最終夜 操り人形 (約2200字)
変な夢を見た。
私の目の前には、例の女『
菜音は、両手を腰の後ろに回し、何かを隠しているようだ。
そして、ニヤニヤしながら、私のほうを伺っている。
・・・・
私 「菜音・・・なんか、後ろに隠してるでしょ。バレバ・・・。」
菜音「レッドスネェぇク! カモォおン!」
私 「えっ? なんだい、突然・・・。」
菜音が、腰の後ろに回していた両手を体の前に出す。
その手にはコブラの形をした縦笛が握られていて、菜音はそれを吹き始めた。
おっ・・・意外とうまいぞ、なんてエキゾチックな音楽だろう。
そう思ったのも束の間だった。
突然、私の体が勝手に動き始め、メロディーに合わせて踊り始めた。
私 「えっ? なんだこれ? 勝手に体が動く。えいっ、くそっ!
おい。菜音! 止めてくれよ。お願いだからさ。」
菜音は首を横に振り振り、私にウィンクすると、調子に乗って高音域で笛を吹
く。なんと、私の胴体が蛇のように伸び始め、ゆらゆらと動き始めたではないか!
私 「おいっ、菜音! ボクは・・・怖い。これじゃ、蛇人間になっちまうよ!」
菜音は、私の声を無視し、目で笑いながら笛を吹き続ける。
くねくねと動き回る私の上半身。
そして、下半身は・・・なぜか屈伸運動を続けている。
屈伸するたびに、私の上半身が少しずつ伸びていくようだ。
こんな訳のわからない状態の中、私は、あることに気づいた。
自分の意志で体は動かせないものの、自由に話すことは出来る。
つまり、私の口だけは、自分の意志で動かすことができるのだ。
私は、そこに勝機を見出した。
私は、唇を尖らせると、息を吹きだした。そう、口笛を吹き始めたのである。
菜音が笛で吹いているエキゾチックなメロディーをまねて、高々と口笛を吹く。
すると、菜音の下半身が屈伸を始め、菜音の胴体が少しずつ伸び始めた!
菜音「ちょっとぉ、やめてよ!」
菜音は、たまらず笛を吹くのを止めると、私にそう訴えかける。
しかし、不思議なことに、菜音が笛を吹くのを止めたはずなのに、音楽はちっと
も止まらないのである。
私 「ありゃ、なんで音楽が止まらないの?」
私は、口笛を吹くのを止めた。しかし、口笛もまた、どこからともなく聞こえて
くる。口笛のメロディーに合わせ、菜音の上体がくねくねと動き、私の方に近寄っ
てくる。
菜音「ちょっとぉ、これ、どうなってるの?」
私 「ボクにもわからないよ。そもそも、菜音が始めたことじゃないか!
なんで、こんなことをしでかしたんだよ!」
菜音「知らないわよ! 私の意志じゃないわよ! 誰かが操ってるのよ!
ちょっと、なんとかしてよ!」
私 「どうにも・・・こうにも・・・。」
私と菜音の上体は、くねくねと動きながら、お互い絡み合っていく。
やがて、私と菜音の顔が近づき、熱い口づけをした。
そして・・・。
私 「あなたにお願いがあるのですが・・・。
そう、このくだらない人形劇を見ているあなたですよ。」
・・・・
人形の『私』が、私に話しかけてきた。
そう、私は、このなんとも言えない人形劇を見ていたのである。
ということは、話しかけてきたのは、私の人形を操っていた人形使いか・・・。
人形使いが、『私』の人形を操りながら話しかけてくる。
「もう、いい加減疲れましたよ。
このしょうもない劇をね、何年も何年も繰り返しているんです。」
「なかなか、面白かった・・・と思うよ。」
人形使いは、今度は『菜音』の人形を操り始める。
「フン、いい加減なことを言わないでちょうだい。
この劇場を御覧なさいな。あんたしかいないじゃない。
明日になれば、誰もいないわ。
わたしはね、だぁれも見ていないのに、この劇を上演しないといけないのよ!
ああ、何という・・・孤独。」
人形使いは、『私』の人形を操り、話を続ける。
「まるで、ボク自身が、自動人形みたいなのです。
お客さん、お願いしますよ。ボクを止めてください。
ボクの背中には、ボタンが二つあるはずなんです。
でも、自分で押すことが出来ない。場所がわからないから。」
私は、彼の背後に回り、彼の服をまくりあげた。
彼の背中を見ると・・・なるほど、確かに二つのボタンがついている。
浅い穴が二つあり、その穴の奥にボタンが見える。
先端がとがったもので、二つ同時にボタンを押す必要があるように思われた。
「ボタンを二つ見つけた。何か先が尖ったものはないかい?」
「ああ、ありますよ。これでいいかな・・・。」
私は、彼からボールペンを二本受け取ると、それでボタンを押してやった。
「ああ、ありがとう。お客さん。自分が止まっていくのがわかりますよ。
これで、やっと・・・くだらないことから解放されます。」
彼の動きは、完全に止まったようだった。
そして、その顔は穏やかだった・・・。
そこで目が覚めた。
アタマがぼんやりしていた。
思ったよりも眠れなかったのかもしれない。
この頃、変な夢を見すぎているせいだろうか・・・。
さきほど見た夢の人形使いの言葉を思い出す。
「疲れました・・・。」
そうだな・・・俺も・・・もう、変な夢を見るのに、厭き厭きしてしまった。
なにせ、五十五夜も・・・くだらない夢を見続けたんだ・・・もう、十分だよな。
私は、夢で見た人形使いの背中を思い出しながら、シャツの中に手を突っ込み、自分の背中を慎重にまさぐった。
おっ・・・まさかと思っていたが・・・あった、あった。
私は起き上がると、ボールペンを二本取ってきて、鼻唄まじりにシャツを脱ぐ。
そして、自分の背中の二つの穴にボールペンのペン先を突っ込むと、同時にぐっと押し込んだ。
アイタっ・・・。
(完)
変夢奇譚 ~くだらない夢のよせ集め~ @Ak_MoriMori
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