第15話

パン喰い競争の結果は、栗原美奈、後輩が圧倒的大差をつけて——

——ビリだった。

というのも、体が小さすぎて、規定のパンの位置に口が届かなかったのだ。

何度も何度も飛び跳ねる様子は野を駆け回るウサギを彷彿とさせた。


ところで今はお昼である。

俺は幸助と体育館で食べようとしたのだが——

——俺の前にはあの女子三人組が立ちはだかっている。


「い、樹君?お昼はどうするのかしら?」


「んー、まあ、幸助と食べるつもりだが」


「そ、そうなの、よろしかったら私たちと食べないかしら?」


「ん?まあいいぞ。なあ、幸す——」


「くそ!ここまでラブコメの毒牙が及んでいようとは!ハーレム主人公許すまじ……」


そこには、さっきの暑さで溶けた顔とは打って変わった、企んでいた世界征服が勇者によってことごとく阻止され、荒んでいる悪役のような顔をした幸助がいた。


「ああ、幸助もぜひどうぞってさ」


俺は友がだんだんと病んできているのを見て見ぬふりをした。

これがあんな結果をもたらすなんて……

と言っても、この先なんてわからないのだが。

そう言ってみれば、かっこいいなと思ったので言った次第である。


「そ、そう」


「で、でね!樹君!」


宮前佐奈が前にずいっと乗り出してきて言う。


「私たち、弁当作りすぎちゃったみたいで……だから、良かったら私たちの分も食べてくれない?」


「ああいいぞ。購買に買いに行く予定だったから弁当も持ってないし。幸助もそれでいい——」


「なんであんな鈍感野郎にハーレムができて俺には……まさか!ハーレム主人公の座は奪取制!?……すまんな友よ。俺はお前という存在より大切なものを見つけたようだ……」


親愛なる友から殺気を感じた気がするが気のせいだろう。


「それでいいってさ」


「そ、そう、それならよかった」


そして俺たちは体育館へと向かった。







「いやぁ、にしてもすごい人だねぇ」


そう言って辺りを見回すのは宮前佐奈。


「そうね、空いているところがあってよかったわ」


そう言ってさっそく弁当の準備をするのは雨森由奈。


「ふん!こんなのあてぃしのクニに比べればなんてことないわね」


そう言ってさりげなく俺たちにカルチャーショックをもたらすのはシャルリア・ウェルダム。


「あ、そうだ、箸持ってこないと」


そう言って立ち上がろうとする俺を制止したのは全員だった。


ある人曰く


「待て樹!お前は友をこんな地獄に置いて行くつもりか!」


また、ある人たち曰く


「「「箸なら持ってきているわ」よ!」わよ!」


「おい幸助。これを地獄とみるか。こんなかわいい子たちに囲まれて、お前は本当は幸せな奴なんだぞ」


「「「かわいい!?」」」


女子たちが俺の発言に仰天した様子だが、幸助の不遜な態度にいまだに憤りがふつふつと湧き上がるので、幸助に続けてこう言った。


「お前がそんなにうかうかしている様子だったら、俺はこの中の一人でも嫁にとっちまうぞ」


「「「嫁に!?」」」


「あ、ああ、わかった、わかったから!だからもうそれ以上言ってやるな!雨森たちが持たないだろう!」


そう言って幸助がさした方にいたのは、極度なまでに赤面し、目をぐるぐる回している三人だった。

そうか、俺に嫁に貰われるのはそこまで嫌だったか。

忠告も程度を過ぎると悪口になるということだろう。

これは素直に反省である。


「……ん?そういえば、箸があるって言っていたが、なんであるんだ?弁当はたまたま余分に作り過ぎてしまっただけだろう?」


それには宮前佐奈が若干慌てた様子で答えた。


「あ!えーとね!それは……そう!箸も余ってたから!」


「箸も余ってた?」


「そ、そう!」


宮前佐奈は大きく頭を縦に振る。


「ば、ばか!箸が余ってたって何よ!」


「そんな変なこと言っちゃったら事前に準備していたってことがばれちゃうじゃない!」


「あ!そっか!ごめん!どうしよう!!!」


何やら女子三人組が秘密話をしているようだ。

にしても、箸が余っていたら持ってくるなんて、大変なところだなぁ。

多分、家の中に余分なものを置きたくないんだろうなぁ。


「ああ、そっか、大変そうだな」


俺は一言、宮前佐奈の苦労を思い労った。


「逆になんでそれで気づかねぇんだよ……」


幸助が隣で何かをぼそっと呟いた気がした。






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後書きです。

ところで箸は二本で一膳です。

しかし、あのにっくきカップルたちは二人で一人ではありません。

そこで僕は妙案に気づいてしまったのです。


まず、カップルのもとに友達を引き連れて近寄ります。

そして喧嘩するふりをするのです。

そして、最後にこう呟くのです。


「やっぱり俺たち人間ってのは、自分以外は他人なんだなぁ」


こう言えばカップルは冷めるに違いありません。

ラブラブしている奴らも「そっか、他人かぁ」と急によそよそしくなるでしょう。


あとはこれを試してみて実際に効果があるかを検証するだけです。

しかし、これをするには僕の前に大きな壁が立ちふさがります。


……トモダチ?


いえ、作れないんじゃありません。

敢えて、作らないんです。

これは言い訳じゃなくて客観的な事実です。

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