ箱入り嬢様だな」
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後書きです。
今度こそ本当に休むかもしれません。
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