第43話

——過去を夢で見た気がした。


ベッドであおむけになりながら、つい先ほどの夢を思い出す。


そこには当然のごとく俺がいて、俺が“ユウ”と呼んでいる男友達がいた。

そいつの屈託なく笑った顔は、どこか雨森由奈と似ていた。


そう言えば先日、そんな顔を雨森由奈もしていた。


だからだろう。

そんな過去を今になって思いだしたのは。


あまりに昔であるため記憶はおぼつかないが、確かあいつはある日突然いなくなってしまった。

まあ、と言っても、俺のお馴染みの公園で遊んでいるだけの中だったため、どこに移住したとか、今はどうしているとかは全く知らないのだが。


かと言って俺との交誼があったかつての友が破局を迎えているのは後味が悪いため、順風満帆に暮らせていることを少しは願ったりもしているが。


まあ、とりあえずその何の役にも立たない(俺としては全く役に立たせる気もないのだが)願望は捨ておこう。

何せ今日も学校がある。

今はそんなことを漠と思いながら陶然としているよりも、学校の準備のために起き上った方が賢明だろう。


俺は重い体を起こした。







今日も今日とて学校である。


教室に入ると、幸助の下卑た笑みに迎えられた。


「おうおう五条殿。昨日の俺の取り計らいはどうだったかな?」


なるほど。

あの取り計らいは確かに助かった。

だからこんなに自慢げなのだろう。


しかし、こいつにそんなことを素直に言ってより一層、笑みが深くなったら癪だ。

ここは軽く流そう。


「ああ、まあ助かったよ」


俺はさも無関心に言う。


「そうかそうか。それならよかった」


しかし幸助の方はそれでも満足したのか、下卑た笑みを深くし、席に戻っていった。

といっても、俺と幸助の席は前と後ろなので俺も幸助と同じ方向に向かったわけだが。


「しかし、お前の方にもなんかあったんじゃないのか?」


ふと、気づいたように幸助は訊いてくる。


「ああ、まあな」


これを気づきといっていいかどうかはさておき、それに似たようなものではあるので肯定のサインを出す。


「ほう、ではそれを教えてもらおうではないか」


「ああ、いや、別にそこまでたいしたことではないさ。ただ、昔いた男友達とあいつの顔が似ているなと思っただけだ」


幸助は一瞬呆気にとられたような顔をする。


「おいおい、本当にどうでもいいことじゃないか。もっとこう、なんかあるだろ。胸が甘酸っぱくなったとか、もっと一緒にいたくなったとか」


「いやいや、あいつらにはもう好きな人がいるんだからそんな感情抱くわけないだろ」


「いや、だから——いや、何でもない。まあ、頑張れよ」


幸助は憐憫の目を向ける。

なぜこんなやつに憐れまれなくてはいけないのか。


少しむっとした感じでこう切り出した。


「そういえば、あいつの困りごとにも言及しといたぞ」


「困りごと?ああ、あれか。で、反応はどうだった?」


「まあ、ぼちぼちと言った感じだ。俺は平凡な学生らしく問題を先延ばしにしただけだからな」


「ふーん、まあいいんじゃねぇの。先延ばしにしても困るのはお前だし」


「困る?俺が?いやいや、それはあいつらの好きな人の間違いだろ」


「んー、まあいっか。はいはい、そうだな」


幸助の往生したような顔にはさらにむかつきを覚えたが、朝のホームルームの時間を告げるチャイムが鳴ったので不問とする。







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後書きです。


矢張り純情であり続けるのは無理なのかもしれない。

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