第29話

あの京都旅行から数日たったある日。

俺のスマホに一通の着信が来た。


「あ、もしもし、五条か?」


声を聴く限り、荒木幸助であるらしい。


「ああ、幸助か。どうしたんだ?」


「いや、二人で買い物でも行きたくってな」


「どうした?前の夏休みではそこまで連絡してこなかっただろう?」


「それもそうなんだが、ほら、多分来年は受験で忙しくなるだろう?」


「まあな」


「だからこうやって羽目を外せるのは今年で最後だと思うんだ」


あいつらにとってもな、と何やら意味深長な言葉を付け足す幸助。


「まあいいが、何を——」


「あー、そういや、あいつらも俺と買い物に行きたいって言ってたな」


「あいつら?」


「雨森と宮前とシャルリアだ」


「……やっぱお前ってモテるんだな。昨今はお前と顔を合わせてなかったから忘れかけてたぞ」


「んー、違うんだがなぁ。まあいいか。それで、あいつらと一緒でもいいか?あいにく他の日は予定が合って無理そうなんだわ」


「ああ、いいぞ。別に親しくないってわけじゃないしな」


「なら助かる」


そう言って幸助はじゃあな、と一言伝えると電話を切った。


にしても来年は受験か。







「よお」


待ち合わせ場所に先にいた幸助に、俺はあいさつをする。


「おっす、早いな」


「お前もな。お前なんかいっつもこういうのにはぎりぎりで来るイメージだったんだが」


「俺だってやるときゃやるんだよ。それよりほら、あいつらも来たみたいだぜ」


幸助が目配せした先には、あの女子三人組が歩いていた。


「おはよう樹君に幸助君」


雨森由奈が俺たちにあいさつをする。

それに続いて宮前、シャルリアがおはよう、と声を出す。


「おはよう、雨森に宮前に、それにシャルリア。お!雨森はそのタイトなジーンズにデニム生地のジャンバーがあっているな。宮前は少し大きめのジーンズをオールドなベルトでまとめ上げ、その上はきっちりと柄物のTシャツを着こなしていていい感じだ。シャルリアはオーバーサイズの白いTシャツに赤を羽織って、生足は大胆に見せて、サングラスをしている感じ、どこぞの有名女優みたいで風格があるぞ」


幸助がまるでファッションデザイナーかのように語るので驚いてしまった。

こいつ、いつの間にそんなことを……


「で、五条はどう思う?」


こいつ、俺に話を振ってきやがった。

俺がファッションについて無知蒙昧なのを利用して女子たちの自分に対する株を上げる気だな。

良いだろう、俺もお前の恋は応援しているし乗ってやる!


「あ、ああ、みんな悪くないと思うぞ」


俺はできる限り当たり障りのないことを言った。


沈黙が流れた気がしたが、気のせいだろう。

いや、現に今も沈黙が流れている気がするが気のせいのはずだ。


「よし、じゃあ行くか」


このまま立ち止まっていても何にもならないと判断した俺は、先陣を切ってショッピングモールへと向かった。


「俺はお前らの言った通りやったからな」


「「「悪くないってことは……」」」


後ろから何かぶつぶつ聞こえるが気のせいだろう。

いや、もしかしたら今、幸助が持ち上げられている最中なのかもしれない。

うむ、これは友達として歓迎するべきことだ。

あれ?目から汗が。


「「「いいってことよね!」」」


「はぁ、これが恋は盲目っていうやつか」


俺は幸助が持ち上げられているところを見てしまったら、それこそ立ち直れそうにないので、後ろは絶対に顧みず、ずんずんとショッピングモールへと進んだ。






=====================================================後書きです。


明日は休みます。

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