第37夜 報告書 (約2700字)
変な夢を見た。
私は、PCの前に座り、食い入るように画面を見つめている。
どうやら、ある小説投稿サイトに投稿された小説を読んでいるらしい。
・・・・
私が、それを見つけたのは、たまたまだった。
この小説投稿サイトを物色しているとき、それを見つけたのだ。
それは、『報告書』という名の小説で、○○というアカウント名の者が
書いたものだった(アカウント名は、念のため、伏せさせて頂く)。
『報告書』は、変わった小説であった。いや、実際は、小説ではない。
『報告書』は、名前の通り、報告書の形式をとっているのである。
『報告書』の章は、常に一章のみ。章の名前は、公開日の翌日だ。
つまり、「X年○月1日」に公開されたとしたら、「X年○月2日」が、章の名前
になる。そして、過去に公開されていた章は、非公開にされるようだ。
いや、もしかしたら、すべて書き直して、更新しているのかもしれない。
『報告書』は、以下の要素で構成されている。
・事件または事故の名前
【事件・事故】の項目のあとに、
○○事件、○○事故のような感じで、記述されている。
・上記の事件または事故による死亡者の名前
【死亡者】の項目のあとに、
上記の事件または事故による死亡者の名前と性別、年齢が記述されている。
『報告書』に記載される死亡者は、私が住んでいる日本以外の国も対象となってい
るようだった。そのため、文字数は、かなりの量になっている。
つまり、公開日の翌日の世界の事件・事故の死亡者の『報告書』の形を取ってい
るわけだ。そのため、読んだところで、とりたてて、面白いところもない。
だが、私は、なんとなく気になり、毎日、ざっくり目を通している。
私が、気づいたのは、たまたまだった。
ある日、『報告書』を見ていた時、私の知っている名前が出てきたのだ。
それは、私の同僚のAだった。
『報告書』によれば、Aは、交通事故により、死亡するらしい。
これを見て、不謹慎ながら、
「へぇー、これ、本当になったら、すげえな」と、心の中で思ったのであった。
その翌日、私とAの二人は、得意先を回った。
Aが、別の支社に転勤することになったため、私が、彼の担当地域を引き継ぐこ
とになったのだ。私たちは、ひととおり、得意先を回り終え、会社に直帰連絡を入
れると、飲み屋に直行した。Aの送迎会のつもりだった。
この日は、週末だったため、私たちは、ちょっと羽目をはずしてしまった。
私は、ほろ酔い程度だったが、Aは、泥酔してしまった。しかたなく、私は、
Aを彼の家へ送り届けることにした。
その帰路の途中で、それは起きてしまった。
突然、泥酔したAが、私の制止を押しのけ、車道に飛び出してしまったのだ。
車が、猛スピードで走ってくる。けたたましい音がし、Aは車にひかれた。
私は、妙に冷静だった。酒のせいだったのかもしれない。
「よかったな・・・。引き継ぎが、終わってて・・・。」と、ひとりつぶやき、
なんとなく、腕時計を確認してみた。デジタル表示は【23:57】だった。
あとのことは、よく覚えていない・・・。
あれから、私は、『報告書』の内容に心奪われるようになった。
これは、予言の書だ・・・ただ、不幸な予言ではあるが・・・。
いつのまにか、私は、『報告書』をコピー&ペーストし、翌日の事件・事故の死
亡者らと照らし合わせるようになっていた。
私の確認した限りでは、その的中率は、100%だった。
普通であれば、気持ち悪さを感じて、見るのをやめるだろう。
だが、私は、なぜか、『報告書』を見て、検証する作業にのめりこんでいった。
ところが、ある日のこと
ついに、この作業の終わりの時を迎えることとなった。
その日、『報告書』を見た時、おかしなことに、真っ先に気づいた。
いつもならば、一章しかない『報告書』の章が、複数あるのだ。
いつもと、形式も異なっている。
翌日の日づけのあとに、国名がある。そして、さらに番号・・・。
【X年○月△日-日本-1】のような感じで、章が複数あるのだ。
私は、とりあえず、【X年○月△日-日本-1】の章を読むことにした。
内容は、いつも通りの記載だった。だが、ひとつの事件が目を引いた。
【事件・事故】 衝突事故
【死亡者】 ・・・・・・
この【衝突事故】の死亡者の数が、
私は、いったん、この章を見るのをやめ、他の国の章を見てみることにした。
すると、その章にも【衝突事故】がある。
私は、【衝突事故】だけに焦点をあて、すべての章を確認することにした。
思った通り、すべての章に【衝突事故】は存在した。
そして、その死亡者数が、やはり、半端ではない。
私は、なぜ、章が複数あるのかも理解できた。
多すぎるのだ。死亡者が・・・。
だから、複数にわけて記載しているのだ。
きっと・・・この【衝突事故】は・・・地球規模なのだ・・・。
私は、急に心配になった。もしかしたら・・・と、嫌な予感がした。
あらためて、【X年○月△日-日本-○】の【衝突事故】の死亡者を確認する。
あいうえお順に並んでいるので、私の名前の五十音を探してみる。
複数の章のすべてを確認し、一名一名、丹念に調べた。
私の名前は・・・そこには、なかった。
良かった・・・私は、少なくとも、この事故から生き残ることができる。
たとえ、大勢が死のうとも、私は・・・生き残るのだ。
不謹慎だなと思いつつも、私は、『選ばれし者』なのだと思った。
私は、妙に気持ちが高揚していた。
『選ばれし者』という言葉が、ずっと、頭の中を駆け巡っていた。
素晴らしいことだと思った。
私は、生き残る。そして、他の人間達も・・わずかかもしれないが、生き残るの
であろう。私たちは、協力し合い、新しい世界を作り上げる。
そうだ・・・我々が、新しい世界を導くのだ!
そんなことを考え、祝杯をあげるかのように酒をあおると、私は、ベッドに潜り
込み、眠りについた。
・・・・
朝、目覚めると、テレビをつけ、朝食の支度を始めた。
その時、ニュース番組が始まった。
テレビに映し出された女性が、はちきれんばかりの笑顔で言う。
「皆さん、おはようございます。滅亡予報の時間です。
本日、超巨大隕石に押しつぶされ、地球は滅亡するでしょう・・・。
皆さん、よい一日を!」
私は、動きを止め、テレビを見つめていた。
今の女性の言葉が、信じられなかった。
滅亡・・・超巨大隕石に押しつぶされ、地球は滅亡すると言った・・・。
それは、地球がなくなることを意味するのでないだろうか?
私は・・・『選ばれし者』・・・地球がなくなった後でも・・・生き残る者。
それは、果たして、素晴らしいことなのだろうか?
そこで目が覚めた、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。