第5話 勘違いでジャズを引きたい

「麦茶、置いとくぞ」


「ありがとう」


「ありがとー!」


「あり……サンキューね」


「……」


「……」


「……」


「……」


しばらくの間沈黙が流れる。

というのも、俺には彼女たちが俺の家に来た理由を微塵も想像することができないため、会話の糸口を掴めないのだ。


「……きょ、今日はいい天気だね」


その沈黙を気まずく思ったのか、宮前が口を開く。


「それは朝に言うことでしょう。何?あなたは学級日誌にそんなに書くことがなかったのかしら?」


それに冷静沈着に突っ込むのは雨森。


「はっ!いつもの突込み癖で突っ込んでしまった!これで樹君からの心象が下がったら最悪だわ……取り繕わないと!」


そして雨森は何やらぶつぶつと呟く。声を少し張り上げて曰く


「ま、まあ、人間にはそういうときもあるわよね。そういう人間の姿も素敵だわ」


と、突拍子もなく人生哲学が飛び出した。

反面、宮前は呟いていた内容が聞こえていたのか、急ににやにや笑いだし——


「いやぁ、でも優しい樹君のことだから、そうやって人にすぐ突っ込む人は嫌いだと思うなぁ。ねぇ?樹君?」


何の話をしているのか皆目見当がつかないが、とりあえず肯定しておけば何とかなるだろう。


「お、おう、確かにそうかもな」


「やっぱり樹君の彼女は私みたいに優しさがないとね。ね?樹君?」


「ん?あ、ああ、多分な」


「しかもその性悪を取り繕おうなんて、見え透いているっていうか、人間としてたかが知れているっていうか。なおさら樹君には似合わないよ。ね?樹君?」


「あ、ああ、そうだな」


そうして俺が宮前の言葉を適当に流していると、雨森の顔は青ざめ、一言俺のこう聞いた。


「い、樹君、それって本気で言っているのかしら?」


「ん?何がだ?」


「その……私みたいな人間は樹君のタイプではないって……」


「ん?そんなことはないぞ」


そう言うと、雨森の顔は打って変わって晴れやかになり、


「そ、そう」


と小さく言いながら、頬を赤く染めて髪をかき上げるのだった。


「いやぁ、お前たちが幸助のことを好きでなければ、俺にもチャンスの一つや二つはあったのかもしれないけどなぁ」


俺は冗談めかして言ってみた。

すると、三人は驚愕と言った表情になり、


「嘘!勘違いされてた!?」


「まずい!私たちを隔てていた壁はそれだったのね!?」


「通りでアタックしても反応がないと思ったら!」


と、何やら俺には聞こえないことをつぶやいている。

そして彼女たちはお互いに目を見合わせると、一つ頷き


「「「今日は帰らせてもらいます!」」」


と、声を合わせた。

俺はその勢いに若干圧倒されながらも


「お、おう」


と答え、各々別れの言葉を言いながら家を出ていく彼女たちを見送った。






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後書きです。

勉強しようと思ったけど、やっぱり趣味の時間って大切だよねって思い、こっち側に傾倒した、どうも、クズです。

でも、やっぱり勉強の力ってすごいですね。

だって、今日ちょっと勉強しただけでこの作品のアイディアが見る見るうちにあふれ出てきましたもん。


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