第4話 中二病に四字熟語はつきもの
「クックック、今日ものこのこと——」
俺は放課後になったため、ブンブン部に来ている。痛々しい中二病のモニュメントを通り過ぎると席に——
「しかし回り込まれてしまった」
「……うざ」
「ああ!今うざいって言った!しかもこんなかわいい後輩に!これは重罪です!美鈴さんもそう思いますよね!ね!」
「なんで俺に訊くんだよ……アアハイハイソウデスネ」
「ほら!美鈴さんもこう言ってる!これは帰りにカフェオレ一杯おごるの刑ですね!」
「いや、今のどう聞いても棒読みだっただろ。なあ、美鈴」
「アアハイハイソウデスネ」
「ほら」
「いやいや、今の方が棒読みでしたよ!ね!美鈴さん!」
「アアハイハイソウデスネ」
「こんな後輩ここには置いておけんだろ。美鈴、どうすればいいと思う?」
「アアハイ、ハイソウデスネ」
「ひどい!先輩はこんないたいけな後輩をきっと海外のマフィアに配送(ハイソウ)して凌辱させるつもりなんだ!これは重罪です!美鈴さんもそう思いますよね!」
「アアハイハイソウデスネ」
「安心しろ、配送先はもう決まっている。なあ?美鈴?」
「アアハイハイ、ソウルデスネ」
「……ソウル?」
「韓国の首都だ」
「……そんなまさか!先輩は私を慰安婦の横に置いて韓国の方々を慰安させるつもりなんでしょう!」
「いやいや、それはさすがにお前の頭があれなだけだろ。ていうか、センシティブな内容を軽々しく持ち出すんじゃありません」
美奈の額にチョップする。
「はうあ!」
俺は帰路についていた。
夕暮れの街並みを威風堂々と歩くのも、たまには悪くない。
いや失礼、威風堂々は余計だった。
普通に歩いている。
つまり今日という平々凡々な日も、秋霜烈日な日でさえも、日進月歩を継続反復することで俄然払暁、突然に夜明けが来るのだ。
最近俺は四字熟語にはまっている。
……かっこいいしな?
ちなみに一番好きな四字熟語は「臥薪嘗胆」だ。
ハーレム主人公の友人キャラという俺の不遇を、慰めてくれているような気がするからだ。
そして、前回地獄を見てしまったカフェを通り過ぎようとしたその時——
——彼女たちと目が合ってしまった。
彼女たちとは、もちろん幸助のハーレム要員の女子である。
そいつらは先週、つまり前回の地獄を見てしまった時と同じカフェにいる。
もちろん気づかないふりをして立ち去ってもいいさ。
しかし、最近の彼女たちと俺との仲は、若干の水臭さがある顔見知りという程度に落ち着いている。
つまり、互いに遠慮しているのだ。
そんな中、彼女たちは一心にこちらに視線を向けている。
これはまさに、彼女たちに気づくことをお願いされているに等しい。
つまり、彼女たちに気づくという行為は要求されたものであり、気の置けない友人であれば無視もできようが遠慮がある俺と彼女たちの仲であるならば、それはすなわち強制力が伴うのだ。
俺は一つため息をしてカフェに入った。
「い、樹君、奇遇ね」
「お、おう」
いの一番に話しかけてきたのは雨森由奈、スマートな印象を受ける少女である。
「樹君はここら辺が家なの?」
「ああ、そうだな。この道をまっすぐ行って突き当りを曲がると俺の家だ」
俺が前回もここを通っていたことから近所に俺の家があると考えての発言をしたと思われるのは宮前佐奈、阿保の子である。
「な、なんか喋らなきゃ……あ、あてぃしも!」
唐突に声をあげたのはシャルリア・ウェルダム。
「何がだ?」
「あ、あー、えーっと……そう!お家にお邪魔してもいいかしら!」
「あ、ああ、いいが」
「そ、そう!じゃあ、行きましょう!」
「え?今?」
彼女はてんぱっているのか、片言の日本語が普通に戻っている。
「そ、そうよ。……ダメ?」
そう言ってシャルリアは上目遣いで俺を見てくる。
健気に輝く切れ長の目に、しっとりとしていそうできれいな肌、高く小さな鼻は息のたびに小さく膨らむ。
こんなかわいい姿を見せられてもなお、断れる男っている?
居ねぇよなぁ!?
「いいぞ、行こう」
「は!抜け駆けを許してしまった!」
「嘘!そんな、大胆な……」
横で何やら雨森と宮前が呟いているが、俺は今起こった上目遣いを処理するのに手いっぱいなので構っていられない。
「い、樹君、少しいいかしら?」
雨森のその一言で俺は一気に現実に引き戻される。
「シャルリアが、その……い、樹君の家に行くってことはいいのかしら?」
「ん?ああ、まあ、なんもないところだが」
「じゃ、じゃあ、私も行ってもいいかしら?」
「ん?ああ、まあいいぞ。狭いが」
「あ!はいはーい!私も行く!私も絶対行く!」
そう言ってあげた手をぶん回すのは宮前。相変わらず阿保っぽい。
「お、おう、そうか」
俺はカフェの中を見渡す。
すると、俺たちの声はカフェ中に響き渡っていたようで、カフェにいる各々がこちらに聞き耳を立てていることが分かった。
その中には、何やら呟きながら聞いている幸助の姿もあった。
「ハーレム主人公許すまじハーレム主人公許すまじ……」
「幸助」
俺は幸助を呼ぶ。
「なんだよ、鈍感野郎」
「とてつもなくひどい言われ方だが……お前も俺の家に来るか?」
「いや、地獄は学校だけで結構だ」
「そうか」
そうか、つまり幸助はこんなにも美少女な三人組に囲まれた生活に、辟易としてしまっているのか。
まったく、ぜいたくな奴だぜ。
「臥薪嘗胆!」
幸助はそう叫ぶと、一気に走って消えていった。
あいつ……俺の好きな四字熟語を何故知っていた……
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後書きです。
そろそろ不定期投稿になるかもです。
というのも、進学の方で忙しくなってきたからです。
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