第10話

その後美鈴に事の顛末、もちろんキスされたなどとは厚顔無恥でない限りは言えないから飛ばしたが、それを搔い摘んで話した。


「で、先輩はどの競技に出るんですか?」


そう訊いてくるのは美奈、へっぽこ後輩である。

先ほど俺にあんなことをしたのに、平然としているのは後生畏るべしということだろう。


「ん?ああ、玉入れだ」


俺は努めて平静に返す。


「うわ~、さすが普通ですね」


「あ?お前普通って言ったな?しばくぞ」


「美鈴先輩!この野蛮な先輩がまた私のようないたいけな後輩をいじめようとしてきます!」


「いや、あのさ……」


美鈴は呆れたように頭を抱えながらこう続けた。


「お前らさっきのさっきであんな喧嘩しておきながらよく平然といつもの調子が出るよな」


俺だって実はそれに驚いている人の一人なのさ。

だがな美鈴。

後輩が普通である以上先輩の俺だっていつも通りを装わないといけないだろう?







体育祭当日。

あいにくの晴れである。


前日から雨雨坊主を多数つくったり、雨乞いの儀式をおこなったり、失恋ソングで空をしんみりさせたのにもかかわらず、あいにくの晴れである。


「あーあ、晴れちまったな」


俺の隣でそう嘆くのは荒木幸助。


「そういうお前は、約束通りルーチンを行ったんだろうな?」


「ん?雨雨坊主100個か?そりゃもちろん」


「くそう、じゃあなんで雨が降らない」


「……案外、俺ら以上に晴れ晴れ坊主を作ったやつがいたりしてな」


「え?俺ら以上に?ないない。もしそんなのがいたらどんな奇人だよ」


「だよな」


そんな時、前から会話が聞こえてきた。


「シャルリア、晴れ晴れ坊主1000個は抜かりないわね?」


「ソウいう由奈こそ」


「そこまでの威勢があるなら大丈夫そうね、佐奈は?」


「ごめーん!987個までは作ったんだけど、途中で寝落ちしちゃった」


「どうすんのよあんた!そのせいで途中で雨が降ってきたら!今日は何といっても——」


俺は幸助の方を向いて言う。


「……いたぞ」


「ああ、俺も聞こえてる」


……まあ、何事にも上には上がいるということだろう。







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後書きです。

話題を付けるのが面倒くさくなったので止めました。

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