第41話
テストの成績開示が阿鼻叫喚に終わり、さりとて淡々と進む時に身を任せていた怠惰な俺は、お疲れ様会という名目でカフェに来ていた。
「樹君はどうだったのかしら」
そう訊いてくるのは雨森由奈。
「まあ、普通だったな」
そう。
俺のテストの結果は文系科目が少し良いだけで、その他は平凡、面白みのないものだった。
「そう、まあ、普通より良いことなどないわ」
「まったく同感だな」
彼女の虚を見る目には少し引っ掛かりを覚えたが、なるほど、俺たちは高校生であるからそうやってませてみたいお年頃なのだろう。
まあしかし、普通がよいという彼女の思いがけない言葉には驚いた。
彼女はその対極にいたように思えたからだ。
傍目からではあるものの彼女はクラスをいつも引っ張りまとめ上げ、成績は優秀、見た目は玉砕が相次ぐほどに美しいのであるから、俺はつい彼女をアブノーマルだと思っていた。
いや、しかしそんな彼女だからだろうか。
彼女の憂鬱気な目はいつも普通を見ていたのであろう。
それは王宮にとらわれた王女が庶民の暮らしを夢想するような、志向するような、そんな雰囲気に似ている。
そして、そんな孤高の王女様である彼女を王宮から連れ去るのは、彼女たちが好きな人の役目であって到底俺の役目ではない。
俺は遠目に彼女の切迫した願望を、虚空に霧散する悲鳴を、見ることしかできないのだ。
まあ、こんな感じにませてみたところで、当然何が起こるわけでもなく、ただ単に注文を受けたウェイターがそれぞれの品を運んでくるだけだが。
俺はこの季節限定のチョコパフェを頼んでみた。
天を穿つようなパフェの造形は見事としか言いようがなかった。
一口口に含んでみると、やはり甘いもの以上の至福などこの世にはないと痛切に感じられる。
そんなことを思っている間に二口目を含み、三口目を含み、次第に手が止まらなくなっていた。
「お前があいつを救ってやれよ」
加速度的に手の動きが速くなっていく俺の隣で、荒木幸助がぼそりとそう呟いた。
俺はパフェへと向かっていた手を止める。
幸助はこう続けた。
「あいつは気丈にふるまっているだけなんだよ。あいつも普通に生きたかっただろうし、普通に暮らしたかっただろう。ましてや恋愛なんて、普通の恋愛がしたかっただろうな。まあ結局それはできなかったわけだが、何せ俺はお前の友達だ。俺はお前の味方だからお前のそれをどうというつもりはない。ただな、俺は同時にあいつのこともよく知っている。想像したことがあるか?自分の意思とは関係なく持ち上げられる苦痛を。まあだから、俺はあいつにも救われてほしいと思っている。まあそれはお前だけの仕事ではないだろう。だが、もしお前があいつを選ぶのであれば、あいつを救ってやってほしいと思うまでだ」
女子たちの談笑を遠目に、女子たちに聞こえないくらいの声量で言う。
「……何を言っているんだ。あいつを救うのは俺の役目ではなくって、あいつらの好きな人の役目だろう?」
「はぁ、まあいいさ。お前にもそのうち分かるときが来る。そして俺の予想だと……それも近いだろう」
そうして幸助は先ほどと同じように、自分の注文したパエリアに手を付ける。
俺もパフェに手を戻した。
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後書きです。
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