第13話
俺の競技の番が来た。
玉入れである。
あの女子三人組は……やはり幸助の出る競技の情報をどこからか仕入れてここに入ったらしい。
あちらはどうやらこちらの視線に気づいたようで駆け寄ってくる。
「楽しみだね!」
そう言って上目づかいで全力スマイルを見せるのは宮前佐奈。
後ろには二人が続いている。
「あ、ああ」
俺はなぜこの三人組が俺の方に来たのかという困惑を抱えつつ、それとなくこいつらの目的であろう幸助の方を盗み見る。
「ハーレム主人公許すまじハーレム主人公許すまじ……」
そこには瞠目し、目は血走り、親指の爪を噛んで俯き加減の友の姿があった。
口がパクパクと動いているので、何やら呟いていることは分かる。
ああ、友よ。
いつから豹変してしまった。
『次の種目は玉入れです。選手の皆さん、入場してください』
アナウンスが流れる。
それに合わせて周りがぞろぞろと蠢動する。
俺たち、つまり俺と幸助、加えて女子三人組は紅組なので、赤陣営へと向かった。
『では、競技を始めます。皆さん、位置について——よーい、ドン!』
その一声と同時に、周りは動き出す。
球を集める人、取っては投げる人、俺に全速力で向かってくる人、多種多様だ。
……ん?俺に全速力で向かってくる人?
そこには目はらんらんと輝き、後塵を巻き上げながら走ってくる女子三人組がいた。
その名前はそれぞれ、右から宮前佐奈、雨森由奈、シャルリア・ウェルダムである。
そう、幸助のハーレム要員だ。
……ハッ!そういうことか!
そこで俺ははたと気づいた。
あいつらの目的は俺の後ろにいる幸助だと。
このままでは俺がタックルを受けてしまう。
それはまずい。
そこで、ふと、幸助を盾にすることを思いついた。
あいつらは幸助が好きなはずだから、それでスピードが緩むに違いない。
ましてや好意を持っている相手にタックルしようとは思わないはずだ。
そこで俺は、俺の後ろでのんきに棒倒しをやっている幸助をひっぱっりあげ、前へと投げた。
「え?ちょ——」
よし、これでタックルは回避できた。
我ながら自身の機転に驚嘆していると、予想だにしないことが起こった。
「え?宮前?雨森?シャルリア?どうしてそんな——」
そして、わが友は「うわー!!!」と、悪役がやられたときのような断末魔をあげながら、止まることを知らない女子三人組の突進を受け、お空の星となった。
まずい。
このままでは俺もお空のお星さまとなってしまう。
そう身構えたのだが、それは杞憂に終わった。
なんと俺の前で三人は揃えたかのように足をほつれさせ、ズサーと転んだのだ。
そして、揃えたかのようにこう言った。
「「「ころんじゃったから起き上がらせて!!!」」」
……正直いって助かった。
その後は三人を起き上がらせたり、その三人を保健室に連れて行ったりと、競技に参加する余裕がなかった。
まあ、俺も実際参加できたとしても、邪魔にならないところで幸助と棒倒しをしていただろうからいいのだが。
「あー、負けちまったなぁ」
そう言って、ボロボロの姿で空を仰ぐのは荒木幸助。
「だな」
俺はそれに乗っかる。
「いや、お前は負けてねぇだろ。むしろ人生の勝ち組だろ」
「そうか?まあ確かに文系科目の勉強なら得意だが……それほどか?」
「いや、そういうわけじゃねぇよ。……はぁ、思い返してみろ。お前、玉入れの時に何やった?」
「ん?うーん……お前を盾にした……とか?」
「そっちじゃねぇよ。いや、そっちも重要だが、お前の家を郎党ともども呪い殺してやろうと思ったけど、そっちじゃねぇよ」
「は?じゃあ、それ以外だったら何をやったっていうんだよ。俺は女子の介抱で——」
「それだよ!」
「……は?どれだよ」
「『女子の介抱』だよ!」
「……お前なぁ、人を助けるのは当たり前の——」
「そんなこと分かりきっているわ!それよりも今回は助けた相手だろ!」
「相手?ああ、あの女子三人組のことか?しかしそんなこと聞いてどうす——
ハッ!もしや……鈍感主人公の幸助が嫉妬している……?
これは……あいつらの気持ちに気づいて自分にも『好き』という感情が芽生え、とうとう物語もクライマックスになろうとしているということか……?」
そう考えると長かった。
あのハーレムは思うに高校一年生の夏ごろからできていたからな。
俺は幸助に親愛の、まるで親が子供の成長にほくほく顔になったかのような顔を向ける。
「そうか、ごめんな。大丈夫。あいつらには手を出さないから」
「……その顔めっちゃむかつくんだけど」
「ああわが友よ、俺は嬉しく思うぞ」
「ああそうかいそうかい、俺は今ものすごく腹立たしく思うよ」
これが多分、反抗期とかいうやつだろう。
=====================================
今日は10分ぴったりに出せそうですね。
あ、こんなんを書いていたために過ぎてしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます