第28話
「ちょ!離れてください!二人とも!はーなーれーてー!」
大声を出しながら俺たちの間に入り込もうとするのは後輩、栗原美奈。
「これくらい親友なら当然っしょ!子供はどいたどいた!」
片手で後輩を追い払いつつ、もう片方の手は俺の腕に絡ませているのは向坂美鈴。
この状態で観光をしているためとても目立つ。
と言っても、俺だって向坂美鈴のこの行動には驚いているわけで、あまり強く言えないのである。
にしても親友か。
なんとも甘美な響きではないか。
「ちょっと!先輩も顔をとろけさせてないで何とか言ってください!」
「ん?親友なんだから当然だろ」
「この距離感が親友なわけないでしょう!親友ってのはもっとさっぱりしてます!例えるなら日高屋の野菜炒め定食と肉野菜炒め定食ぐらい違います!」
「ん?どっちも同じ味付けだからほぼ同じだろ」
「チッチッチ、なめてもらっちゃあ困ります。確かに同じ味付けですが肉が入ることによって噛み応え、コッテリ感、さらにはのどに詰まらせる危険性まで——って!美鈴先輩は早く五条先輩から離れてください!」
「えー、いいじゃん。ってか、私たちを定食に例えたっていうことはそういうことっしょ?」
「……そういうこと?」
「ほら、ご飯は美味しく頂かなくっちゃいけないじゃん」
すると後輩は顔を一気に真っ赤に染め上げて——
「そんなわけないじゃないですか!」
大声を上げた。
あの後も何とか観光をしたのだが、やはり京都は情趣を解さない平凡な高校生の俺からしたら難しいところだったようで、何一つ記憶に残りはしなかった。
この旅行はもともと一泊二日を予定していたこともあり、今は帰りの電車の中だ。
俺の右手には向坂美鈴が、左手には栗原美奈、後輩がそれぞれ絡みつくようにして眠っている。
眠れる獅子というべきかなんというべきか、起きていたころはギャーギャーと騒ぎ立てていてうるさいのなんのという感じだったが、今はそんな姿も鳴りを潜めて年相応の(後輩はそれでも子供っぽいが)少女という感じだ。
新幹線はそんな俺たちをのせて東京駅へと進む。
独特の高周波な音が流れる車内には俺たち以外にも客が見られる。
しかし、バカ騒ぎをするような輩は見受けられず、ただ森閑とした(新幹線と掛けてみた。)車内で時は過ぎていった。
「——きてください!——起きてください!先輩!」
朝からキンキン響くような声で俺の意識は覚醒する。
「そろそろ東京駅ですよ!」
寝ぼけ眼に飛び込んできたのは後輩の姿だった。
「ああそうか」
どうやら俺は眠ってしまっていたらしい。
目をこすりながら上体を起こし、向坂は起きているのかどうかを確認すると、まだ眠ったままらしい。
「おい、向坂。起きろ。そろそろ東京駅だぞ」
「ん、あー、わかった」
そして起きた三人は、言葉少なに東京駅を待っていた。
そんな中、向坂がこう切り出した。
「やっぱりこういう思い出はちゃんと形に残しておきたいんだよなぁ」
「まあな」
「だから、お前らに内緒でこんなものを買ったぜ」
向坂が無造作に前に出したのは金閣寺の写真がプリントされたキーホルダーだった。
見ると三人分ある。
「はい、これ」
そう言って向坂は俺たちにキーホルダーを手渡していく。
「高かっただろ。払うぞ?」
「いや、いい。これは俺がしたくてやったことだからな」
「いやでも——」
「いいんだ」
「……まあそこまで言うなら無理にはしないが」
「……まあそうだな。何のお礼もなしにってのは俺の流儀に反するし、五条、お前に一つ、お願いを頼もうか」
「ああまあ、叶えられる範囲なら」
「これが俺の、いや、俺たちのスタートラインだってことを覚えておいてくれ」
そう言ってそっぽを向く彼女の表情は、どこか敢然とし、またどこか含羞を含んでいた。
「……どういう意味だ?」
俺はたまらず聞き返す。
「ああ、今は分からなくていいんだ。そのうち分かるだろうからな。ただ、もし分かったなら、ここがスタートラインだったってことを思い出してほしい。そういうお願いだ」
「あ、ああ」
俺は困惑しながら返した。
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後書きです。
正直言って、書くより読むほうが好きです。
ちなみに、予定としては10万字あたりで終わらせる予定です。
これを書き始める前は、意気揚々とその後も続けようとしていたのですが、いかんせん書くことは辛いので、しばらく読み専になろうかと思います。
そして、ラブコメで埋もれてしまっている作品たちを引き上げたいと思います。
ぼぉいずびぃあんびしゃん
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