第11話

学校に入るところで、一グループの女子軍団がたむろしているのを見つけた。

普通だったら気にも留めないだろうが、どうやらその中心には栗原美奈、へっぽこ後輩がいる。


見ると制服姿のようだ。

常時あの常軌を逸した服装を着ていないことを知った俺は少し安堵した。

しかし、囲まれて何か言われているようである。


……俺は少なくともそれを、いじめと判断した。

つまり、いつも世話をしている奴がいじめられているような状況を見て胸糞悪くなった俺は、その集団に聞き入ったのだ。


「おいお前ら、何している」


「ぁ、先輩」


彼女は若干頬を上気させながら俯いて言う。

その姿に余計囲んでたやつらへの怒りが増した俺は、再度、今度は若干語気を強めて訊く。


「何を、していた」


すると周りの女子は肩をビクッと震わせ、俺が上級生なのもあってかあまりの恐怖に瞠目した。


「す、すいません、なんか勘違いされていませんか?」


そう言ったのは、多分この中で中心的な人物なんだろう、金色でロングの髪の毛がカールした少女だった。


「巧言令色などいい。お前らは俺の質問に答えるだけだ。もしそれができないようなら——」


「せ!先輩!それは勘違いです!」


そう声をあげたのは、あろうことか美奈だった。


「勘違い?どういうことだ?」


「じ、実は……」


そうして美奈が言ったのは大体次のようなことだった。


なんでも、美奈はここで待っている人がいたらしい。

何故かと言うと、今日の体育祭で出る競技を伝えて見てもらうためだ。

周りの人が言うには、その人に好意を抱いているらしい。


俺はそれを聞いて、ああ、どんなにポンコツな奴でも恋愛ってするんだなぁと、一種の哲学的思想に引き込まれた。


しかし、悲しいかな、へっぽこ後輩には一人で待つなんて勇気がなかったから友達に付き合ってもらったらしい。

だが、友達たちは何もすることがない。

そこで手持ち無沙汰になった友達たちは、美奈によってたかってその相手の特徴などを聞いていたのだと言う。







****************************************

栗原美奈視点


先輩がとうとう目の前まで来てしまった。

私は私の出る競技、パン喰い競争に見に来てほしいと伝えなくてはならない。

少し、断られたときのことを考えてドキドキするが、口に出さないことには始まらない。


「せ、先輩、それで……私、パン喰い競争に出るんですけど……できれば来てほしいなぁって……」


その言葉を聞いて、先輩以外の周りの人が驚いたような表情をした。

多分、友達はさっきの話を聞いていたから、この人が私の思い人だと知ったのだろう。

先輩の友達に関しても同様だ。


しかし、先輩は、一番気付いてほしいはずの先輩は全くと言っていいほど気づいた様子はない。

やっぱりこの人は鈍感だな。

でも、そんなところも好きですよ。


私の友達たちは、段々にやつきだす。

それもそのはず。

さっきの話を聞いていたら、これはもはや公開告白と同義なのだから。


「ああ、分かった」


しかし先輩はそれに気づいた様子はなく、ただそっけない言葉を返すだけ。


「じゃあ、俺、もう行くから」


私の心を知っているからか、先輩の冷淡な対応に不満の顔を見せる私の友達たち。


「えー?ここまで言ったのに教室くらいまでエスコートしてあげないのー?」


金色のロングのカールの髪型の、名前は片原萌というのだが、萌がさも不満なように言う。


「いや、だって、本番がまだあるだろ?」


先輩はその不満の理由が不得要領と言った感じで切り返す。


「……本番?」


今度は萌が不得要領となる番だ。


「ああ、だって、それを伝えたい人がいるんだろ?

俺はたまたま会ったから部活の関係性上話さないと気まずいかもしれんが、美奈の好意を寄せている相手は美奈が言いたくて待ってるんだろ?

そこに俺の入り込む余地はないってことだ」


そこで萌を含む私の友達たちは、驚きつつも合点がいったという顔をした。

どうだ!私の先輩の鈍感具合は!


「あ、あー、なるほど、美奈っちも大変なんだね」


「ん?なんでそんな話になるのかは皆目見当がつかんが、まあそういうことだから。俺はいくぞ」


そう言って先輩は去っていった。


先輩の大きな背中を見つめながら、やっぱり私は先輩が好きなんだということを再度確認しつつ、今日もこの気持ちを伝えられなかったなと少ししんみりする。


「美奈っち、あれって本当?」


「そうだよ」


「あー、美奈っちも変な男選んじゃったねぇ」


「変な男っていう言い方は——」


「まあ、でも、いいんじゃない?顔も悪くないし……なにより、あんたを守ろうとしてくれたし」


自分が褒められたわけじゃないのに、なぜかその言葉を聞いて嬉しく感じる。


「そうです。私の先輩は世界一なのです」


「なんじゃそりゃ」


私たちはガヤガヤと話しながら、少し前に先輩が消えていった校舎の中に入った。






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後書きです。

進学の方で忙しくなったので更新頻度が落ちます。

いえ、進学が理由というのは嘘です。

執筆の方が佳境に入ってまいりました。

というのも、筆者の経験のない体育祭を描かなくてはならないからです。

ましてや、女子が運動する姿を見たことがないので、胸の揺れをどのように表現すればよいかなど分かるはずもありません。

……仕方ないか(決意のまなざし)。

僕はこれから駅前の信号に張り込んできます。

というのも、赤信号になるギリギリで走りこんでくる女性の、胸の弾み方を見るためです。

これは決してやましい気持ちはございません。

僕だって決してやりたくはないのですが、よりよい創作活動のために仕方なくするのです。

……なるほど、女性が通らなかったらどうするのかという顔をしてますね。

そうなったらは仕方ありません。

おじさんのもっこりが弾む様子を、それに代えさせていただきます。

どちらも膨らんでるし、弾むし、同じだよね!

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