第42話

彼女、雨森由奈の意外な一面が知れたからだろうか。

俺はなぜか無性に彼女のことが気にかかっていた。


俺のその心中を察したからだろうか。

幸助は取り計らって俺と雨森由奈が一緒になる時間を作ってくれた。


と言っても、帰る方向は違うため、幸助たちが先に帰って俺たちを置いて行くという形であるが。


「じゃ、私そろそろ帰ろうかな」


そう言って雨森由奈は席を立とうとする。


「待て、」


俺は彼女に声をかける。


「少し、話していかないか」


俺はぶっきらぼうに言葉を投げかける。


その俺の、今までとは違う積極的な態度に興味を持ったのか、雨森由奈は再度席に着いた。







「……お前は特別だ。すばらしい。人の上こそお似合いだ」


俺は彼女にこう切り出す。


すると彼女は嫌悪するように身震いした。


「……聞き飽きたか?」


すると彼女は憮然とする。


「どういうこと、かな?」


「いや、だから、そういう言葉は聞き飽きたか?」


「う、うん」


彼女は申し訳なさそうに下を向きながら肯定の意を示す。


「そうか。いや、俺は平凡な奴だからな」


「そ、そんなこと——」


「お前の気持ちなど毛頭も分からん」


しばし沈黙が流れる。


「まあ、お前の気持ちをわかるやつなどそうそういないだろうな。当然、お前の気持ちなど当人以外に分かるわけないんだから」


「……うん」


「……ところで恋愛はどうなんだ?」


「……どうなんだって?」


「いや、だから、お前の望む通り普通なのか?」


「……ううん、私以外にも、その人を好きな人がいっぱいいるから」


「ほう、そりゃあたいそうなことだ。男として羨ましい限りだね」


「ははは……」


彼女は乾いた笑いをする。


「まあでも、傍から見るにお前は普通の恋する乙女だけどな」


その言葉を聞いて彼女は不得要領といった顔つきをする。


「つまり、お前は傍から見れば普通の恋愛をしているってことだよ」


彼女の顔はそれがどうしたと言わんばかりに、いやむしろ安い慰めでもかけるつもりかと胡乱げに俺を見つめている。


「あー、もっと言うと、別に普通なんていうもんは他人からの評価に過ぎないだろ?」


彼女は合点がいったというようにうなずく。


「だから、お前がその普通を作ってしまえばいいのさ」


さらに彼女は頷く。


「だから、お前がその恋愛で勝てばいい。そしてこう宣言すればいいんだ。もとからこの人を好きだったのは私のみです、とな」


まさかそれに反論してくる奴は現れないだろう。


もしいたとしても、事情を知っている一部の人間だけだ。


そうして普通は“作られる”。


まあもっとも、これは彼女が勝つ前提の話だがな。


ただ、これを聞かせる前の彼女はその勝負すら諦めようとしていた。

俺はそんな彼女を再び活気づけたまでだ。


俺は別に万人を救うヒーローなどではなく、年相応に刹那主義な、平凡な学徒である。

だからこのあと彼女がどうなってしまうかなどを心配するのは、俺の性には会わないのだ。


「そう、だね。うん!きっとそうだよ!」


彼女は大きく縦にかぶりを振る。


「ありがとう!樹君!……でも、私をここまでにさせた責任はちゃんととってね!」


そう言って屈託もなく笑った彼女は、そのまま習い事の時間があるから、と大慌てで帰っていった。


いや、それではいささか表現にあらがある。


彼女は俺に異様なノスタルジーを感じさせて、帰っていった。






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後書きです。


涼宮ハルヒの憂鬱の二次創作は放棄することにしました。

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